『ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd』プロデューサーが語るオンラインフェスの最前線。芽生え始めた新たなカルチャー

バンダイナムコエンターテインメントは2020年の大晦日から2021年1月1日にかけて、オンライン音楽フェス『ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd』を開催。2020年最後の夜を盛り上げました。オンラインライブエンターテインメントの最前線では何が起きているのか? プロデューサー2名にインタビューしました!

キャラクター・音楽・コンテンツが交差するオンラインフェス。2ndではさらに進化!

『ASOBINOTES ONLINE FEST(以下、AOF)』は「オト」で「アソブ」をテーマにしたオンライン音楽イベントです。会場ではアニソンやボーカロイド曲、ゲーム楽曲を中心にDJが曲をセレクト。観客はステージを切り替えながら好きなアーティストのライブ配信が楽しめます。

『ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd』では、人気VTuberのミライアカリさんや鷹宮リオンさん、『ミライ小町×大久保博』『電音部』などさまざまなアーティストが参加。『アイドルマスター』シリーズ『テイルズ オブ』シリーズ『初音ミク』『東方プロジェクト』などの楽曲オンリーでセットリストも組まれました。

2020年から開催が増えているオンラインライブエンターテインメントの現場では、何が起こり、どのような取り組みが行われているのでしょうか。今回は『AOF』プロデューサーの子川拓哉さんと吉本行気さんを招き、『AOF』の魅力と今後の展開について伺いました。

第1回『AOF』のレポートはこちら

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子川 拓哉

第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション プロデュース課 アシスタントマネージャー

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吉本 行気

第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション コマース課 チーフ

世の中がオンラインイベントに慣れてきた今、生まれてきた独自のカルチャー

AOF2の様子

――『AOF』はさまざまなVTuberやキャラクター、DJが出演するイベントです。流れる曲はアニソンやアキバ系と呼ばれるものが中心ですが、ハードなトランスもかかっていて、意外性がありました。

子川:もともと僕はダンスミュージックが好きで、フェスやクラブに遊びに行っていたんです。『AOF』は、ゲームやキャラクターを通じて、観客の皆さんがクラブカルチャーに出会えるといいなと思ってはじめました。とはいえ、いきなりダンスミュージックに寄せすぎると普段クラブに行かない人にとっては敷居が高くなってしまうため、最初は皆さんに馴染みのあるアニソンではじまって、深夜になるにつれてダンスミュージック寄りのDJが登場するというように、流す曲の順序を配慮することで、さまざまなジャンルの音楽に触れていただけるように工夫しています。

――音楽はジャンルを越えると新しい発見がありますよね。「これがアニソンなの!?」「これがゲーム楽曲なの!?」と思うようなおもしろい曲に出会えたり、ハウスやテクノ、ヒップホップなど、普段はあまり馴染みのない特定のジャンルに触れてみたら「意外とハマった!」と価値観が変わることもあります。

子川:『AOF』はさまざまなクラスター(※文化的集団、群れ)が融合する場にしていきたいと思っています。『AOF 2nd』でもいろんなアーティストやVTuberが参加してくださり、観客の皆さんがさまざまな異文化に触れる機会を提供することができたのではないかと思います。

――『AOF』がファン同士の架け橋になっているんですね。今回が『AOF』として2回目のイベントになりましたが、前回と比べてどのような変化がありましたか?

子川:もっとも大きな変化は、観客の皆さんがオンラインイベントに慣れてきたことです。オンライン独自のカルチャーが生まれ、遊びの幅が広がったように感じます。

――具体的には何が起こっていたのでしょうか?

子川:『AOF』はチャットやスタンプ機能を実装しているので、観客がリアルタイムに反応できます。1回目は反応がバラバラでしたが、『AOF 2nd』では特定の楽曲が流れると、観客の皆さんが一斉に同じスタンプやテキストで反応していました。例えば『電音部』では楽曲のジャケット画像が、チャット欄を埋め尽くしていました。楽曲以外にも、DJ転換の際に流れるスポンサーCMの時には、観客の皆さんが一斉にスポンサーのスタンプで反応していたのが印象的でしたね。

『電音部』キャラクターのスタンプが並ぶ様子
右側コメント欄に『電音部』キャラクターのスタンプが並ぶ様子

――観客が一斉に同じリアクションをとる様子は、大手動画配信サイトの「弾幕(※特定のタイミングで、観客が決まった文言を一斉に投稿する文化)」やオタ芸に似ていますね。

子川:そうですね。観客の皆さんのあいだで「この楽曲にはこのスタンプを押そう」などという共通認識が生まれているようです。ライブはパフォーマーと観客が相互に刺激しあってリアルタイムで変化していくものなので、インタラクティブな要素がすごく重要です。僕たちも盛り上がりを生み出せるようさまざまなシステムを組み込んでいます。

「オンライン配信だからできるライブ」を実現する独自のシステム『ASOBISTAGE』

ASOBISTAGE
ASOBISTAGE

――観客が主体的にステージに関わるために、どのような工夫を施したのでしょうか?

