【宮河社長対談連載】第一回 後編 『アイマス』坂上P&『鉄拳』原田Pと考える「テクノロジーが変えるエンターテインメントの形」

バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長が、社内外のゲストと「新しい生活様式」にまつわるさまざまなことについて対談する連載。第一回後編では、前編に引き続き『アイドルマスター』シリーズの坂上陽三プロデューサーと、『鉄拳』シリーズの原田勝弘プロデューサーとともに、ゲームとテクノロジーの関係や「新しい生活様式」の中でのエンターテインメントについてお話しいただきました!

『ガンダム』『アイドルマスター』『鉄拳』。各シリーズに絶対欠かせない条件

左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー
左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー

宮河:坂上さんと原田さんに聞いてみたいんだけど、お二人の中では「これを満たせば『アイドルマスター』になる/『鉄拳』になる」というルール、“憲法”のようなものはあるの? 例えば、僕が関わってきたガンダムだと、「ロボットが出てくること」「青春群像劇であること」「戦争状態を描いていること」が条件で、監督にはこの3つしかリクエストしていません。

つまり、基本的には「この3つを踏まえて自由につくってください」と伝えているんです。そのため、映画『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』のときには、監督の水島精二さんに「宮河さん、地球外生命体(ELS※)を出してもいいですよね? だって、”憲法”にダメとは書いてないでしょ」と言われて、「そうだよ」と答えるしかありませんでした。

※読み方は「エルス」。『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』に登場する金属生命体

坂上&原田:(笑)

宮河:もちろん、彼はいわゆる8本足の分かりやすいビジュアルの宇宙人を描いたわけではなく、ELSを登場させました。そこはすごく良かったと思っています。

――では坂上さん、原田さん、いかがでしょうか?

坂上:『アイドルマスター』の場合は、やはり「青春群像劇」であることが大切な条件です。でもそんなに複雑なことは決めていなくて、「広く捉えられる」ことも大事だと思っています。実は、僕らが新しく作品を立ち上げる段階では、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』にしても、最終的に「アイドルマスター」とタイトルにつけなくても良いというつもりで企画をスタートさせているんです。

もちろんある程度シリーズに加わることは想定していますが、最初からそれを前提にはせずに「こういう方向性であれば、むしろ『アイドルマスター』とつけた方がよい」という判断を、あとの段階でジャッジしています。ゼロベースでものをつくる際には、「このシリーズってこうだよね」という先入観が作品の邪魔をしてしまうこともありますから。

坂上陽三プロデューサー
『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサー 
第2IP事業ディビジョン 第1プロダクション エキスパート

宮河:なるほど。この間『アイマス』シリーズの15周年を記念して配信された「だいたい15時間生配信」を観ていても、5つのブランドのそれぞれの個性を番組内で共存させようとしているのが、観ていてすごくいいなと思いました。シリーズの中で、ケンカをしたりすることはない?

坂上:もともと「『アイドルマスター』シリーズ全体が好きだ」と言ってくださる方が必ず一定数いて、その方々がコミュニティの間に入ってそれぞれの作品を繋いでくれているんですよ。

宮河:ファンのみなさんが優しいんだね。『鉄拳』にも制作する上での”憲法”のようなものはありますか?

原田:『鉄拳』の場合は逆に、「そういうものがない」ことが特徴なのかもしれないです。もともと、僕らはテクノロジーベースで作品をつくってきた人間で、変にポリシーを持たないことを大切にしてきたんです。だからこそ四半世紀以上生き残れているのかな、と思います。

坂上:『鉄拳』は初期から何でもありのハチャメチャ感がありましたよね。

原田:そうですね(笑)。その時々に流行っているいいものを取り入れていこう、という発想で。3D格闘に2D格闘の要素を混ぜることに関しても、本来ならその二つを混ぜない方がいわゆるアーティストの作品らしいものにはなると思うんです。だけど僕らは、「混ぜても何とかできちゃうのが技術ってものでしょ」とも思っているんです。そんなふうに、技術で何とかするという発想で続いてきたのが『鉄拳』です。

原田勝弘プロデューサー
『鉄拳』シリーズ原田勝弘プロデューサー 格闘ゲーム部門のesports戦略リーダーも務める

テクノロジーと歴史を重ねた『鉄拳』と、テクノロジーで世界を広げた『アイドルマスター』

宮河:なるほど、『鉄拳』はテクノロジーファーストなんですね。

原田:はい。そのため『鉄拳』では各ステージの大きさも形もバラバラですし、それによって駆け引きを左右する要素やルールすらも変わってきました。それらは基本的に「技術的にできるようになった」というのが大きな理由だったりもします。

「面白いか/面白くないか」とは別に、「できるようになった」という基準があって、キャラクターデザインにおいても、「左右非対称にできるようになったから、アシンメトリーのキャラクターを登場させよう」ということが起こったりしました。基本的に、『鉄拳』の歴史は「できなかったことができるようになってきた歴史」でもあって、最近になってやっと技術的なリミットが外れてきたことで、僕らもようやくキャラクターファースト、アートデザイン的な発想になってきました。技術的にさまざまなキャラクターを制作できるようになって初めて、いろんなセリフやストーリーをより深く考えるようになったんです。

宮河:面白いですね。僕はもともとキャラクターファーストな人間だから、実は「『鉄拳』のキャラクターって、何でこんなにポリシーがないんだろう?」とずっと思っていたんです(笑)。でも今の話を聞いてよーく分かりました。誤解していましたね。

