新会社「BANDAI NAMCO Mobile」がバルセロナでつくるモバイルゲームの未来

モバイルゲーム欧米市場におけるシェア拡大をめざし、バンダイナムコエンターテインメントはバルセロナに新会社「BANDAI NAMCO Mobile」を設立しました。その経緯や同社が掲げる目標と独自の組織体制について、COO久保田達也さんにインタビューを行いました。

You can read this article in English (published April 20, 2021)

バルセロナは国際色豊かなモバイルゲームの集積地

WEB会議システムにてインタビューを実施。背景に写るのは、パックマンのメイズ柄の壁紙

――今回設立された、BANDAI NAMCO Mobileとはどのような会社でしょうか?

久保田:BANDAI NAMCO Mobileは、現時点で最も市場規模が大きく、向こう5年間の成長率も倍増することが見込まれるモバイルゲーム市場、その中でも特に成長が加速している欧米市場にて、一人でも多くのお客様へ我々のコンテンツを届けることをミッションとして立ち上げられた会社です。

モバイルゲーム市場は完全にデジタルかつBtoCの分野であり、従来のようなパブリッシャーとデベロッパーの垣根は基本的に存在していません。そこではより良いものを作り、より良い形で直接お客様に届ける、“開発とマーケティングを兼ね備えた組織”を作る必要があります。

そのためBANDAI NAMCO Mobile は、現地顧客へ制作者の想いを伝え、制作者に現地顧客の声を伝える「マーケティング」、現地内製による現地顧客向けの「コンテンツ開発」、サブスクリプションなどの新しいビジネスモデルに対し、外部の開発会社様と協力しながらさまざまなメディアに挑戦していく「プロダクション」という3つの機能を持つ会社となっています。

特にマーケティングにおいては、日本で開発され既に好評をいただいているコンテンツが多くありますが、より多くのお客様に楽しんで遊んでいただくために、異文化コミュニケーションを乗り越えて現地のお客様の「共感」を得ることが重要です。そのため、現地スタッフと日本のスタッフと共に現地顧客理解の促進、マーケティング活動の現地化(カルチャライズ)、専門化を鋭意進めています。

――さまざまな選択肢があったと思われるのですが、バルセロナに拠点を置いた理由とは? バルセロナはモバイルゲーム関連企業の多い地なのでしょうか?

久保田:まず、デジタル技術によって人々の生活様式やビジネス領域が変わっていくなか、欧米圏という一つの市場を見る際に国家単位で区切る必要性が薄くなっており、言語人口単位でみる方が有効になっています。ゲーム業界で有名な動画クリエイターさんを例に挙げると、その方はイギリス在住のスウェーデン人で英語にて動画を配信されていますが、1億人以上のフォロワーさんは世界中の国々にいます。

また国家単位で世界最大のモバイルゲーム市場の一つであるアメリカ国内の売上トップ100のゲームに目を向けても、アメリカ発、ヨーロッパ発、アジア発でほぼ3等分されています。そうした状況から、欧米圏と日本ではコミュニケーション文化的にも商習慣的にも非常に大きな違いがありますが、少なくとも欧米圏の中においては、「拠点の選択は国家に縛られる必要はない」と仮説を立てました。

そこで大事になるのは欧米圏の中で「競争力の高い優秀な人材をどこで獲得するか?」ということです。そのため我々は、関連人材が集まるモバイルビジネスの集積地はどこなのかと考え、世界中の都市を検証し、バルセロナを選ぶことにしました。

オフィスからは海が一望できる

久保田:その最大のポイントは多様性です。多くの都市は自国籍の企業が多いのに対し、バルセロナは多国籍の企業が進出し大きなモバイルゲーム業界の人材コミュニティが既にあります。その多様性と国際性を背景に、より多くの文化的背景を持ったスタッフに働いてもらうことは、欧米圏全体をターゲットとしたマーケティング活動および、コンテンツづくりにおいて重要なポイントだと考えました。

