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バンダイナムコ知新「第8回 第1章 ナムコサウンドの足跡をたどる【後編】」慶野由利子氏、小沢純子氏、中潟憲雄氏、大久保博氏 インタビュー

アーケード基板に採用された先進的な「任意波形発生回路」やそれを使いこなした独特の効果音などのテクニックが明らかになった前編に引き続き、後編では、アーケードのみならず家庭用ゲーム機にも広がっていく「ナムコサウンド」の魅力とその秘密に迫ります。

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慶野 由利子

1981年にナムコ初のサウンド専門クリエイターとして入社。1982年にリリースされた『ディグダグ』のサウンドにはじまり、『ゼビウス』『ドラゴンバスター』など数々のアーケードゲームのサウンドを担当。現在、伝統楽器のための作品や映像とのコラボレーションなど、ジャンルに囚われない音創りで独自の創作活動を展開中。

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小沢 純子

1983年、ナムコに入社。代表作は『ギャプラス』『ドルアーガの塔』『トイポップ』『スカイキッド』など、多くのサウンドを担当。現在は、フリーの作曲・演奏家として活動する。

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中潟 憲雄

1984年、ナムコに入社。ロボットバンド『ピクパク』の音楽を担当した後、ゲーム開発部署に異動し、『ファミリースタジアム』『モトス』『サンダーセプター』等に携わる。 その後社内に源平プロダクションを興し『源平討魔伝』、『ベラボーマン』、『未来忍者』をリリース、『未来忍者』は映画も制作した。現在は、レコード制作やライブ活動など幅広く活動。

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大久保 博

1994年、ナムコに入社。代表作は『リッジレーサー』シリーズ、『エースコンバット』シリーズ、『鉄拳』シリーズなど。バンダイナムコスタジオサウンドチームを経て、現在はバンダイナムコ研究所に所属し、新技術「BanaDIVE™AX」の開発等に携わる。

ゲームに特化したナムコのサウンドシステムの制御思想

小沢:中潟さんが(ゲーム開発チームに)入ってきたのは、ちょうどファミコン(ファミリーコンピュータ)が始まったころなんです。

中潟:「namcot」は超大変だったね。

★ナムコの家庭用ゲーム機向けタイトルの広がりと「namcot」ブランド

このころから、ナムコは『パックマン』をはじめとしたアーケードゲームのタイトルを家庭でも楽しめるよう家庭用ゲーム機用のソフトウェアカートリッジに移植し、「namcot」ブランドとして販売するようになりました。ホビーパソコン「MSX」に向けた『ギャラクシアン』が第1弾として1984年に発売され、その後、 任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)に参入しました。

家庭用ゲーム機向けビジネスの重要度が増していくなか、社内の開発チームは「アーケードゲーム向けタイトル」と「家庭用ゲーム機向けタイトル」に担当が分けられ、サウンド担当も部署が分割されることになりますが、それはもう少し先のお話です。

――まだアーケードゲームと家庭用ゲーム機でチーム分けなどされていない時期のお話なんですね。

小沢純子さん
小沢純子さん

小沢:アーケードの『パックマン』のサウンドをファミコンに移植しようとしたら、スタート音(スタートミュージック)とマンガミュージック(※1)しか楽譜になっていなくて、ほかの音はドレミに対応していない、別のプログラムで書かれていました。それでファミコンのサウンドデータを作るために、まず『パックマン』のプログラムを読まなければならなくなりました。

※1 マンガミュージック:パックマンのステージ間に流れるデモ、コーヒーブレイクと呼ばれるシーンで流れるBGMのことを当時はマンガミュージックと呼んでいた。

小沢:それまでひとりでアーケードとファミコンをやっていたのですが、ファミコンもまだ試行錯誤しながらやらなくちゃいけなくて。なので、私はファミコンの方をやることになり、(サウンド担当になったばかりの)中潟さんのサウンドでの初仕事はアーケードをやってもらうことになりました。

