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設立のキーパーソンに聞く、最新技術の粋を集めた次世代配信スタジオ「MIRAIKEN studio」が目指す未来

バンダイナムコエンターテインメントは、最新デジタル技術を導入した配信スタジオ「MIRAIKEN studio」を2021年5月に設立しました。オープニングセレモニーの様子をお届けした前編に続き、後編はスタジオ設立に携わったスタッフに展望を聞きました。

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波多野公士

第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション クロスメディア課マネージャー

2009年入社。webディレクターやアプリゲーム開発、営業、新規事業開発などを担当。2019年バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル プロデューサー。MIRAIKEN studioでは全体統括とプロデュースを担当。

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吉本行気

第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション クロスメディア課アシスタントマネージャー

2020年5月にゲーム開発会社から転職。入社後はデジタル領域のソフトウェア開発や配信システムを構築。 ASOBISTAGEプロデューサー。MIRAIKEN studioでは機材やインフラの設計を担当。

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勝股春樹

第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション クロスメディア課チーフ

2014年入社。入社後は『アイドルマスター』シリーズのライセンス管理やイベントをプロデュース。MIRAIKEN studioではオープニングセレモニーのディレクターとしてコンセプト設計、イベント全体のクオリティ管理を担当。

――はじめに、MIRAIKEN studioが生まれた背景について教えていただけますか?

波多野:新型コロナウイルス感染症拡大が大きなきっかけになりました。

私が所属しているニュービジネスプロダクションは、年間40本以上のライブを企画運営していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大後は集客が難しくなり、2020年は動画配信やオンラインでの公演にビジネスモデルの転換を図っておりました。最終的には年に200本以上の配信を行うことになり、そのなかで「自分たちが使いやすく、エンタメの可能性を追求できるスタジオがほしい」と言う声が社内のさまざまなセクションからあがってきました。その声に応える形で設立の準備をはじめたのです。

吉本:配信の効率化を進める意味もありましたよね。2020年は自社のイベントスペースにスタッフを集めて、機材は都度、搬入搬出をしていました。その分コストがかかっていたんです。常設スタジオがあれば、機材を別の配信に転用できます。

社内にスタジオがあると不測の事態にも対処しやすいんです。「ガムテープもってきて」「コピー機使わせて」「〇〇さん呼んできて!」と社内で完結するので。

MIRAIKEN studioは東京の港区・三田にあるバンダイナムコ未来研究所(本社)に自社スタジオとしてつくられた

懐かしいゲームの世界も探索できる! リアルとバーチャルの境を超えられる最新鋭の設備

――MIRAIKEN studioには最新鋭のデジタル機材が設置されていると聞いています。従来のスタジオとはどのような違いがあるのでしょうか?

:大きな特徴は、配信における映像表現の幅広さだと思います。従来の配信では、書割や置物といったフィジカルな要素で絵作りをしてきましたが、MIRAIKEN studioでは、デジタルツールによってより自由度の高い世界観の表現が可能になり、「リアルとバーチャルの境を超えた絵作り」を実現することができます。

波多野:分かりやすい例で言うと、物理的に行きづらい場所や架空の世界での収録を再現できるんです。宇宙空間や世界遺産の中から仮想ライブができますし、AR技術を使えばゲームやアニメのキャラクターに出演してもらうこともできます。

吉本:次元の壁を超えた配信を実現するため、スタジオには巨大且つ高画質なLEDディスプレイ4面ステージや、AR・xR配信の機材を設置しました。

波多野:さらにバンダイナムコグループには、今まで開発してきたゲーム等の3Dデータが豊富にあります。これら多くの資産をLEDスクリーンに映し出すこともできるんです。

――ということは、昔遊んだゲームのマップの中から配信する、なんてこともできるんでしょうか?

波多野:もちろんです。キャラクターになりきって探索ができますよ。設備のテストでLEDスクリーンに『エースコンバット』を映して遊びましたが、すごいんですよ! 本当に空を飛んでいる気分になります。

壁に3面、床に1面のLED。イメージを瞬時に切り替えることができます

――それは夢がある話ですね!