また、QOL(Quality of Life)が高いという点も重要な要素でした。温暖な気候で海も山も近くにあり、物価も安く、食べ物も美味しい。現地の方々の人柄も良く、日本アニメの認知度も高い。そしてバルセロナ市の人口の半分近くは外国生まれ、5人に1人は、外国籍という国際性のため、インターナショナルスクールも多いです。我々はバルセロナの中だけではなく、欧米圏の各都市とも人材獲得競争をしているため、これらが結合して採用にプラスに働くと考えました。実際、すでに採用に好影響を与えているのを実感しています。

――バルセロナは新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている地域の1つでもあります。BANDAI NAMCO Mobileとしてはどのような対策をとられましたか?

久保田:新型コロナが騒がれはじめた2020年2〜3月はまだ仮オフィスに入居していたのですが、当初から福利厚生の一つとして在宅勤務を導入していたためビジネス上は大きな影響はありませんでした。ただ、オフィスの工事が4ヶ月ほど止まってしまい、逆に在宅勤務しか選択肢がない状態が長く続きましたが、新オフィスでの稼働を9月14日からようやく開始することができました。やはり、各家庭の事情、職種、プロジェクトの進行状況によっては、オフィス勤務と在宅勤務の両方にメリットとデメリットがあるため、両方の選択肢をスタッフに提供できるようになり良かったです。ただ、感染拡大は続いていますので、オフィス内でも外でも3密を避け&マスク着用を徹底して防止策に取り組んでいます。

上下関係のない、独自のフラットな組織体系を採用

――BANDAI NAMCO Mobileでは、現在どのような方々が働かれているのでしょうか? 

久保田:現時点では24人の社員がおりますが、すでに国籍は10カ国ほどで鋭意採用中ですので、今後も広がっていく予定です(2020年11月時点)。経理、採用、総務といったバックオフィスから、パフォーマンスマーケティングマネージャー、データ分析担当などのマーケティング、企画者、エンジニア、アーティスト等の開発まで、多様な職種のスタッフが働いています。

――採用についてはどのような方針がありますか? 日本との違いがあれば教えてください。

久保田: BANDAI NAMCO Mobileではスタッフに最大限に生産性と創造性を発揮してもらいたいと考え、他のバンダイナムコグループ会社ともまた違う、上下関係のないフラットな組織体系を選びました。そして、日本では総合職採用が一般的だと思うのですが、欧米は専門職&中途採用が一般的です。たとえば、マーケティングなら大学でマーケティングを学び、マーケティングのポジションで就職し、キャリアアップにつなげています。そのため、それぞれの職種で高い専門性と経験値を持った人材を採用することが大前提で、必然的に採用プロセスは長期に及びます。たとえば、関連チームのメンバーみんなが採用面接に関わるようにしており、それによって「自分の知らないところで上司が面接して採用が決まる」ということはありませんし、逆に候補者も一緒に横に並んで働く同僚たちがどういった人かを理解、確認した上で入社するかどうかを決めることができます。

オフィス内には和をイメージしたフリースペースも

――それはチームメンバー全員が採用活動にコミットしているということですか?

久保田:はい。採用活動にあたり私がスタッフに伝えているのは「その人を雇うことでチーム力が上がるかどうかを判断してほしい」ということです。フラットな組織なので「自分がこの人と一緒に働いて学べることがあるかどうか」を意識することで、誰か一人が入ればチームとしても会社としても能力が上がることにつながります。また、本来業務遂行能力と人材マネジメント能力は全くの別物ですが、ピラミッド型の組織では、一般的に業務遂行能力が高い人が組織の階段を昇ることが多く、一流の現場がいなくなることで生産性が落ちることもあります。フラットな組織であれば、基本的に横並びなので、各スタッフが得意なことに一分一秒でも時間を使ってもらえるメリットがあります。