宮河恭夫社長
バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長 『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』といった00年代のガンダム作品に関わり、2010年代の自社コンテンツ×ライブ事業を支えたことでも知られる

――テクノロジーによってできることが広がる、という意味では、今年7月に行なわれた「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOMもとても印象的でした。

坂上:あれはもともと2月に開催される予定だった「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」で使うはずの3Dモデルでしたが、今回の新型コロナウイルス感染症の影響で彼女が主演の公演が中止になってしまいました。その中で、「生配信がやりたい」というアイデアがスタッフからあがってきたんです。そういう経緯もあって、生配信の舞台設定もライブのステージではなく事務所から届ける形にしました。

――ライブが中止になってしまったからこそ、事務所からの配信だったんですね。

宮河:あの生配信、よくできていましたよね。冒頭、カメラの位置を調整する様子から配信がはじまったのを見て、「ああ、これはいいものになるな」と思いました。

坂上:本格的な企画として、生配信というオープンな方法で「MR ST@GE!!」の技術を披露するのは初めての試みでした。そんな中で、美希の挙動一つとっても、実は多くのスタッフが臨機応変に連動していくことでようやく成り立つものですので、各スタッフのプレッシャーはすごかったと思います。

原田:大変そうだなぁ。

宮河:でもまったく違和感がなくて、本当にすごいと思いましたよ。

坂上:キャクターの個性やイメージ、配信としての大きな構成など、ある程度の想定はありつつも、本番は生配信の一発勝負で進めていった形ですね。

これからのエンターテインメントに必要なのは「場」の提供

――ここまでさまざまなお話を聞いてきましたが、みなさんはコロナ禍でのエンターテインメントの可能性について、今どんなことを感じておられますか?

坂上:『アイドルマスター』に関しては、ようやくコロナ禍の状態での進行に慣れはじめて、オンラインでの体験とフィジカルでの体験をどのように繋いでいくのかを、みんなでディスカッションしているところです。今はまだ言えませんが、いろいろと考えているので楽しみしていていただけると嬉しいですね。例えば、ライブではない形で歌を使うようなもので、みんなで集まって楽しめることもありますよね……ということも考えたりしています。

坂上陽三プロデューサー

原田:『鉄拳』のような歴史あるタイトルの場合は、コロナ禍以前からもともと失ってきたものが多くて、例えば日本には今も存在していますが、欧米では90年代の終わりにゲームセンターのような場所がものすごい速度で一気に失われました。そんな時代を経て、プレイヤーが自分たちで集まる場所を作ったり、イベントを開催して各国、各地域でコミュニティを作って大きくしてきたんです。それらがやっと根付きはじめた頃に、今回のコロナ禍で、作り上げたコミュニティすら奪われてしまったという側面があるんです。

もともとアーケードゲームの場合、プレイヤー同士が戦う前にお互いの様子を見て「対戦したいな」と思ったり、ライバルがものすごい形相でこっちを見ていたりすることも含めてドキドキしたりすると思いますが、オンライン対戦ではその情報がすべて失われてしまいます。

ですから、オンラインでも臨場感を持って対戦してもらうために、今そういった情報を何らかの形で疑似的に再現することも視野に入れています。ゲームセンターで「向こうの4番目にいるフーディーを被って佇んでるやつとは当たりたくないな」と思ったりすることって、実はゲームの臨場感にとってすごく大きな役割を果たしていると思うので。

宮河:今の話を聞いていても思いますけど、これからのエンターテインメントにとって大事になるのはプレイヤーのために開かれた「場」なのかもしれませんね。例えば、バトルロワイアルゲームやFPSなどがゲーム内でさまざまなイベントを開いていることもそうですが、今後ゲームのプラットフォームが「場」の役割を果たすというのは、僕も間違いなくそうだと思います。今の話を聞いてそうしたことがひとつに繋がった気がしました。お二人に期待しています。

――最後になりましたが、コロナ禍においてエンターテインメントがどんな役割を果たすと思っているかについて教えていただけますか?

坂上:いつの時代もそうですが、エンターテインメントの役割はストレスの発散や癒やしだと僕は思っていて、その2つの要素の中で、時代によって求められるものが微妙に変わってきたんだと思っています。そしてそれをこれからも続けていくのかな、と思います。

原田:僕は東日本大震災のときに「エンターテインメントにできることはないのか」とすごく打ちのめされた時期があったんですが、今回コロナ禍で動画配信サービスなど在宅のエンターテインメントが求められている様子を見て、「エンターテインメントというのは、人が自然に求めるものなんだな」と思いました。ですから、ゲームの中でどんなふうに人が繋がって楽しさを共有できるのかを、僕らが考えていかなきゃいけないな、と思っていますね。

原田勝弘プロデューサー

宮河:僕はエンターテインメントというのは、世の中がどんなに困難な状況になろうとも、絶対に必要とされるものだと思っているんです。決して生活必需品ではないけれども、いいものをつくれば絶対に必要とされるもの。つまらないものをつくってしまうと一瞬で飽きられてしまいますが、面白いものをつくればずっと残り続けると思うんです。そこがすごく面白いな、と思っています。

前編記事は こちら

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注意事項に関しては、以下のページをご確認ください。
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【取材後記】
今回印象的だったのは、新型コロナウイルス感染症の収束が見えない中でも、前向きに未来について語るお三方の姿でした。たとえ逆境に立たされても、知恵やアイデアを絞ることで、その未来は大きく変わっていくと信じています。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。