吉本:さらに、スクリーンには視聴者のビデオ通話を表示したり、コメントを流したりすることもできます。

勝股:まとめると、(MIRAIKEN studioでは)従来よりも高い次元でリアルとバーチャルを融合できるようになります。我々はIP(知的財産)やデジタルコンテンツを数多く手掛けることができる会社ですし、主催の配信を数多くこなせます。それらの強みを活かして、エンタメ配信のニュースタンダードを作りたい。そういったビジョンも持って、MIRAIKEN studioをここから成長させていきたいと思っています。

「未来」の「未」は「未完成」の「未」。さまざまな人が集まる共創の場へ

――最先端の技術を詰め込んだスタジオとのことですが、準備段階では苦労も多かったのではないでしょうか。

吉本:もっとも苦労したのはLEDステージですね。このステージは背後に3面、床にも高精細LEDスクリーンを設置しています。床面LEDは国内には設置例がほとんどなく、設置イメージが掴みづらかった。相応な予算が必要なこともあり、導入には覚悟が必要でした。

波多野:LEDのほかには防音にも配慮しました。スタジオの上には執務スペースがあり、下のフロアは会議フロアなので、音が漏れてはいけない。防音の検証に時間をかけました。

――設立にあたっては、どれくらいの人が関わっていたのでしょうか?

波多野:社外のパートナー企業さんも含めると、関係者は100名以上になると思います。社内では法務・総務・経理チームをはじめ、情報システム部門にも協力してもらいました。

――とても大きなプロジェクトだったのですね! ちなみに、「MIRAIKEN studio」の由来も気になっているのですが。

波多野:東京・港区の三田にある本社ビルは「未来研究所」と名付けられていまして、そのビルにあるスタジオなので「MIRAIKEN studio」と名付けました。「未来」の「未」は「未完成」の「未」でもあります。さまざまな人が集まる共創の場にしていけたらいいなと思い、空間設計にも工夫を施しました。

吉本:ステージ空間のちょうどすぐ後ろに、バーカウンターがありますよね。これは一般的なスタジオでは珍しいものですが、パフォーマーさんとスタッフの交流が生まれることを期待して設置してみました。AスタジオとBスタジオのあいだに窓を設置して互いの様子が見えるようにしたのも、「お互いに刺激しあってほしい」と考えたからです。

このように人と人との交流を意識したスタジオなので、今は難しいですが、将来的にはeスポーツの大会や交流会など人が交わるイベントも開催していきたいと思っています。

B studioからみたA studio。窓越しにお互いの様子が見える
バーカウンターでイベントの前後に感想や興奮を語らう。そんな使われ方も想定している

準備期間はわずか半年。社内外のノウハウを活かして設計に盛り込んだ

――話は変わりますが、スタジオの準備期間はわずか半年だったと聞いています。なぜこれだけ短期間で準備ができたのでしょうか?

吉本:今回中心になったメンバーは、全員が新規プロジェクトの進行に慣れていたんです。さらに、決裁者からプロジェクトチームまで、メンバーの足並みが揃っていました。

波多野:日本最大級のLED常設スタジオが作れることに高揚感を感じていたようで、現場のモチベーションも高かったと思います。さらに、2020年に行った200本の配信がプラスの影響を与えてくれました。僕らは配信のなかでたくさん失敗をしましたし、ノウハウも蓄積していたので、知見をそのまま設計に生かすことができたんです。

吉本:社外からのフィードバックにも助けられましたよね。僕たちは配信で、撮影や音響など外部のプロフェッショナルの力を借りています。彼らが伝えてくれる反省点や要望は、積極的にスタジオ設計に反映しました。おかげさまでよりグレードの高いスタジオができたと思います。

――具体的にはどのように反映したのでしょうか?

