ゲームアプリを支えるデータマーケティング。バンダイナムコエンターテインメントの事例【後編】

さまざまな企業でデータの活用が進められている昨今。バンダイナムコエンターテインメントでも独自のデータマーケティングが行われています。前編では活動を推進するデータインフラ課と新設されたデータマーケティング課の役割を伺いました。後編では具体的な施策やゲーム業界ならではの手法を取材しました。

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田村 雄也

ビジネス戦略室
リレーションマネジメント部
データインフラ課
マネージャー

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橋本 貴大

ビジネス戦略室
マーケティング推進部
データマーケティング1課
アシスタントマネージャー

人気キャラクターを取り扱ってきた歴史をマーケティングに活用

――前編では、プライバシー保護の問題や課が生まれた背景、それぞれの役割を伺いました。後編では、より踏み込んだマーケティング手法やデータ活用の事例を聞かせてください。昨今、さまざまな業界がデータマーケティングを行っていますが、ゲーム・エンターテインメント業界ならではの傾向はあるのでしょうか?

田村:ゲーム・エンターテインメント業界では、アクティブユーザー数や継続率で成果を測っていることが多いですね。そしてより多くのユーザーに遊んでもらうためには、タイトルを知ってもらい、ダウンロードしてもらわなければいけません。そのためにテレビCMやモバイル広告などを使い、認知を獲得しています。

――そのなかでも、同業他社とは異なるバンダイナムコエンターテインメント特有の傾向があれば教えてください。

田村:バンダイナムコエンターテインメントのゲームアプリの特色としては、IPタイトル(IP※知的財産:キャラクターのこと)が非常に多いんです。自社所有のIPはもちろん、漫画のキャラクターやテレビで放映されるヒーロー・ロボットをテーマにしたものなど、社外のキャラクターもお預かりしゲームアプリ化しています。

これらのIPタイトルは、原作の人気に連動してDAU(デイリーアクティブユーザー:1日にアプリを利用したユーザー)やダウンロード数が変化します。そのため、アプリの数字だけを見ていてはいけないんです。映画化やコミックスの発売、新シリーズのテレビ放映など、原作の動きを常に確認する必要があります。

橋本:IPのファンはアプリだけでなく、家庭用ゲームやライブ、映画やコミックスなど、多くの媒体を通して作品を楽しんでいます。IPとファンがどのように接しているのか、その全容を把握しなければいけないので、さまざまなデータが必要なんです。

――多角的なデータが必要となると、収集はもちろん、活用も難しそうですね。

田村:そうですね。原作の動きをできるだけ正確に把握するために、外部サービスも利用してデータを集めています。また、データの活用には自社のノウハウが役立っています。

バンダイナムコエンターテインメントは家庭用ゲームでもIPタイトルを長年生み出してきていますし、同じIPを使ったタイトルをいくつもリリースしているので、「この作品にこのような施策を打てば、ユーザーはこんな動きをしてくれるだろう」とある程度予測を立てることができるんですね。

これはバンダイナムコエンターテインメントの強みだと思います。

――なるほど、IPビジネスの老舗だからできることがあるんですね。

広告でユーザーとゲームアプリの出合いのきっかけを作る

――ところで、エンターテインメント/ゲーム業界でのマーケティングの施策は、やはり広告出稿が多いのでしょうか?

橋本:いま取り組んでいるゲームアプリのマーケティングでは、認知を広げる必要があるものも多いので、出稿する機会は多いですね。その際、どの媒体に広告を出すか、その媒体に適したクリエイティブを出せるか、が重要です。

近年ではテレビや雑誌などのマス広告だけでなくWEBブラウザやSNSなど、ターゲットを絞って出稿できるデジタル広告も増えてきました。デジタル広告はアプリとの相性がいいですし、ログデータでユーザーのニーズや求めていることがわかるため、データマーケティング課では主に後者を活用しています。

橋本:IPと広告を出稿するプラットフォームにも相性があって、組み合わせによってお客さまの反応が全然違うんですね。IPファンの年齢層に合わせて、出稿する媒体を選んでいます。

最近では少年誌のタイトルを元にしたゲームアプリのPRのために、SNSに動画広告を配信しました。若年層を中心にリーチし、動画によるゲーム内容の理解促進、ユーザー同士のSNS上で話題になることも考えた施策でした。実際に、他のオプションと比べて、2.5倍のユーザーに認知してもらえましたし、掲載直後1時間のプレイヤー数も2倍になりました。

――こんなに顕著に相性が出るんですね!

