『アイドルマスター』星井美希SHOWROOM配信の裏側【後編】「美希らしい」配信のために心がけたポイント

2020年7月11日にSHOWROOMで配信された「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOM。勝股春樹プロデューサーに配信の裏側を語っていただくインタビューの後編をお届けします。配信までの経緯に迫った前編に続き、後編では当日の配信に込められたさまざまな工夫について聞きました!

「美希らしい」配信とは? アイドルの魅力を際立たせるための工夫

生配信をする星井美希

――まずは「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOMにおいて、皆さんが最も気を使った点はどんなところですか?

勝股:今回は、劇場のようにクローズドな場所ではなく誰でも観られる生配信だった、という点ではクオリティの面でかなり気を遣いました。それでも大変だという感覚はあまりなくて、準備段階から楽しいという気持ちが勝っていたんだと思うんです。

今回もバンダイナムコスタジオのBanacastチームを中心に、配信まわりは 「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC GROOVE♪ENCORE☆(以下、MR ST@GE!!)」 の演出家さんのチームで仕切っていただきました。最初に「MRを配信でやりたいです」と各所に連絡した時も、次々に「やりましょう!」「何とかします!」とすぐに返事が返ってきて…むしろ、そういう前向きな返事しかありませんでした(笑)。

皆さん「MR ST@GE!!」の取り組みをいいものだと思ってくださり、プロデューサーさん(ファンの総称)たちが喜んでくれていることも含め、企画を面白がって前向きに取り組んでくれたので、とてもスムーズでした。「絶対にやるでしょ!」という気持ちでいてくださる方々が、本当にたくさんいたんです。作り手側が前のめりなところは『アイドルマスター』シリーズの良さだと改めて思いました。

――勝股さんが当日の配信で「ここがよかった!」と思ったポイントはありますか?

勝股:やっぱりグッと来たのは『Day of the Future』の中で披露したハイキックですね。僕も思わず「うわ、かっこよ!」って声を出してしまいました(笑)。 あのシーンをきっかけに一気にラストに向けて気持ちが高まっていく感覚があり、LIVEさながらの臨場感ある興奮がありました。あとは美希とプロデューサーの会話シーン。ちょっと近い距離で、美希が上目遣いになっていたんですけど、これはMRの配信ならではのアングルで、ドキッとした方も多かったのでは?(笑)

プロデューサーが美希を見下ろす視界
プロデューサーが美希を見下ろす視界

――なるほど! 本当に細かいところまでこだわりが隠れていたんですね。

勝股:配信では、美希が4つの距離感で視聴者の皆さんと触れ合っていたと思います。まずは楽しそうに「ファンとトークする距離感」、途中で少し仕事モードが入っている「プロデューサーさんに相談する時の距離感」、『Day of the Future』を披露する時の「パフォーマンス中のファンとの距離感」、そして最後に配信を終えて親愛度MAX状態で「ハニー」と言いながら「プロデューサーさんのもとに駆け寄る時の距離感」ですね。

――最後の距離感は、プロデューサーさんが大好きな美希ならではですね。

勝股:はい(笑)。そんなふうに美希の気持ちを物理的な距離感によって違って感じられるところは、僕の中でも観ていてこの放送ならではだな、と思ったところでした。皆さん気づきましたかね?

勝股春樹プロデューサー
第2IP事業ディビジョン 第1プロダクション2課 チーフ 勝股春樹プロデューサー

――序盤ではおにぎりの話をずっとしていたのに、最後は『Day of the Future』でかっこよく歌とダンスを決めてしまうギャップも、美希らしさが感じられてとても楽しかったです。

勝股:美希は天才肌ですごいポテンシャルの持ち主ですが、、基本的には気分屋ですよね。でも「MR ST@GE!!」に関してはやる気があったんだと思います。プロデューサーさんがアンコール公演を望み、実現してくれたんですから。だからこそ美希も生配信に向けては、「がんばる!」という気持ちだったと思います。

今回の企画の決め手の一つになったのは「SHOWROOMって美希っぽい」と思ったからなんです。そして実際にやってみたら、いろんな方が観てくださって、結果的にバズってしまうというのも何だか美希っぽいですし。そういう意味でも、最初から最後まで美希らしさがいろいろと感じられる配信だったのかな、と思います。

――皆さんは、その美希らしさを伝えるために準備されたわけですね。

勝股:そうですね。最終的にはちゃんと美希の魅力が伝わるものになったのかな、と思ってほっとしています。

『アイドルマスター』のイベントは「同好の士の集い」。改めて原点に返ることの大切さ

――視聴者の方々の反応でうれしかったのはどんなことですか?

