『転スラ』アプリ&アニメプロデューサー陣+主演声優・岡咲美保さんに聞くこだわりと魅力【前編】

『転生したらスライムだった件』のアプリ『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』のプロデューサーと、アニメ版『転スラ』のプロデューサー、リムル役を務める声優の岡咲美保さんにインタビュー。作品に込めたこだわりと『転スラ』愛を前後編に渡ってお届けします。

書籍化やアニメ化など多彩に展開されている伏瀬氏の『転生したらスライムだった件』(以下、『転スラ』)。 関連書籍を含めたシリーズ累計発行部数は2021年9月時点で2700万部突破しており、2022年秋には劇場版『転スラ』の公開も予定しております。

このように多彩な展開をし続けている『転スラ』のスマートフォン向けアプリ『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』(以下、『まおりゅう』)がリリースされました。

『まおりゅう』ではボイス付きでアニメのストーリーを追体験できます。さらに原作者の伏瀬氏による監修を受けたオリジナルストーリーも展開。小説版『転スラ』で挿絵を担当したみっつばー氏原案のオリジナルキャラクターも登場するなど、原作ファンにとっても注目の要素が用意されています。

『転スラ』のなかで主人公のリムルが築いた“ジュラ・テンペスト連邦国(魔国連邦)”(以下、テンペスト)をプレイヤーの手で作り上げることができる“建国システム”も実装されており、プレイヤーは自ら作り上げた国に降り立ち、仲間たちとの会話も楽しめます。

戦闘では3Dで再現された個性豊かなキャラクターたちがスキルを駆使したアクションを見せ、“捕食クエスト”では敵を捕食してスキルを獲得することでキャラクターを強化することができるなど、『転スラ』に欠かせない要素を揃えたアプリゲームです。

今回は、本作のプロデューサー・大西清太郎さんから『まおりゅう』に込めたこだわりについて語っていただくとともに、アニメ版『転スラ』のプロデューサー・杉本紳朗さん、主人公・リムル役を務める声優の岡咲美保さんにアニメを作り上げるうえでの思いを、そして3名が考える『転スラ』の魅力を前後編に渡って伺います。

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岡咲 美保

『転スラ』主人公・リムル役。2017年にデビューし、翌年に『転スラ』のリムル役にて初主演を務める。複数の作品でキャラクターソングもリリースしている。

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大西 清太郎

『まおりゅう』プロデューサー。バンダイで男児向け玩具の開発に携わったのち、バンダイナムコエンターテインメントにて『まおりゅう』のプロデュースを手がける。

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杉本 紳朗

バンダイナムコアーツ所属。テレビアニメ『転スラ』プロデューサー。他プロデューサーとしての参加作品に『A.I.C.O. Incarnation』などがある。

2年以上かかった『まおりゅう』リリースまでの経緯

――まずは、『まおりゅう』の開発経緯を教えてください。

大西:私は元々バンダイで男の子向けの玩具を開発していたのですが、その後、バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)に出向しました。

当時は2年ほどしたらバンダイに戻る予定だったので、せっかくBNEに来たのだから、何かひとつ自分で企画を考えてゲーム開発に携わりたいなと思ったんです。

――その時から『転スラ』の作品を作りたいと考えられていたのですか?

大西:ちょうどそれぐらいの時に、『転スラ』のWeb版を読んでいたんです。読んでいるうちに作品がすごく好きになって、関連商品もいろいろと買っていたら、ちょうどアニメが始まったんですよね。

その時に企画会議のタイミングがありましたので、『転スラ』の企画を出してみたところ、企画会議が通り、どんどん進めることが出来ました!出向期間のあいだに開発を終えられるなと考えていたのですが……。

『まおりゅう』プロデューサー 大西清太郎さん
『まおりゅう』プロデューサー 大西清太郎さん

――そうはならなかった。

大西:開発を進めるなかで、サービスインまで想定よりも開発期間が必要なことが分かり、出向を1年伸ばしてもらったのですが、そこから1年経っても完成しなかったんです(笑)。やっぱりユーザーに楽しんでいただくために、クオリティにこだわると、それだけ時間がかかってしまうんですよね。

でもそうなると、出向期間を再度伸ばすわけにもいかなくて、バンダイに戻るか、BNEに移るかの2択をするべきタイミングになりました。

『まおりゅう』は自分で立ち上げたのもあって思い入れがあったので、ならばこのままBNEに“転生”してしまえ、と思って(笑)。なので2021年4月からBNEに転籍となって、所属する会社も変わっているんです。

――転籍までしてしまうのはすごいですね。『まおりゅう』を開発するにあたって、大西さんがもっともこだわったのはどんな部分ですか?