あの時期、MSX、ファミコン、PCエンジンも始まって、音源がそれぞれ違うから対応するのも大変だったな。

中潟:そのうちに、今度は『サンダーセプター』にFM音源(YM2151)(※2)を載せるという話になって……。

※2 FM音源:周波数変調(Frequency Modulation)を応用した音源。ヤマハが1983年に発売したキーボード「DX7」で広く知られるようになり、1980年代中盤からアーケードゲーム機にも搭載されて普及し、後には携帯電話にも搭載されるようになった。それまでは難しかった、ベルなどの金属的な音色の再現が可能になったことが特長。YM2151は4オペレーター(合成機)を持つ8チャンネルステレオ出力が可能な当時としては豪華な音源で、多数のアーケードゲーム基板に搭載されている。

小沢:アーケードの方も変わったよね。ハードウェア担当がうれしそうに「新しいチップできたから載せといたよ」って言ってくるんだけど、こちらはサウンドドライバー(※3)から開発環境から、全部作らなきゃいけなくなるので「締め切りいつなのよ……」ってことになる。

※3 サウンドドライバー:音源チップなどのハードウェアを動作させるために作られるサウンド制御用のプログラム。サウンドクリエイターが意図する演出を実現するためには、ドライバープログラムの設計や思想、処理の軽さなどが重要となる。演奏表現のコマンド化などでデータ量を減らすなどの工夫もされていました。

中潟:そうそうそう(笑)。『サンダーセプター』は最初C30で作っていたんだけど、途中から「FM音源を載せるんだ」って田城チーフ(※4)から話があって。「え! じゃあこれ全部作り直しなんですか?」みたいな話になって、また大変な目に遭って(笑)。

※4 田城幸一:プログラマー、ハードウェア設計担当として『ギャラクシアン』『ラリーX』『ポールポジション』などを担当。

小沢:もう、音を出すまでが大変なことになっちゃうんです。

中潟:本当にあの当時は大変でした。もう、毎日がチャレンジなんですよ。

――当時はどのようなプログラムでサウンドを鳴らしていたのですか?

大久保: 我々がナムコフォーマットと呼んでいる、あの書式を使うようになったのはいつからですか?

小沢:これは石村さん(※5)に訊きたかったな……。『パックマン』は甲斐さん(※6)が作曲されたものが曲になっていたけど。

※5 石村繁一:ナムコ(当時)初のアーケードビデオゲーム『ジービー』から、『ギャラクシアン』『パックマン』のハードウェアやソフトを担当。『パックマン』では効果音も手掛けた。後にファミリーコンピュータ(当時)版『パックマン』などの開発に関わり、バンク切り替えに対応したカスタムチップ「ナムコ163」も手がける。
※6 甲斐敏夫:『30test』などさまざまなエレメカの立体造形デザインを担当。デザイン課に所属しながら、『パックマン』『ラリーX』の作曲も手掛けた。ナムコ(当時)のロゴデザインも担当。

大久保:『ジービー』からナムコフォーマットで書かれていたんですか?

小沢:『ジービー』はまだないのでは? 私、まだ入社してないけど(笑)。楽譜を入力する形がどのタイトルからか確かめたいですね。『ギャラクシアン』はオープニングの曲があったじゃないですか。どんな形で書かれていたのか興味ありますね。

大久保:小沢さんたちがナムコフォーマットを触り始めたころには、シーケンスの発音優先度など、ゲームのサウンドドライバーとしての一般的な機能は実装されていたんですか?

小沢:できていましたよ。最初のナムコのサウンドドライバーから、任意波形発生回路まで石村さんが手掛けられていたんじゃないかな。石村さんはどういう発想から作られたのか、ヒントになるものがあったのかとか、すごく訊いてみたいですね。ファミコンの『パックマン』のサウンドを担当した時、アーケード版の『パックマン』のサウンドドライバーリストをもらって確認したところ、効果音用のドライバーと、ドレミのように楽譜のデータから音を鳴らすドライバーとの二つのタイプがありました。すごくシンプルな仕様なのですが、この二つのタイプを合わせて進化させていったものが、ナムコフォーマットになったんだなと感じさせる原点のようなものだったので、すごく興奮しました。

「任意波形発生回路」と「ナムコフォーマット」の成り立ちについて、当時『パックマン』の「任意波形発生回路」の回路設計を担当された石村繁一さんに後日別途取材しました。

――石村さんが『ギャラクシアン』や『パックマン』でサウンド回路とともにサウンドの実装を行ったとお伺いしております。「任意波形発生回路」はPCMの簡略化的発想だと別のインタビューで伺っておりますが、発想の原点は別の技術情報からだったのでしょうか?