勝股:今回に限らず普段から、『アイドルマスター』をもっと好きになってほしい、好きでよかったと思ってもらいたい、という気持ちで取り組んでいるので、今回もそういう反応をいただけてよかったと思いました。技術的に褒めていただくことももちろんうれしいのですが、それ以上に今いろいろと大変な状況のなかでも「元気をもらえた」「楽しかった」と思っていただけたら、それが一番うれしいです。「公演の中止は悔しかったけど、配信できてよかった!」という気持ちは、美希も我々も同じでした。

美希がファンの皆さんを楽しませようと頑張っている姿を見ていると、「美希、すごくアイドルしているな!」と感じましたし、現実のアイドルと変わらず元気や感動を与えられていることのすごさを改めて感じました。あの配信の後、僕らスタッフ陣にも「ありがとう!」と言ってくださるプロデューサーさんもたくさんいたのですが、今回の挑戦も、プロデューサーの皆さんの日頃の支えや応援によって実現できたことだと思っているので、こちらこそ「いつもありがとうございます!」という気持ちです。

勝股春樹プロデューサー

――「MR ST@GE!!」の中止が決まって落胆していたプロデューサーさんたちにとって、今回の生配信は最高のプレゼントになったように感じます。勝股さんは、今回の生配信を振り返ってみて、どんなことを感じますか?

勝股:まずは『アイドルマスター』という作品が愛されていて、15年続いてきた765PRO ALLSTARSが、まだまだ新しい可能性を見せられることが、すごくうれしいです。今のような状況になって、これからは”量”よりも”質”の時代に変わっていくんじゃないかという気もしていて。「“質”とは何だろう?」「エンターテインメントとは何だろう?」ということを、僕自身、改めてすごく考えさせられました。

やはり、誰かに寄り添って元気を届けられることがエンターテインメントの魅力で、その方法/手段がバーチャルライブであったり、リアルライブであったり、ゲームであったり、アニメであったりすると思うんです。もともと『アイドルマスター』のイベントにも、「同好の士の集い」として、『アイドルマスター』シリーズを好きな人たちが集まれる、みんなが”アイマス愛”でつながれる場所をつくりたい、という想いがあります。

そして今回、コロナ禍で物理的に会場に集まることが難しくなった時に、美希というアイドルを起点にして、生配信という形でも「同好の士の集い」をつくれたことが、僕はすごくよかったと思っています。本質や原点に立ち返る大切さを改めて感じましたし、その機会が生まれたのも、ある意味このような状況だからこそかもしれません。自分の内側にあったものを改めて明確に思い出した、という感覚でした。

先端技術と人々の想いによって広がる、シリーズ15年目の新たな可能性

――今回のような生配信は、これからも選択肢として考えていくのでしょうか?

勝股:「MR ST@GE!!」はもともと10周年を迎えた『アイドルマスター』の次の未来に向けた新しい可能性への挑戦です。それがクローズドな会場での開催から、今回生配信を使ったオープンなものになって多くの方に受け入れられたことで、プロジェクトとしては着実に前に進んでいると思うので、MRに限らずですが、これからもいろんな可能性に挑戦したいと思っています。

プロデューサーさんがプロデュースしていく中で、「こんなことをやってほしい」と思ったことはすべて実現するかもしれないひとつの可能性です。皆さんと共に我々もいろいろと妄想しながら可能性を探っていきたいと思っています。

そしてその際に大切なのは、「新しいことだからやる」のではなくて、「プロデューサーさんたちが喜んでくれるものを考えた結果、新しいことができた」という、この順番を間違えないことだと思っています。こちらから一方的に押し付けるのではなくて、そのときどきのニーズに合ったものを提供して、「『アイドルマスター』を好きでよかった」と思ってもらえるようにがんばっていきたいと思います。

「MR ST@GE!!」に関しても、技術だけでなく、見せ方などの知見がますます溜まってきていますし、最初は空席もあったものが、回を重ねるたびに来てくださる方が増え、今ではチケットもかなりの倍率になってきました。また、今回の美希の生配信でも、約10万人の方が観てくださったと考えると……着実に765プロのアイドルたちのアイドルランクは上がっているのかな、と思うんです。

勝股春樹プロデューサー

――勝股さんは2018年の「MR ST@GE!!」の立ち上げに際しても、「765プロがまた小さな箱から、大きな会場をめざしてがんばっていけるものにしたい」と話されていましたね。

勝股:そうですね。今の形になるまで、プロデューサーさんたちがつくってきてくださった土壌に、新規の方が増えるのと同時に、初期からのベテランの皆さんも現役でずっと活動を支えてくれるような、そんなコミュニティが育ってきているのかな、と思います。アイドルたちだけでなく、それを取り囲むプロデューサーさんも含めて、リアルな熱気が広がっていくような――。そうやって今新規層を開拓しているのが、765PRO ALLSTARSだというのは、本当にすごいことですよね。

――最後に、記事を読んでくれているプロデューサーさんにメッセージをお願いします!

勝股:このような状況で大変ななか、『アイドルマスター』を支えてくださって本当にありがとうございます。こんな時だからこそ、僕らも皆さんが前向きになれるものを届けられるよう、より一層努力していきます。プロデューサーさんがプロデュースしがいのあるコンテンツを届けられるようがんばりますので、これからもプロデュースよろしくお願いします!

前編記事はこちら

勝股春樹プロデューサー

【取材後記】
約10万人が見守った星井美希のSHOWROOM配信の裏側、いかがでしたでしょうか? 勝股Pのお話を聞いていて、おもしろいエンターテインメントを生み出すためには、細部までこだわり抜いた技術や工夫に加えて、「何のためにがんばるのか」という、気持ちの部分が大切だということを、改めて実感しました。今年で15年目を迎えた765プロのアイドルたちは、MRの舞台でどんなふうに活躍していくのか、ますます楽しみになりました。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。