大西:一番こだわったのは、“異世界に行った気分になれる”ことです。『まおりゅう』では、一般的にイメージされるログイン画面を出すのではなく、ログインしたらまずは本当に町に降り立つというステップを踏ませていただいています。

『まおりゅう』のログイン画面
『まおりゅう』のログイン画面

――文字どおり『転スラ』の世界に降り立つわけですね。

大西:そうです。町の作り込みを丁寧にしているので、その関係でロード時間にも影響が出てしまい、一時は町に降り立つのを止めようかという話も出ました。

それでも、やはり異世界に行った気持ちになるために町に降り立つ要素は外せないと思って、技術的な部分でロード時間を短縮できるように開発チーム一丸となって検討していきました。

それ以外の部分でも、建国システムを通しての国の発展や、捕食クエストを通してのスキルの強化など、原作の『転スラ』のなかでリムルが経験したことを、ユーザーがすべて体験できるようにしているのは、こだわっている部分ですね。

見る側の想像の幅を広げられるのがアニメーションの魅力

――主人公であるリムルの声を演じられている岡咲さんにとって、『転スラ』という作品にはどのような思い入れがありますか?

岡咲:私をリムル役に選んでいただいたと最初にお聞きした時は、あまりにもすごいことすぎて、すぐには実感が湧かなかったんです。大西Pが『まおりゅう』の開発で人生が変わったというお話をされていましたけど、私も『転スラ』に出会って自分の人生が変わりました。

出会ったころは私も声優2年目になったぐらいで右も左もわからず、周りにもご迷惑をかけていましたが、おかげで今では自分の中にリムルの居場所みたいなものが築けたと思います。

これからもリムルといろんな思い出が作れるのかな、みたいな期待も自分の中でありますね。本当に、出会えたことに感謝です。

『転スラ』主人公・リムル役 声優 岡咲 美保さん
『転スラ』主人公・リムル役 声優 岡咲 美保さん

――アニメ版『転スラ』のプロデューサーである杉本さんにもお話を伺いたいと思います。アニメだからこそ表現できる『転スラ』の魅力とはなんでしょうか?

杉本:やっぱり、声が付くというのが強いですよね。コミックや小説を読んでいる時は自分の頭の中で再生するしかないと思うんですけど、そこに声優さんの演技が乗ると表現できることがものすごく広がるじゃないですか。それに、菊地康仁監督(第1期)、中山敦史監督(第2期)をはじめとするさまざまな方の力によって絵に動きが出て、スライムはこうやって動くんだ、みたいな現実には無い部分も表現できるようになるのも大きいと思います。

そういう部分も含めて、見る側の想像する幅を広げてあげられるのが、アニメーションの魅力かなと。

テレビアニメ『転スラ』プロデューサー 杉本 紳朗さん
テレビアニメ『転スラ』プロデューサー 杉本 紳朗さん

――アニメ版『転スラ』に関して、第1期と第2期で変えずに貫いた点、逆に第2期で挑戦した点があれば教えてください。

杉本:ブレさせずにいた点と挑戦した点がほぼ一緒になるんですけど、TVアニメの30分というフォーマットに収めるためにカットする部分もあるなかで、小説や漫画のいい部分を汲んで原作のストーリーラインをしっかり見せることですね。

――それが挑戦にもつながるというのはどういうことでしょう?

杉本:第2期の第2部をご覧いただいた方には分かると思うのですが、6話連続で会議をしているアニメってそうそうないじゃないですか(笑)。

アニメならアクションシーンを見せてほしい、という声が多いとは思いつつも、その会議が大事で、だからこそ、その先が盛り上がるというのはわかっていたので、そういう意味で、あの6週はアニメの見せ方としてはチャレンジでした。

――大西さんと杉本さんは同期とのことですが、そんな杉本さんの手掛けたアニメ版『転スラ』の魅力はどんな部分にあると思いますか?