吉本:今後は5Gや4Kが当たり前になるので、ハイスペックな最新鋭の機材を導入しています。特にxR配信は知る人ぞ知る技術ですから、まだまだ進化の余地がある。のちのち機材を足して改善できるよう、しっかりとした基盤を作りました。

波多野:そのほかにも、快適な配信を実現するために情報システム部門とネットワークを改良しましたし、ゲーム開発のノウハウを活かして、グラフィックを処理するシステムも強化しました。そういう意味で、MIRAIKEN studioはバンダイナムコグループやパートナー企業の皆さんのノウハウを総結集して作ったスタジオだと思います。

吉本:技術面では相当優れたものを詰め込んだので、クリエイターや技術者が知り合って「新しいものを作ろうぜ!」と意気込んでくれるスタジオになればいいですね。

最新技術の粋を詰め込んだスタジオらしく、機材も充実している

視聴者にワクワクと妄想を。オープニングセレモニーの裏話

――ここからはオープニングセレモニーについて聞かせてください。セレモニーには多彩なアーティストの方々がご出演されていました。セレモニーはどのように準備が進められたのでしょうか?

勝股:セレモニーの本格的な準備は2021年4月に始まりました。開催まで2ヶ月弱で時間が限られるなか、重視したのは、「施設の強みを”楽しく”、”感覚的に”知ってもらうこと」。MIRAIKEN studioは自慢したい最新鋭の機能を備えていますが、なによりもまずは、視聴者の皆さんに「バンダイナムコグループがこのスタジオを使えるようになったら、こんなにおもしろいことができるんだよ」と伝えたかったんです。

ですので、ただテクニカルを紹介するコンテンツにはしたくなくて、たとえ技術的なことを知らなくても「何これ!? 見たことない!」と楽しめるものを目指したかったし、「こんなすごいことができるなら、〇〇もできるかも」と想像を膨らませてもらえる内容にしたかった。

目指すものを明確したうえで、関係各社の皆さんの多大なご協力のもと、キャスティングやセレモニーの内容はスピーディーにまとまり、なんとか形にすることができました。

――煌びやかなLEDと電飾に圧倒されたmplusplusさんのステージに、司会のヒャダインさん・金澤朋子さんと、「アイドルマスター」天海春香さんの次元を超えたトーク。KITEさんMADOKAさんがxR空間で繰り広げたダンスや、ガンダムの足元で演奏するSUGIZOさん。どの方もすばらしいパフォーマンスでした!

勝股:そう言っていただけてうれしいです。オープニングセレモニーでは「 MIRAIKEN studio の技術」「バンダイナムコのIP」「アーティスト」の3つの要素を掛け合わせ、新たなシナジーで、パフォーマンスを最大化することを目指していました。

mplusplusさんのLEDパフォーマンス、KITEさん・MADOKAさんのxRダンスパフォーマンスは、新しいパフォーマンス表現への挑戦でした。初めてご一緒する業界の方々でしたが、ゲームとの高い親和性を感じて、とてもわくわくしました。

SUGIZOさんとガンダムのコラボパフォーマンスや、金澤朋子さん・天海春香さんと、二人が所属するグループに楽曲を提供しているヒャダインさんによる掛け合いなどは、「初見でもおもしろい」を目指しながらも、作品ファンの皆さんもびっくりさせられるコンテンツを目指しました。改めて、ご出演者の皆さんには、限られた準備期間にもかかわらず、最高のパフォーマンスをしていただいて、本当に感謝しております。

オープニングセレモニーでは、ガンダムとSUGIZOさんのコラボなど視聴者の想像を大きくとびこえる映像も実現した

勝股:とはいえ、最初の構想段階ではもっと盛り盛りな内容を考えていたりしたんですけどね(笑)。

――当初はどのようなプランだったのでしょうか?

勝股:ざっくり言うと、xR画像の中にバンダイナムコのキャラクターが共存するプランです。例えば、『鉄拳』と『テイルズ オブ』シリーズのキャラクターが戦い、そこに『エースコンバット』の戦闘機が突っ込んでくる…みたいなハチャメチャな内容です(笑)。 結局、現実的なラインを検討し精査していくなかで、今回オンエアした内容になりましたが、いつか実現したいと思っています!

――ファンにはたまらない配信ですね。いずれはそちらのバージョンも見てみたいです!

「好きなキャラがそこにいる……」ファンが驚き感動した前代未聞のコンテンツ

――セレモニーにはどのような反響がありましたか?

