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ゲームアプリを支えるデータマーケティング。バンダイナムコエンターテインメントの事例【前編】

あらゆる産業でデータ活用が進められるなか、ゲームにもその波が押し寄せています。ゲームアプリから取得した情報は、どのように活かされているのか。30種以上のタイトルを運営するバンダイナムコエンターテインメントのデータマーケティング事例を紹介します。

「データマーケティング」で、ユーザーとゲームアプリはより近づく

データマーケティングとはその名のとおり、データを活用したマーケティング手法です。

情報化が進んだ現代では、パソコンやスマホなど、あらゆる端末がネットワークにつながるようになりました。これらの端末からは「どのような検索ワードからサイトにたどり着いたのか」「お客さまがいつ、どのような経路でアプリをダウンロードしたのか」など、消費者の行動データが取得できます。それらの情報を分析すれば、消費者の行動が詳しく把握でき、精度の高いマーケティングが可能です。

家庭用タイトルが長年主流だったゲーム業界ですが、昨今ではオンラインゲームやゲームアプリのシェアが伸び続けています。

これらネットワークを介したゲームの運営を効率よく進めるため、バンダイナムコエンターテインメントは2020年4月に専門部署「データマーケティング課」を設立し、以前からデータを収集していた「データインフラ課」とともに施策を進めていくことになりました。

今回は、データインフラ課マネージャーの田村雄也さんと、 データマーケティング課 アシスタントマネージャーの橋本貴大さんから、バンダイナムコのデータマーケティング手法を伺います。

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田村 雄也

ビジネス戦略室
リレーションマネジメント部
データインフラ課
マネージャー

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橋本 貴大

ビジネス戦略室
マーケティング推進部
データマーケティング1課
アシスタントマネージャー

競争が激化するゲームアプリ業界。生産性の向上をめざして生まれたデータマーケティング課

左から田村雄也さん、橋本貴大さん

――お客さまのデータを使ってマーケティングを行うとなると、昨今さまざまな場面で問題になるプライバシー保護などの問題と常に向き合うことになると思います。バンダイナムコエンターテインメントでは、どのような考えでお客さまのデータに向き合っているのでしょうか?

田村: データを活用する最大の目的はお客さまにより楽しい“アソビ”を提供するためである、サービス品質を向上させ要望されているお客さまに的確に届けるためである、という大前提を常に意識しています。

データをどのように利用するのかを各サービスでしっかりとご説明し、お客さまにとっては手間に感じられるかもしれませんが、必要に応じて同意をいただくということを徹底しています。

プライバシー保護の考え方は国によって異なり、各国で独自の法令が制定されているのが現状ではありますが、お客さまのプライバシーの権利への配慮が必要となります。

バンダイナムコエンターテインメントではそういった世界情勢もしっかり捉えつつ、その中でも最も厳しい制約を遵守することができるよう、グローバル基準でプライバシーを保護できる体制を敷いています。

そのうえで、データマーケティングを活用してお客さまのメリットを最大化することを目標としています。そのためにもお客さまにご理解いただいたうえでご協力をいただけるような努力を続けていこうと考えています。

――厳しい基準でプライバシー保護に努めながら、ユーザーのメリットを最大化できるように努力しているわけですね。では、2020年4月に設立されたというデータマーケティング課の役割は、ゲームを運営するうえでどのようなものなのでしょうか?

橋本:データマーケティング課の役割はユーザー満足度を高め、多様なタイトルを効率よく運営することです。弊社が運営しているゲームタイトルは2020年現在で30種を超えています。近年のゲームアプリ市場はレッドオーシャン状態です。

数えきれないほどタイトルが存在しているので、ユーザーも「どのゲームが自分に合っているんだろう?」と迷ってしまう傾向にありました。自社タイトルに特色を出し、運営・PR・開発を、よりユーザーが求めるものに近づけるために、データの活用が求められていたという背景があります。

――これまでと、データマーケティング課設立後のマーケティングではどのような部分に変化があるのでしょうか?

