【宮河社長対談連載】第一回 前編 『アイマス』坂上P&『鉄拳』原田Pと考える「リモート時代のエンターテインメントづくり」 

新型コロナウイルス感染症の流行を想定して「新しい生活様式」が提言されました。エンターテインメントはこの状況にどのように向き合っていけばいいのでしょうか? バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長が、社内外のゲストと「新しい生活様式」にまつわるさまざまなことについて対談する連載がスタートします。第一回目前編では、『アイドルマスター』シリーズの坂上陽三プロデューサーと、『鉄拳』シリーズの原田勝弘プロデューサーとともに、バンダイナムコエンターテインメントでのコロナ禍の取り組みを中心にお話いただきました!

2月末からリモート勤務に。安全対策だけではなく、開発環境を切り替える狙いも

左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー
左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー

――バンダイナムコエンターテインメントでは、2月のかなり早い段階で、コロナ禍での勤務方式への移行が進められていったそうですね。

宮河:2月の末にはイベントの中止や延期を順次発表し、勤務形態もリモート勤務に切り替えました。リモート勤務に移行したタイミングとしては、世間的にもかなり早かったと思います。というのも当時の状況に鑑みて、「全社員が一度出勤をやめた場合、会社としての機能はどうなるのだろう?」ということを、早い段階で一度試す必要があると思ったんです。

坂上:正直に言うと最初は驚きましたが、僕はその頃厳しい感染症対策を行なっていた台湾に出張して現地の雰囲気を感じていたので、「これは仕方ない」とも思っていました。

原田:実は宮河さんが社長に就任した当初から、開発環境をクラウド化して「世界各地のクリエイターとみんなで24時間仕事を回せるような環境にしたい」という話をしていたので、ある意味では今回がそのいいきっかけになった部分もあるんですよ。

これからのアソビは「デジタルとフィジカルが混ざりあったエンターテインメント」

――つまり、コロナ禍前から準備されていた働き方改革への意識が役立ったのですね。

宮河:坂上さんの『アイドルマスター』チームはずっとライブをやってきたわけですが、今回を機にデジタルな領域でのイベントの可能性を本格的に考えはじめたんじゃないかと思います。一方で原田さんのチームは、昨今のesportsの盛り上がりを受けて、本格的に人を集めて「イベントをやるぞ」というときに、オンラインに移行しなければいけなくなりました。

それぞれ状況は違っていたかもしれませんが、今回の出来事はどの作品にとっても「デジタルとフィジカルの両方を生かしたイベント」を考えるいい機会にもなりましたし、ここからその2つが混ざった新しいエンターテインメントが生まれていくんじゃないかとも思っています。そして今こそ重要なのは、実は「フィジカルな体験」だとも僕は思うんです。今やフィジカルな要素は逆に貴重品にもなっていますからね。

宮河恭夫社長
バンダイナムコエンターテインメント宮河恭夫社長 『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』といった00年代のガンダム作品に関わり、2010年代の自社コンテンツ×ライブ事業を支えたことでも知られる

――宮河社長はバンダイナムコライブクリエイティブ(『機動戦士ガンダム』シリーズ、『ラブライブ!』シリーズ、『アイドルマスター』シリーズなど、さまざまな自社コンテンツのライブ/イベントの制作会社)を立ち上げた方でもありますが、今のお話はデジタルなものとフィジカルなもの両方について考えてこられた方ならではの視点だと感じます。

宮河:僕はバンダイナムコライブクリエイティブを立ち上げて「自社コンテンツ×ライブ事業」に力を入れてきましたが、ライブの楽しさがある一方で、今の状況に合わせてデジタルとフィジカルの両方を生かしたものや、オンラインならではのライブ体験も生み出してもらおうとしています。

例えば、オンラインライブなら国外では韓国などがすでに洗練されたものをやっていて、ライブを観ている観客自身の姿が演出としてステージ上の画面に映されるものなど、さまざまなアイデアが生まれつつあります。ただ画面でライブを観るだけならテレビと同じですし、今はビデオ通話の普及によって自宅にウェブカメラを持っている人も増えていますから、インタラクティブな環境ならではの発想でみなさんが楽しめるものを考えていきたいですね。