吉本:『AOF』ではバンダイナムコエンターテインメント独自の配信システム『ASOBISTAGE』を開発しました。これはオンライン配信に特化したシステムで、デジタル会場の複数フロアで開催されているパフォーマンスを、端末の1つの画面で視聴しながら自由に切替えることができます。これにより、本物のクラブのようにデジタル会場内を移動できるようになりました。

――なるほど、好きなタイミングで、好きなアーティストのパフォーマンスが楽しめるんですね。先ほど伺ったインタラクティブな要素はどのように実装されているのでしょうか?

吉本:先ほど子川の話にも出てきた観客の皆さんが押すスタンプのほかに、好きなタイミングでエフェクトを表示させる『花火』機能で、演出に参加することができます。また、デジタルペンライト『アソビライト』も振れるんです。ペンライトは同時に数百個が表示され、リアルタイムに動きが反映されます。もちろん、その様子はパフォーマーからも確認することができます。

アソビライト
①のバーチャルライトコントローラーからカラーを選択すると、②のエリアに反映される

子川:また、物販機能も備えています。バンダイナムコエンターテインメントのECサイト『アソビストア』からグッズが購入でき、特典として会場で使えるスタンプが付いてきます。

スタンプの一例
スタンプの一例

――オンラインならではのやり方で、フェスやクラブの遊び方、観客の熱量までもが忠実に表現されているんですね。

吉本:『AOF』の企画当初から、「参加している実感」は大切にしていました。観客の皆さんのボルテージをパフォーマーに伝えたかったですし、そのために何かしら感情を伝える手段を盛り込みたかったんです。

子川:音圧や観客の熱量など、どうしてもオンラインでは伝えられないものがありますが、リアルとは異なるメリットや遊び方がつくれるのではないかと思っています。新しいカルチャーはパフォーマーと観客の掛け合いから生まれるので、そういったところからヒントを探りながら、「オンライン配信だからできるライブ」を実現していきたいです。

今後はゲーム要素も実装!? 『AOF』がめざすライブの形

――『AOF』はおそらく第3回、第4回と続いていくと思います。これからの『AOF』でクラブイベントやダンスミュージックに触れる人はどのように楽しめば良いのでしょうか?

子川:クラブのなかには「音箱」と言って純粋に音楽を楽しめる場所もありますし、アニソンやゲーム音楽オンリーのイベントもあります。僕は「音楽との遭遇体験」と呼んでいるんですけど、クラブやフェスに行けばきっと知らない音楽と出会えるはず。

アーティストでもVTuberでも「この人が好きだから」というきっかけで行ってみたら、きっと新しい発見があると思います。『AOF』や『電音部』はクラブカルチャーと一緒に大きくなっていきたいので、ぜひいろんな人にクラブを楽しんでもらいたいです。

ミライ小町×大久保博
ミライ小町×大久保博

――最後に、『AOF』の今後の展開についてお聞かせください。次回イベントの構想など、方向性などもお聞きできれば!

子川:今後はゲーム要素を取り入れようと思っています。例えば、ライブでパフォーマーがパフォーマンスする曲を観客の皆さんに決めてもらうとか。上手くいけば、カラオケやリアル脱出ゲームのように、新しいエンターテインメントのカテゴリーとして普及するのではないかと思います。

吉本:あとは海外進出もしたいと思っています。『AOF 2nd』では英語のコメントも書き込まれていましたし、海外のファンも増えてきているようです。

子川:いいですね。国境を超えたら、また違ったカルチャーが生まれるかもしれません。僕はリアルなライブが好きですが、コロナ禍の影響でしばらく開催は難しいと思います。そのなかでも、『AOF』はリアルなクラブが現場で育んできたような「演者・観客が一緒に生み出すカルチャー」を多くの人に届けていきたい。だから今は「ライブ配信だからできる楽しみ方」を観客の皆さんやアーティストとともに見つけていきたいです。「もっとこんなことをしてほしい」と要望をいただければ、出来る限り実現していきますので、ぜひ『AOF』に遊びに来てください!

取材・文/鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。ファミコン時代からゲームを遊び、今も毎日欠かさずコントローラーを握っている。