石村:音色が波形で決まることは既知でした。それまでのゲーム機の音は矩形波がほとんどで、音色が単調でした。より豊かな音色を求めて「波形メモリ」から波形を再生する方法を模索していました。

しかし、ゲーム映像を生成する回路にも同様のことが言えますが、豊かな表現力→回路規模の増大→コストアップ→ゲームの面白さにどこまで貢献? というジレンマがつきまといます。そんななか「任意波形発生回路」は3音同時発生させた音を”時分割ミキシング”するというアイデアで、回路規模の増大やコストアップを回避することができたので、採用に踏み切りました。

――その際に「ナムコフォーマット」的なものをすでに実装されていたのでしょうか?

石村:私はV3『パックマン』(※7)において「任意波形発生回路」を開発設計し、最初のアプリケーションとしてパックマンの効果音と音楽を搭載しましたが、私が「任意波形発生回路」に関して行ったことはここまでです。

「任意波形発生回路」はV4『ラリーX』、V5『ミニゴルフ』(開発中止)、V6『ポールポジション』にも同じ回路が使用されていますが、それらの効果音や音楽に私は一切関わっていません。

音響効果に関しては大野木宜幸さんや慶野由利子さんが、また、「任意波形発生回路」の発展型の開発設計に関しては小川徹さんが担当されています。

V7『ギャラガ』以降は、小川徹さんの開発設計による、1チップに集約されるとともに高機能化された新たな「任意波形発生回路」が使用されています。お尋ねのナムコフォーマット等はこのV7『ギャラガ』以降の話ではないでしょうか。(※8)

※7 【補足】V表記は「開発コード名」を指す。開発段階で1タイトルごとに設けられていた。
※8 【補足】後日、慶野さんからV6『ポールポジション』でも、ご自身が担当された1位ネームエントリーミュージックにおいてナムコフォーマットが使われていたというお話をお伺いすることができました。なお、V6『ポールポジション』は非常に時間をかけて制作されており、公開は1981年のV7『ギャラガ』より後の1982年になります。

★当時のサウンドドライバシステムとデータ記述書式

<データ記述書式について>

この当時に用いられていたデータ記述書式は、ドライバーへ読み込ませるBGMなどの音楽や効果音の演奏情報などを記述したテキストが使われていました(メインプログラムで制御する爆発音は除く)。下図に示されているものはその一例です。

曲ごとにテンポを設定し、各曲の1声部ごとに冒頭でチャンネル、音色、エンベロープ、スケール、ゲイン(最大音量)を設定した上で、「音名+オクターブ,長さ」で記されています。1行が五線譜上の1音符に相当し、時間軸は上から下へ流れていく形式となっています。

テンポは、音の最小単位が60分の何秒であるかを示す数値で、テンポ4なら音の最小単位が60分の4秒であることを示します。『ディグダグ』ではゲーム中にここを書き換えることで歩行音がテンポアップしました。

1行ずつ並べる音符に相当するデータの「長さ」は、最小単位の何個分かを示します。つまりテンポ×長さ/60秒が1音符の長さになります。テンポが4で長さが3なら12/60秒になります。

スケールは12平均律をピッチをずらして3パターン用意していました。これはデチューンに活用されましたが、もともと、複数のチャンネルで同じ波形で同じ周波数で発音した場合に、位相が真逆になると音が消える、という現象を防ぐためのものでした。

ゲインは最大音量を指定するだけで、エンベロープがそれにしたがって変化する(音量変化の角度を変える)ことはできません。すなわち、エンベロープが16、15、14、13、13、13、……だった場合、ゲインを10に指定したら10、9、8、7、7、7、……となります。

「音名+オクターブ」というのは即ち上位4bitで音名(ドレミの音階の何の音か)を示し、下位4bitで何オクターブ目かを示しています。『フォゾン』で多用されているような無調の音では、音名で書くよりも半音階ずつのデータの方が解りやすいため、場合に応じて「24,2」「34,2」「44,2」といったような書き方も併用して使われていました。