ただし、決して横並びイコール個人プレーを推奨しているわけではありません。会社で働く醍醐味は、個人事業では難しい規模の大きな仕事ができることですので、チームプレイは必須です。そのため「ポジティブなことでもネガティブなことでも、会社に対しても同僚に対しても、何か足りていないと思うものがあれば積極的に率直にシェアすることで組織的に切磋琢磨し、集合天才を目指そう。」とスタッフに話しています。言い換えれば、上司はお互いのチームメンバー同士という言い方が分かりやすいかもしれません。

モバイルゲーム市場を獲る、大規模な新規コンテンツを開発中

――すでにモバイルゲームの新規プロジェクトが動いていることと思います。新規コンテンツの開発において大きな方針があれば教えてください。

久保田:1つ目は「自社コンテンツを作りたい」ということです。新しくバルセロナで会社を設立し、現地の優秀なスタッフを雇っているこの状況は大きなチャンスですので、バンダイナムコグループが持っている従来の自社コンテンツに頼るだけではなく、我々で新しい自社コンテンツを作りたいと思っています。

2つ目は「ゲームの規模感」です。具体的には、開発メンバーに対して「複数年の間、何千万〜何億人のお客様に遊んでいただけるゲームを作ってほしい」とお願いしています。1年や2年で終わってしまうようなコンテンツではなく、長い間多くのお客様に楽しんで遊んでもらえる良質なコンテンツを作りたいです。

3つ目は、「残虐表現は止めよう」とだけは言っていますが、「『こういうタイプのゲームを作ってくれ』というお願いはしない」ということです。基本的にジャンルもゲームの内容も彼らに委ねています。フラットな組織体系のもと、「自由と責任の文化」を啓蒙しているため、私が開発のメンバーの提案に対してノーとは言わないようにしています。こうすることで、一人一人がプロジェクトのオーナーであることを意識して、自己意欲、自己規律、自己改善を刺激し、その情熱が日々の制作活動に反映できればと思っています。

たとえば、モバイルゲームの場合、テストローンチの評判が芳しくなければプロジェクトを中止することも多々ありますが、中止するかどうかも彼らに委ねようと思っています。優秀な人材が揃っているので、開発スタッフは自らが作るゲームについて「人生の大事な時間を捧げる価値があるかどうか、お客様にとって価値のあるものかどうか?」を私よりも分かっているはずです。

以上のように「新規自社コンテンツ」「大きな規模感」「残虐表現はNG」という3つの制限を課している以外は、自由に作ってもらっています。ですので、辛抱強く待ちつつ、組織として高いクオリティの仕事ができる環境を作り続けるのが私のミッションだと考えています。

――モバイルゲームはゲームの中でも特にフロンティアと呼べる領域だと思いますが、その開発のおもしろさはどこにあると思いますか?

久保田:おもしろいのは、ユーザー数の規模です。スマートフォンの普及台数は、今までに出ているゲーム機やPCの数よりもはるかに多いので、コンテンツが1億ダウンロードに到達するのもそこまで珍しい話ではありません。そうした規模感まで到達できるのが、モバイルゲームのいちばんの魅力だと思います。もちろん、毎日のように何百もの新しいゲームが出ているので競争が激しいマーケットではありますが、非常に可能性ある領域だと思います。

新たなゲームの未来を作るBANDAI NAMCO Mobile

バルセロナで欧米発のオリジナルコンテンツを開発しながら、日本発コンテンツを欧米市場へ伝えるマーケティングも手がけるBANDAI NAMCO Mobile。日本のみならず世界中のバンダイナムコグループ各社と連携しながら、モバイルゲームの可能性を広げようという同社の試みに、ぜひご注目ください。

▼BANDAI NAMCO Mobile 会社紹介映像もチェック!(※2021年9月14日更新)

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取材・文/坂上 春希
1984年生まれのコンテンツプロデューサー。ライター/カメラマンとしても、ガジェット、ビジネス、インテリア、カルチャー、テクノロジー等の分野に渡りメディアや広告の分野で活動中。