大西:アニメの魅力は……、すべてですかね(笑)。

岡咲:完全にファン目線ですね(笑)。

3名の話し合っている様子

主役声優、アニメP、アプリPが語る、それぞれの思う『転スラ』の魅力

――お三方はそれぞれ異なるかたちで『転スラ』に関わられていますが、『転スラ』という作品の魅力はなんだと思いますか?

大西:先ほども少しお話ししたんですけど、やっぱり数ある異世界作品のなかでも、ものすごく行きたくなる異世界だと思うんですよね。

リムルを中心とした仲間たちもすごく魅力的なので、リムルが仲間とワチャワチャしているのをずっと見ていたいな、という気持ちになるのが、一番の魅力になるかなと思います。だからこそ、町に降り立つ要素は外せませんでした。

岡咲:リムル役としてさまざまな『転スラ』作品に触れさせていただくなかで感じるのは、作品を愛してくださる方々の幅の広さです。小さい子から年配の方まで、物語を愛してくださっているんです。

それってやっぱり、笑えるところも、泣けるところも、かっこいい戦闘シーンもあって、好きになれる部分がたくさんあるからだと思うんですよ。キャラクターもたくさん登場するから、それぞれに誰が好きという意見があって、それを共有するのも楽しいなと思います。

本当にいろいろな魅力があって、ずっとこの『転スラ』の沼に浸かっていたいなと思える、『転スラ』だけで人生がすごく楽しくなるような、そんな作品です。

杉本:この質問はいつもむずかしいなと思うのですが、単純に「おもしろいこと」が魅力ですよね。

プロデューサーがこんなことを言うと怒られそうですが、頭を空っぽにして見られるというのは、それだけストレスがなくて、物語が入ってきやすい。気持ちよく読める、気持ちよく見られるっていうことだと思うんです。そこが『転スラ』のいいところなのかな、と。

3名の話し合っている様子

――ひとりを選ぶのはむずかしいと思うのですが、皆さんのお気に入りのキャラクターを教えてください。

岡咲:私はリムル役なのもあって、これまではリムル以外から選ぼうという頭で、この質問にはずっとゴブタと答えてきたんです。

ただ、アニメの第2期でいろいろなことがあるなかで、リムルの人格がすごく見えた時に、やっぱり本当格好よくて、素敵な盟主だなと思って、リムルって答えてもいいかなと思ったんです。なので、今回はリムルでお願いします。

リムル
リムル

大西:僕はWEB版の頃からガビルがすごく好きなんですよね。最初は傲慢さが垣間見えるキャラクターだったガビルがどんどん良い奴になって、果てには幹部にまで昇格して、ゴブタとはまた違ったムードメーカーみたいな一面も見られるようになるのが好きなんです。

登場するたびにワクワクするというか、自分の中でニンマリしますね。「がんばれ、ガビルさま〜!」みたいな、ガビルコールを心の中でずっとしています(笑)。すごく素敵なキャラクターだと思いますね。

ガビル
ガビル

杉本:好きなキャラクターに関しては、僕は圧倒的にディアブロですね。ディアブロを出すために第1期の24話を作っているぐらいなので。

ディアブロ
ディアブロ

大西:あれはそういうことだったんですね。

杉本:最初は、全24話で小説6巻分くらい、クレイマンを倒すところまで描こうと思っていたんです。でもそのせいで駆け足になってしまったら、『転スラ』の魅力を損なってしまうな、と。

シナリオ会議が進むにつれて伏瀬先生や制作スタッフからは「6巻までは無理だよ」というメッセージは受け取っていたので、それなら第2期を作ればいいじゃないか、と決心して、先生も含めて製作委員会と話をしました。ただ、どうしてもディアブロは出したいと言っていたら、先生が「駆け足でやらない代わりに、24話でオリジナルストーリーを書き下ろしますよ」と言ってくださって、あの24話ができたんです。

結果として第1期はシズ編になったので、最終的に構成としてはすごくいいものになったと思うんですけど、その背景にはただただディアブロが好きという気持ちがありました(笑)。

『まおりゅう』に込められた『転スラ』愛や、オリジナルキャラクターやストーリーといったアプリならではの魅力について伺ったインタビュー後編はこちら↓

アプリゲーム「転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚」が気になった方はこちらをチェック! 

©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会
©柴・伏瀬・講談社/転スラ日記製作委員会
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
※ゲーム画面は開発中のものです。

村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。