『モトス』より「インゲームミュージック」

データ上でテンポ、チャンネル、音色、エンベロープ、スケール、ゲインを設定する位置は、サウンドドライバーのバージョンにより、いくつか種類がありました。

<発音の方法について>

複数回の命令を受けた場合、
1)曲の終わりまで鳴り終わってから2回目を冒頭から鳴らす「ワンショット・タイプ」(ワンショット)
2)命令を受けたらその都度、冒頭から曲を鳴らす「リトリガラブル・タイプ」(トリガー)
の2種類がありました。

例えば♪ピロリン♪という音があったとすると、
ワンショットで3回続けて命令が来たら、♪ピロリンピロリンピロリン♪
トリガーで3回続けて命令が来たら、そのタイミングに応じて、♪ピロリピロリピロリン♪、♪ピロピロピロリン♪、♪ピーーロリン♪などとなります。

クレジット音はワンショットで発音しています。

シューティングゲームで弾を打つ音はすべてトリガーでした。『バラデューク』での「ジェット音」「下降音」は、移動し続けている間は連続的に命令を受けるようメインプログラムでフラグを立て続けてもらい、トリガーで発音しています。
FM音源以降は、すべてリトリガラブル・タイプになり、ワンショットでの発音ができなくなりました。

<発音優先順位について>

上記のように記述された曲データ(BGMや効果音)ごとに発音優先度(同一のチャンネルに複数の発音の要求があった場合に、どの音を鳴らすか)が設定でき、優先順位の低い方からフラグの立っている音をすべて処理していくことで、優先順位の低いものは高いものに上書きされ、最終的に音のポートに書き込まれます。

こうすることで、例えば効果音を優先して鳴らしたい場合はそのデータの発音優先度を高く設定しておくことで、限られたチャンネル数の中でもBGMなどの音楽の演奏中に効果音も鳴る、という仕組みになっています。

*こちらの内容は、慶野由利子さんに監修していただきました。

大久保:発音の優先度指定はサウンドクリエイターに制御が任せられていたんですか?

小沢:そうです。

中潟:「効果音に何音使えるよ」っていう話もしていましたよね。僕はSE(効果音)にチャンネルが喰われる場合は、常にBGMはベースとドラム(リズム)が残る組み立てにしていました。

小沢:それも自分で決められました。BGMの中のどの音を消して効果音を乗せるか、というのもサウンドクリエイター側で組み立てていました。

慶野:常にパズルのように……。

大久保:(慶野さんが手掛けた)『パックランド』では、効果音によってはメロディとチャンネルが被っていて、効果音が鳴る時にはBGMがベースとリズム隊だけになるんですよね。効果音が鳴り終わるとメロディの音がすぐに復帰して鳴り始めるあたりはMIDI制御ではできない仕様なので、インタラクティブに特化したゲームならではのサウンドシステムが印象的でしたし、それをめちゃくちゃ使いこなしていましたよね。

慶野:飛行機が出てきてホッパーが出てきて……などなど何種類も出てくるから、すべての効果音を互いにマスクされることなく鳴らし、なおかつBGMも絶やさず鳴らすために、8チャンネルの中でやりくりして、ものによってはBGMのメロディラインをマスクしていたんです。

小沢:プレイステーション以降(CDからのストリーミング再生ができるようになり)BGMが消えることなく鳴りっぱなしになってからも、「わざとメロディを消す」といった演出上の効果は使いたかったですね。

慶野:ミュート(=無音)することで音が立つ、音が映えるってことがあるから。

中潟:本当にそうだね。

小沢:消す時もどれを削るのかによって演出が変わるので……。

大久保:今でいうダッキングとかサイドチェインの効果と一緒で、聴かせたい音を際立たせていたわけですもんね。

先輩から伝授されたのは「『プレイヤーにとって重要な音』が大事な音」という教え

小沢:効果音を強調したいときに、BGMが中途半端に鳴っているくらいなら、全部ミュートしちゃえというとき、ありましたよね。BGMを全部消したかったから8音でエクステンド音(=プレイヤーが増える時の効果音)を作ったことがあります。ほかの音が全部消えるように。

中潟:エクステンド音やクレジット音では特に。

慶野:そうですね。

大久保:エクステンド音は『ディグダグ』『モトス』もたしか、他に鳴っている音を全部ミュートしていましたよね。

小沢:楽譜的には8音使っていないんですよ。だからデチューンやディレイ(=音をずらして重ねる)も使って8音にして消しちゃった。

中潟:クレジット音やエクステンド音はお客さんにとって一番重要な音です。クレジット音はお金を入れたか入れないかを知らせるための音。そこはいっぱい音を使ってゴージャスに。

小沢:私もそれは先輩から伝授されました。「一番大事な音はコインのクレジット音」だと。

中潟憲雄さん
中潟憲雄さん

大久保:クレジット音の中で思い入れのあるものはありましたか?