橋本:そうなんです。 IPと広告プラットフォームや動画、フィードなどの手法、そしてクリエイティブそれぞれの相性は大変重要です。データマーケティング課では、いずれこの選択をより効率的にしたいと考えています。

つまり、蓄積されたデータをもとにして「このユーザーはインストールして間もないな」「あまりログインしていないからやめそうだな」「SNSでフィード広告を見たから、これからダウンロードしてくれるかもしれない」など、ユーザーの状況を把握して効果的な広告アプローチを選ぶということです。

このためには、マーケティングオートメーションのソリューションを提供している会社や、マーケティング戦略からプロモーション施策までをワンストップで見る事ができる会社など、一緒に並走できるような外部パートナーが不可欠だと考えており、今はまだ探している状況ですが、今期中にプロジェクトを立ち上げるところまでやっていきたいと考えています。

地道なデータ整理、分析の積み重ねで明らかになるユーザー像

――この効率化に向けて、DMPへのデータの蓄積、分析、調整などが必要だと思いますが、進捗はいかがですか?

田村:さまざまなデータ同士を突き合わせてきたことで、データの精度が上がり、順調にまとまってきています。

橋本:とはいえデータは鮮度が重要なので、どこまで活用するかは判断が難しいところです。広告出稿を企画している最中も刻一刻と変化していくので、状況に応じて施策を変えています。

田村:そのため、取得したデータは即時データマーケティング課に渡すようにしています。ただ、当初は“実用的なデータ”にするために長い時間がかかりました。

――“実用的なデータ”とはどのようなものですか?

田村:データインフラ課ではアプリだけでなく、家庭用ゲーム・Webサイトデータやイベントの集客数などさまざまな情報を集約しています。しかし、課ができた初期はフォーマットが統一されていなかったので、必要な項目が抜けていることも多かったんです。

さらに海外ユーザーのデータも収集しているので「日本時間なのか、現地時間なのか」と判断に困ることがあり、データの整理には長い時間を費やしました。

橋本:データは“魔法の道具”のように思われがちですが、その実用化に至るまでにはわりと泥臭い作業が必要です。田村さんが言っていたように情報の整理はもちろん、仮説検証や効果測定など、多くのステップが必要なんです。

田村:データを集めて分析し、想定したユーザー像に基づいて施策を打ってみて、間違っていたらまた別の方法を考える。その積み重ねですね。

――データマーケティングと聞くと、最先端の華やかなイメージを思い浮かべる人が多いと思いますが、実際はすごく地道な作業の繰り返しなんですね。今コツコツと積み上げているデータは、今後さらに活用が広がっていくのでしょうか?

田村:もちろんです。現在はデータマーケティング課と協業していますが、開発部門と連携する話も進んでいますし、ホビーやイベントとの連動も構想されています。

橋本:バンダイナムコエンターテインメントは今がデジタルトランスフォーメーションの変革期です。僕はバンダイナムコエンターテインメントが3社目の転職先ですが、このような規模の会社で土台となるシステムやテンプレートを固められる機会は貴重ですね。

マーケティングの本質は、お客さまのニーズを実現し、届けること

――最後に、データインフラ課とデータマーケティング課の今後の目標を教えてもらえますか?

田村:データインフラ課では、より広く、より多くのデータを集めてお客さまの満足度を高めていきたいです。グループ全体のデータは収集できていませんが、ニーズは確実に高まってきています。

バンダイナムコグループにはゲーム以外にもイベントや玩具など、さまざまなタッチポイントがあります。お客さまにプライバシーに関するコントロールを提供したうえで、それらのデータを集めて横串で活用できれば、もっとおもしろいことができると思います。

橋本:マーケティングの本質は、市場を見極め、お客さまの声を拾い、ニーズを実現して届けていくことだと思います。その動きを、データを活用しながらとことん突き詰めていきたいです。業績の伸びは、より多くのユーザーに楽しんでもらっている証になります。バンダイナムコグループは「夢・遊び・感動」を企業理念に掲げていますが、それをマーケティングの観点から実現したい。

それと、僕はエヴァンジェリストとしても活動しているので、情報発信の機会は今後増やしていきたいですね。

――これからもさまざまなデータ活用法が生まれそうですね。ゲームやエンターテインメント業界が進化していくのが楽しみです!

前編はこちら

取材・文/鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。ファミコン時代からゲームを遊び、今も毎日欠かさずコントローラーを握っている。