橋本:これまでのバンダイナムコエンターテインメントのマーケティングは内製で行うのが主流でした。これには自社のデータを柔軟に活用できたり、自社タイトルの魅力に沿ったプロモーションを検討できたりと、さまざまなメリットがありました。

その一方でマーケティング動向のキャッチアップが遅れてしまう、競合や市場を見た際のタイトルの魅力を検討できなくなってしまうなどのデメリットもありました。

そこで、市場においてのタイトルのポジショニング把握と、手法の最適化のために外部との連携ができればと考えています。

――データマーケティングを行うためには、材料となる情報が必要です。バンダイナムコではデータインフラ課が収集を担当していますが、具体的にはどこからどのようにデータを集めているのでしょうか?

田村:ゲームアプリの場合はネットワークを介して、「ダウンロード数」や「DAU(デイリーアクティブユーザー:1日にアプリを利用したユーザー)」「イベント参加率」などのデータが取得できます。

アプリだけでなく、家庭用ゲームの「購買データ」、「テレビCMや雑誌広告の反応率」「イベントの集客数」など多角的に情報を集めていました。さらにキャラクターグッズを販売する『アソビストア』等ECサイトのデータも収集しています。

これをデータインフラ課がDMP(※)に蓄積して、データマーケティング課がさまざまな部署で活用しています。

※Data Management Platformの略。マーケティングに利用するためのデータを蓄積するためのシステム。

ビジネス戦略室 リレーションマネジメント部 データインフラ課マネージャー 田村雄也さん

「収集」と「活用」の両輪を回し、データマーケティングを加速させる

データの収集・活用の図
データの収集・マーケティング活用の図

――ふたつの課が「収集」と「活用」に特化して、お互いの業務が密接に関わっているのですね。

橋本:そのとおりです。データインフラ課の存在は私たちデータマーケティング課にとってなくてはならないものなのです。より広くデータを集めれば、「なぜユーザーがこのアプリをダウンロードしたのか」「なぜアイテムに課金してくれたのか」「ユーザーは何を求めているのか」などユーザー像の解像度が上がります。

情報をうまく読み取ればユーザーの思考の仮説を立てやすくなり、効果の高い広告施策の実行へとスピーディーにつなげていくことができる今後は広告を出稿していくうえで、ゲームアプリによりマッチしている人や、広告を見てアプリをインストールしてくれた人への出稿結果を確認し、PDCAを回していければと考えています。

――収集したデータはどのように活用しているのでしょうか?

橋本:マーケティングに限れば、ユーザー動向の把握や、広告の出稿先の判断材料にしています。特に広告は掲載する場所によって効果が異なります。

Facebook、Twitter、Instagram、LINEなど同じ「SNS」の括りであっても、ユーザー層はそれぞれ異なり、アピールの手法も変更が必要になります。予算は限られていますから、より効果の高い方法を選びたい。だからこそ、判断材料になるデータが重要なのです。

ビジネス戦略室 NEマーケティング部 データマーケティング課アシスタントマネージャー 橋本貴大さん

データを軸に、部門間の連携を進めていきたい

――お話を聞いていると、データの収集と活用の動きは、ゲームアプリ以外の分野でも活用できそうですね。

橋本:そうですね。今後は開発や営業など、あらゆる分野でも行いたいと考えています。これまでバンダイナムコグループの家庭用ゲーム、玩具、イベント、アミューズメントといった各社は独自にデータ戦略を行い、ノウハウや経験をもとに施策や開発を進めていましたが、今後はより一体感をもって連携していくことで更なる飛躍ができると考えています。

田村:データマーケティング課が設立されたことはバンダイナムコエンターテインメントにとって大きな進歩になりうると思います。

今までは同じ会社の中で、各部門がうまく連携しきれていなかった。これから全社のデータ収集と活用が同時にできるようになれば、各部門の施策に横串を通すことができ、説得力とスピード感をもって動くことができます。同時に、さまざまなユーザーニーズにも対応しやすくなるでしょう。

――多種多様な製品をさまざまなニーズをもつユーザーに届けるために、データ活用は必要不可欠な施策なんですね。

続く後編では、より専門的なデータマーケティングのノウハウを紹介します。漫画やアニメ、ヒーローやロボットなどさまざまなコンテンツをお預かりし、商品化してきたバンダイナムコエンターテインメントでは、映画化やイベントに合わせた独自のデータ活用が行われているそうです。次回はその詳細に迫ります。

後編はこちら

鈴木雅矩
1986年生まれのライター。過去に350名以上の取材記事を執筆。領域は雑多ですが、近年はビジネス領域を中心に書いています。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。コンシューマーゲームとお酒と銭湯が大好きです。