中潟:自分にとっては『源平討魔伝』のカラスの鳴き声、あれはたしかFM音源で作った音ですが、あの音は『源平』という世界観の中で、何かキッチュな、印象に残る音として、「荒涼とした死霊がうごめく世界の中で、カラスが鳴いたらすごくいいんじゃないか」と思って作りました。

「カラスの鳴き声って(FM音源で)どうやったら作れるんだろう?」とものすごく試行錯誤したんですよ。その結果があの音なんですけれど、けっこうカラスの声に聞こえますでしょ? あれは慶野さんが伝授してくださった1/60秒単位でめちゃくちゃ音を重ねて制御する技法を参考にして作りだした音です。あれが一番気に入っているかな。

小沢:クレジット音って、「ゲームを始めるときに一番最初に聞く音」だと思うので、私は「ゲームを象徴する音」、「世界観を象徴する音にしたい」という思いはありましたね。

中潟:しかも、ゲームセンターのいろんな音が混ざって鳴っている中でも「際立つ」、「立たせないといけない」という音ですからね。

慶野:そうですね。

小沢:プレイヤーにとって重要な音。「お金を入れてもらったらちゃんと答えてあげないとプレイヤーが不安になる」と言われました。「ちゃんと(クレジットが)入ったぞ」という音に、と。

大久保:『ゼビウス』のクレジット音は忘れられないですね。

中潟:あの衝撃的な……あれはなぜあの「ドキュン!」って音になったんですか?

慶野:あれは遠藤くん(※8)に「ちょうだい」って言われたから……。

※8 遠藤雅伸:1981年ナムコ入社。アーケード版『ゼビウス』のゲームデザイン、プログラム、グラフィック、『ドルアーガの塔』のゲームデザイン、グラフィックを担当した後、株式会社ゲームスタジオを設立し、独立。アーケード『イシターの復活』のゲームデザイン、グラフィック、ファミリーコンピュータ(当時)用『ファミリーサーキット』や『カイの冒険』のゲームデザイン、グラフィックなどを担当。東京工芸大学芸術学部 ゲーム学科教授、明治大学総合数理学部 客員教授も務めている。

一同:(笑)。

小沢:遠藤さんが気に入っていた音なんですね。

慶野:あのゲームは全部彼が気に入った音でできています(笑)。

――「ちょうだい」と言われたということは、先にあの音ができていたのですか?

慶野:『パック&パル』……だったか?

大久保:『スーパーパックマン』ですよね。「マンガミュージック(コーヒーブレイクBGM)」に似ている音が入っているなぁと思っていたんです(笑)。

慶野:『スーパーパックマン』でした。『パック&パル』と『スーパーパックマン』は並行して作っていて、その終わりごろに『ゼビウス』にとりかかっていたと思います。まだ入社1年目のころでした。

移植作の制作で気づかされたアーケードの「ナムコ音源」の細やかな配慮

――小沢さんや中潟さんは、アーケード版『パックマン』などのゲームをファミコンや他の家庭用ゲーム機へ移植する際のサウンド移植も手掛けられたということですが、ナムコの任意波形音源で作られたアーケード版の音を移植する際、サウンドに関してはどんなことを意図して制作されていましたか?

小沢:ファミコンの移植、たくさんやりました。ファミコンの波形はもう決まっていた(※9)ので、アーケードの波形を移植するというよりは、三角波のところに何の音を持ってくるか、という感じで……。

※9 【補足】:ファミコンの音源は矩形波2チャンネル、三角波1チャンネルとノイズ、DPCMで構成されています。

――「ナムコらしい音」を再現することは意識されていたんですか?