クリエイティブな仕事が抱えるリモート勤務のジレンマと、面白いものを生み出すために必要なこと

宮河:僕は公共機関などを使わずに出社できる場所に住んでいるので、社員がリモート勤務に移行してから、誰もいないオフィスにひとり出社していろんなことを考えていたんです。

そうした中で「そこに人がいることで生まれること」の大切さを感じましたし、最近では家でもできることと会社だからできることの整理ができはじめているとも感じています。現在は原田さんが出向しているバンダイナムコスタジオでも、各社員の自宅に開発環境を整え、出社率は5~6%になっているんですよ。

バンダイナムコエンターテインメントがリモート環境に移行した際に
宮河社長が全社員に向けて送ったビデオメッセージ

ご自宅で過ごす時間が長い今だからこそ。バンダイナムコエンターテインメントが掲げる「More Fun for Everyone at Home」

原田:デザイナーにいたっては、100%リモート勤務で作業できる環境になっていますね。ですが、一方でリモート勤務における課題も実感しています。『鉄拳』チームのように長く一緒にやってきたメンバーなら、すでに阿吽(あうん)の呼吸があるのですが、新しいメンバーやチームと完全新規の作品をつくる場合には、リモートで打ち合わせをしても「この人が話したくてうずうずしている」「この人が不満に思っている」ということがどうしても汲み取りにくいんです。

「原田が言ってること、ちょっと違うと思うな」という人がいたら、本来ならその気持ちを拾ってあげることでアイデアがよりよくなると思いますし、仮に口下手だけれどもいいアイデアを持っている人ならば、その人の考えていることを引き出してあげることでより有意義な時間になるはずで、少なくとも僕はそうやって意見を拾ってきました。ですが、現状リモート勤務でのビデオ通話では、発言している人への反応や細かな仕草や表情が分かりづらく、得られる情報量が圧倒的に足りないんですよ。

原田勝弘プロデューサー
『鉄拳』シリーズ原田勝弘プロデューサー 格闘ゲーム部門のesports戦略リーダーも務める

坂上:つまり「共感を感じ取りにくい」ということですね。

原田:そういう意味でも、「クリエイティブなものをつくるために、人が集まることは必要だな」「むしろ、こういうことで集まらなければいけなかったんだ」と改めて感じました。

宮河:これはいつも言っていることなんですが、クリエイティブな作業では実際に顔を合わせることがとても大切で、オンライン上だけで面白い作品をつくるのは現時点では難しいと思っているんです。

何かをつくる際は、最初はリアルな場で集まって、その後それぞれに作業して、最後はまた集まってやりとりしてほしい。この環境下でそれが難しいなら、時間やメンバー、部屋を分けてでも絶対に集まってほしい。というのも、クリエイティブに関する作業では、お互いの意見やこだわりを徹底的に詰めることが何よりも重要で、そうするためには実際に会って徹底的に話し合うことが必要です。今の状況でもそこを妥協しないようにしなければ、2年後などにきっと面白くないコンテンツが世の中に大量に出ることになってしまいます。

坂上:一見些細なことに思えても、やりとりの分かりやすい部分だけを拾ってしまうことで面白いものが生まれなくなってしまうんです。将来的にテクノロジーが進化すれば、オンラインだけでも面白いものは生み出せるはずですが、今はまだそうなっていないんですよ。

『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサー 
第2IP事業ディビジョン 第1プロダクション エキスパート

『鉄拳』の課題はオンライン大会の開催と「観客の熱量」の反映

――では、コロナ禍での『アイドルマスター』『鉄拳』それぞれの取り組みについて聞かせてください。まず『鉄拳』の場合は、年間を通して行なわれる「Tekken World Tour 2020」の中止が発表されました。

原田:そうですね。また、世界中で行なわれていたコミュニティの大会も開催が難しい状況です。そこで、僕の方では対戦格闘系のesportsのパブリッシャーの方々にお声がけをし、オンライン上で一堂に会する配信番組「日本格ゲーメーカー連合会」を始めました。ゆくゆくはこれをオンラインでの大会や、デジタルとフィジカルが結びつく大会として繋げていけたら、と思っています。