波多野:印象に残っているのは、「おぉ、SUGIZOさんとガンダムが同じ場所に立っている!」「春香がそこにいる……」などのコメントでした。演出技法に驚いたというよりは、違和感のないエンタメとして楽しんでいただけたのかな、と実感しました。リアルとバーチャルの境界線にバグが起きて、同じ線上にいる感じが出せたというか。

多くの人が「好きなアニメやゲームのキャラがリアルな世界に存在したらいいな」と想像していたと思います。しかし、実現には技術が障壁になっていた。今回スタジオに導入した技術が、リアルとバーチャルの境をなくしてくれたと思っています。

勝股:「あの作品で〇〇してほしい」と要望もたくさんいただきましたよね。IPの世界観を壊さない表現を心がけたからこそ、「安心してリクエストできる」と思ってもらえたのかもしれません。

吉本:僕が覚えているのは「新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大変な時に、このような場所を作ってくれて嬉しかった」と言うSUGIZOさんの言葉でした。ライブ・エンタメ業界は今、とても厳しい状況です。MIRAIKEN studioはアーティストの新たなステージとして活用してもらえるはず。多くの人が苦しんでいる状況ですから、エンタメ業界に貢献できたらと思っています。

可能性は無限大! エンタメ配信をリードするスタジオを目指す

――今後はMIRAIKEN studioが何を目指していくのか。ビジョンを聞かせてください。

波多野:一流のクリエイターが「こんなおもしろい配信をしちゃいました!」と言うように使ってもらえたらうれしいですね。それでいて、毎日ここから何かが配信されているエンタメ発信基地にもなるといいなと思います。

MIRAIKEN studioは「かっこいい場所」であれたらいいと考えていて(笑)。最先端の技術を検証する場所にしていきたいし、視聴者からも憧れられるスタジオにしていきたい。ここに入場するクリエイターもワクワクしてしまうような、特別な空間にしていけたらいいなと思います。

――セレモニーではすでに、出演者の皆さんがとても興奮した様子でコメントをしてくださいました。「ガンダムと一緒に踊ってみたい」や「教育にも活かせるんじゃないか」など、さまざまな意見が出ていましたね。

波多野:将来的には教育方面にも活用していきたいですね。

MIRAIKEN studioでは、フィクションをノンフィクションのように表現できます。等身大の恐竜を見せることもできるし、歴史上の偉人を出演させることもできる。いつかは世界各地のスタジオを繋いで、誰もがオンラインでコンテンツを楽しめるネットワークを構築したいです。

勝股:波多野の話に続けると、僕はどんなにすごいテクノロジーも手段だと思っていて。セレモニーを見ていても、スタジオを使う人の思いが一番大事だと感じました。技術面は申し分ないものが作れたので、これからも心を動かす、作り手の思いが乗ったコンテンツを届けていきたいです。

――最後に読者の皆さんへ、メッセージをお願いします!

勝股:セレモニーを見ていただいて「このキャラの〇〇を見てみたい」と頭に浮かんだアイデアがきっとあると思っています。皆さんのアイデアはすべて実現できる可能性がありますし、僕たちも実現していきたい。これからも皆さんと楽しい妄想をしていきたいので、叱咤激励とご提案をいただけたらうれしいです!

吉本:僕らもまだまだスタジオのポテンシャルは引き出し切れていなくて、模索している段階です。オープニングセレモニーでは活用例の一端を実演できました。「この先こんなことができるのか!」と驚いてもらえるイベントを仕込んでいますので、ご期待ください。

波多野:365日エンタメをお届けしようと計画していますし、演劇やライブ、オンライン展示会などバンダイナムコグループのさまざまなイベントをMIRAIKEN studioから配信していきます。可能性が詰まった”おもちゃ箱”のような場所ですので、ぜひ今後に注目してください!

「365日エンタメを届けたい」とスタッフは意気込む

ヒャダインさん、金澤朋子さんが天海春香とSUGIZOさんがガンダムと共演し、MIRAIKEN studioオープニングセレモニーの写真盛りだくさんのレポートはこちらから!

MIRAIKEN studio公式ページはこちら

取材・文/鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。過去に350名以上の取材記事を執筆。領域は雑多ですが、近年はビジネス領域を中心に書いています。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。コンシューマーゲームとお酒と銭湯が大好きです。