小沢:「ナムコらしい音」という風には考えなくて、アーケードのイメージをなるべく壊さないようにと思っていたかな。

『スカイキッド』アーケード版
『スカイキッド』ファミコン版

中潟:「ナムコらしい音色」って僕が考えるに、デチューンの使い方かなと思うんですよね。同じ波形でも、ちょっとずらしてデチューン効果を出したりして…そうするとナムコっぽい感じに。

小沢:すごいね。3音(※10)のうち2音を使っちゃうの? 私はなかなかできなかった。効果音も出すし。

※10 【補足】ファミコンの音源は前述の通り5系統用意されていたが、初期は矩形波2チャンネル、三角波1チャンネルとノイズが主に使われていた。DPCMで音を鳴らすには大きなデータが必要かつ処理能力も必要となるため、ハードウェア解析と活用が進み大容量のROMが使用できるようになるまではあまり活用されていなかった。

中潟さんが担当した『バベルの塔』

中潟:僕なんか『源平討魔伝』はアーケード版はFM音源(YM2151)で好き勝手作ったのを、後からファミコンに移植するって話になって、「えー!」ってなって。あのときは苦労したね。ファミコンに落とす(※11)のは大変だったんです。『パックマン』は3音なので落とせるんだけど、アーケードで8音使えるようになったころのタイトルを移植するのはきつかった。「どの音を削る?」ってなって。

※11 落とす:ここではアーケード版からファミコン版へ移植することを指す。当時はアーケード基板のスペックが格段に高かったので、家庭用ゲーム機に移植するには、譜面にしても音数にしても削らなければならず、「落とす」(落とし込む)という表現をしていたとのこと。

慶野:初期のファミコン音源では、低音専用に用意されている三角波を高い音で使おうとすると、ピッチが不正確になりましたよね。私、『スターウォーズ』のオープニングの後半で音の厚みを出すためにフルートのイメージで主旋律の1オクターブ上に重ねてみたら、すっかり音がずれてしまって、使えませんでした。

小沢:三角波は1オクターブ低いから余計に目立ちましたね。ナムコ音源は周波数レジスタに大きな数値を書くほど高い音が出るのですが、ファミコン音源は逆に大きな数値を書くほど低音になります。小さな数値になると1の変化で大きく周波数が変わってしまうので、思い通りの周波数が作れなくなっていきますが、ナムコ音源はそれを目立たない低い音の方に持っていきました。ファミコンの高い音は味といえば味なんですけれどね。「ナムコ音源ってよく考えられているな」って改めて思いました。

エンジニアとクリエイターが近づいたからこそ生まれた「ナムコサウンド」

大久保:僕も入社してからフォーマットを触って知ったのですが、ナムコ音源とナムコフォーマットで表現できることって、普通のシンセやシーケンサーにはその機能がないんですよ。今でこそwwsie(※12)のようなゲームサウンドに特化したソリューションがありますが、当時から楽器としてもゲームサウンド開発環境としても良くできているなって。そこから生まれたサウンドがナムコのカラーにもなっていったと感じますね。

※12 wwsie:Audiokinetic社からリリースされているゲーム開発用インタラクティブサウンドエンジン。これまでアーティストとプログラマーの間で分業化されていたBGMや効果音実装のワークフローを改善し、アーティスト側が直接ゲーム内でサウンドを編集することを可能にしたミドルウェア(アプリケーションとOSの中間にあり、より複雑な動作を可能にするソフトウェア)。

大久保博さん
大久保博さん

小沢:ちょっと話が違っちゃうかもしれませんが、Kamata(※13)を使っていて、一つ「これが欲しかったのに(機能が)ないな」と思ったことがあって。

※13 Kamata:電子楽器メーカー「コルグ」のモバイル音楽制作アプリ「KORG Gadget」の1つとしてバンダイナムコスタジオのサウンドチームとのコラボレーションによって制作された、往年のビデオゲームサウンドを奏でられるシンセサイザー。大久保さんが開発プロデューサーとして携わっている。

例えば、曲によって四分音符と八分音符とかという音の長さが違う音符があるじゃないですか。でも音の長さが変わっても、データの音の長さを見てそこが終わりだとすると音量がゼロになるエンベロープがあるんです。それはVST(※14)じゃ絶対無理だろうなと思ったり。

※14 VST:Virtual Studio Technologyの略。DAW(Digital Audio Workstation=楽曲制作ソフトウェア)と外部ソフトの連携を行うプログラム規格のひとつ。この規格に沿って制作されたプラグインによってさまざまな音源やエフェクトを扱うことができる。

ナムコ音源は、同じCPUで楽曲データとハードの制御をしているからそれができたんだって思い出して。だから、Kamataでそれをやってよって言ってもできないだろうなと。あれがナムコ音源らしいんだよなって思いましたね。当時のナムコ音源(C15~30の世代)は8音だったからこれが便利な機能としてあって、Kamataはそれ以上音が出せるから問題ないのかもしれないけれど。音の長さをドライバー側が見られるので、次の音が立ちあがる前に鳴っている音が減衰していってぴったりに消えてくれる。そんな仕様があって……。

慶野:そうなんだ! それはMIDI(※15)じゃできない。

※15 MIDI:Musical Instrument Digital Interface。電子楽器の演奏データのデジタル伝送のための共通規格。電子楽器同士やコンピュータなどを接続し、同期するためなどに使われているが、現在ではDAW内部での制御にも使われている。

中潟:深いなあ……。

大久保:そういうのを含めて、ナムコフォーマットをMIDIでやろうとすると難しいんですよね。

小沢:(ナムコ音源は)マニアックでしたね。便利に使っていたけれど、今のシンセやソフトではできないことをやっていたなと思いましたね。

大久保:ですよね。Kamataを開発している時にもできるだけC30とナムコフォーマットで再現できることを実装していこうとプログラマーと思考錯誤して進めたのですが、仕様上再現できない機能はやっぱりあって、どう落とし込むかをいろいろ考えました。

――大久保さんはKamataの開発で改めてナムコの音源を調べなおして、音源の仕様やドライバーのフォーマットから、当時のナムコらしさに改めて触れたということなんですね。

大久保:エンジニアだけでも違ったと思うし、アーティストだけでもこうはならなくて、エンジニアとアーティストが一緒にやってこそ解決できる課題ってありますよね。それに近いというか、ナムコの音源と慶野さんたちの出会いはゲームのカルチャーを一歩先に進めた感じがしますよね。

慶野:そうなんです。エンジニアと一緒にやっていたんですよ。

大久保:プログラマーさんやエンジニアさんと、アーティストであるサウンドクリエイターがくっつくと、めっちゃすごいことになるという。

当時のゲーム業界はプログラマーさんが音を鳴らす部分も作っていたりしたと思うんですけど、そこで芸大に求人票を出したというのがナムコならではの判断だなと思うんですよね。

――ナムコという会社の中で、エンジニアとサウンドクリエイターの距離が近づいて、それまでになかった新しいものが生まれたというあの時代ならではのエピソードだと思います。

これからサウンドクリエイターを志す人に向けて

――名残惜しいのですが、そろそろお時間となりました。最後の質問になりますが、今、サウンドクリエイター、音に関わるお仕事をやりたいな、と思ってらっしゃる方にアドバイスといいますか、「こういうことを勉強しておいたほうがいいよ」といったものがありましたら、ぜひお伺いしたいのですか?

中潟:僕が言えることは、自分の音楽的な守備範囲をものすごく広げておく必要があると思うんですよ。「この人はこういう曲調の曲しか作れない」となっちゃうと、仕事が少なくなっちゃうんで。例えば、晴れてゲーム会社に入っても、ありとあらゆるテーマとジャンルがあって、どれに割り振られるかわからないですよね。最近、僕は仕事でいろんなジャンルの音楽を要求される場面があって、この歳になっていろんなジャンルの曲を聴き直しながら、再度音楽の勉強をしなきゃならない羽目になったので……。若いうちからいろんな音楽を聴いて下地を作り自分の引き出しを増やしておかないと、あっという間に枯渇して曲が作れなくなるよっていうことは1つあると思いますね。

慶野:本当におっしゃる通りだと思います。できるかぎり生の音楽を聴いてほしい。演奏家のことを知って、人が楽器にどう働きかけるとどう音が出るのかということを知ってほしい。あとは、音響学的な知識を持っているといいんではないかと思います。

慶野由利子さん
慶野由利子さん

大久保:今は1980年代当時とは全然違う作り方になっているんですけれど、先ほど話題にも出ていた「エンジニアとクリエイターが一緒に作り上げる現場」だったということが、ゲームというインタラクティブなコンテンツを作るうえでやはりすごく大切だなと思いましたし、そこは現在のバンダイナムコスタジオのサウンドセクションにも魂として引き継がれていると思っています。

当時のナムコが音楽や音響の専門家を採用したのは、良い音楽が欲しかったというよりは、音も含めてより良い製品にしたかったからで、今の開発では規模も大きいので難しいところもありますが、製品全体を見渡した時に自分のサウンドのスキルや知識をどう活かせばより良くなるのかというのを常に考えられるような視点があるといいんじゃないかなと、改めて思いました。

中潟:今の大きな現場は細分化が激しくて、いつのころからか、1つのゲームを作るのにサウンド担当が20人とかいますよね。僕らはひとりで楽曲から効果音から声まで何から何までやらなきゃいけなかったけれど、だからこそできたこともあったんじゃないかと思うんですよね。そういう意味で、1つのパートを受け持って、それを作るだけで満足していると、サウンドクリエイターとしては、もっと広く自分のパート以外の部分も見渡していかないと、いい作品にはならないだろうなと感じていますね。

大久保:そうですね。今は単体でクオリティが高いサウンドを作る環境はけっこう揃っているんですよね。ただ、それ以上のものにするための考えるきっかけがほしいなというか。

中潟:僕らのころって、やれることが限られていて、しかも音源にしても波形にしても制限だらけでした。その中でどうやったらいいものができるか、際立った音が作れるのか、印象に残るメロディが出せるかっていうのを、工夫して何回もリトライして、時にはプログラマーと相談しながらやってできたものがあれだったわけで。

小沢:今は曲の数もすごいから……。1曲にかける時間って、どのくらいなんだろう。私たちなんて、1秒もない効果音1個に何日もかけて苦労して作っていたので思い入れも相当ありますよね。

中潟:便利になった今は、それを超えるような何か創意工夫なりアイデアの飛躍なりというのは、出しにくくなっちゃっているのかもしれないですね。

小沢:私たちのころは、効果音もあらかじめ用意しておいたものにフラグを立てて鳴らすというやり方でしたが、今だったら、ゲームの中で効果音が変化していく、そこでゲームに合わせて曲調が変わっていくということがもっとどんどんできるようになるのかな、と思っていて、私はそういうものに興味があります。そういった演出ができれば、また何か別のアイデアを思いつくのではないかな? やってみたいな、と思うことがありますね。

大久保:そのやってみたいとか興味の部分は大切ですよね。それが1歩先に抜けるきっかけになるんじゃないかと思います。

インタビューの様子 左から、大久保さん、小沢さん、中潟さん、慶野さん

――レジェンドクリエイターの皆さま、貴重なお話の数々、ありがとうございました。

【※本記事に引用している参考資料につきまして】
・本文中のBGMや効果音などの音源へのリンクは、お客さまのご利用環境によってアクセスできない場合があります。
・動画は、移植版タイトルのものを引用しています。

【編集後記】
80年代のアーケードのナムコサウンドは「エンジニアとサウンドクリエイターが近い距離でお互いを理解しながら作り上げたもの」だから生まれたという言葉がとても記憶に残りました。細分化された現代のゲーム制作でも、いろんな分野のクリエイターが一緒に作り上げるものが新しい何かを生み出すきっかけになるのかもしれません。

当インタビューは、前編に引き続き、大久保さんにアドバイザー兼インタビュアーとしてご協力いただきました。また、インタビュイーの皆さまにも何度も内容をご確認いただき、当時の貴重な情報を追加していただきました。「任意波形発生回路」の件で石村さんにもご協力いただきました。この場をお借りして御礼を申し上げます。

取材・文/佐伯 憲司
ライター/編集者。ゲーム関連本、ニュースサイト、攻略映像などに関わったのち、現在フリー。ナムコのゲームとの出会いは、薄暗い中で極彩色の色とド派手なステージスタート音に思わず2度見した『ギャラクシアン』。当時は「ゲームセンター」だけではなく喫茶店や個人商店のはなれなどでもゲーム機と出会うことができました。