また、『鉄拳7』は家庭用をリリースして3年ほど経ちますが、特にコロナ禍以降ユーザーの方々からオンライン対戦について要望をいただくことが非常に増えました。そこで今後オンラインの大会がさらに増えていく前に、僕らとしてもより快適なプレイをサポートしたいと考え、従来の予定を変更して今年はその部分に優先して取り組んでいるところです。

YouTubeのtekkenchannelで配信中

宮河:ちなみに、世界中でオンライン上でのesports大会が開催されるようになると、そのときに生じる地域ごとの時差の問題はどうなるんだろうね? 例えば、海外の午後に行なわれるオンラインでの発表会が、僕らにとっては早朝になることがよくありますよね。そんなふうに、オンラインでは見る人たちが同じ時間帯を共有しているわけではありません。そういった部分がどうなるかは気になります。

左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー

原田:実はそれは僕らも困っているところで、おっしゃる通り、時差はデジタルで技術でも解決できません(笑)。現状では、ある程度地域で分けるしかないのかな、という話になっているところですが、今後の課題のひとつになっていくかもしれませんね。

宮河:何か楽しい形で解決策を考えられるといいですよね。

原田:また『鉄拳』の場合は、世界各地にあるファイティングコミュニティのためにも、中止になったコミュニティの大会などについて、可能な限り補填をしています。そのうえで、今年はオンラインでの環境を整えることと、世界各地のコミュニティに対してどんなツールを渡せば彼らがオンラインで大会を開催できるかを考えているところです。

例えば、これまでは大会の模様を配信するには会場で対戦している画面から直接ケーブルを引けばよかったのですが、オンライン大会ではそうはいかないので、いわゆる観戦者用の視点が別に必要になってきます。また、普段の大会では実況中継の際に会場の歓声を拾ったりもしていますが、そういったユーザーの声をオンライン上にどう反映させて、どう熱量を感じてもらうかを今一生懸命考えています。競技として選手のプレイに影響しないよう配慮した形で、最終的にはその熱気が選手にも伝わる仕組みを考えたいと思っていますね。

原田勝弘プロデューサー

オンライン上に『アイドルマスター』の拠点をつくる。15周年目に大切にしたいこと

――一方『アイドルマスター』の場合も、今年は多くのイベントの中止が発表されました。

坂上:そうですね。『アイドルマスター』は今年で15周年を迎えたこともあり、もともと2年ほど前から、いろいろなイベントやライブを準備していたんです。そこで、まずはみんなで改めて『アイドルマスター』のイベントが持つ意味を考えることから始めました。

そこで改めて感じたのですが、アニメの場合は出てくるキャラクターが主人公ですよね。ですが『アイドルマスター』はゲームなので、ひとりひとりのプロデューサーさん=ユーザーの皆さんが主人公です。これが『アイドルマスター』がずっと大切にしてきたことで、そう考えるとアイドルコンテンツとして「ライブ」という形式を取ってはきたものの、もともとはプロデューサーさんたちが集まれるオフ会のような場所をつくりたい、という発想で始まったもので、「僕らにとってのイベントとはなにか?」に改めて気づかされました。

坂上陽三プロデューサー

――なるほど、最初は必ずしもライブが大本にあったわけではない、と。

坂上:そう再認識したときに、たとえリアルの会場でのライブではなくても、みんなで集まって共感できる環境をつくることが大切なんじゃないか、ということを強く思ったんです。そこで、もともと計画していたことでもありましたが、YouTubeに『アイドルマスター』のチャンネルを開設し、公式サイトで「アイドル名鑑」を公開しました。

これはオンライン上に『アイドルマスター』の拠点をつくるイメージですね。現在シリーズにはアイドルが315人ほどいますが、プロデューサーさんの中にはひとつのシリーズに思い入れを持っている方もいますから、そうした人々を緩やかにつなぐものにしたいとも思っていました。今年が15周年イヤーということもあり、この数ヶ月はそういうことを特に大切にしてきました。

アイドル名鑑
『アイドルマスター』シリーズ合計300人以上のアイドルが
50音順、年齢、身長、名前から検索できる「アイドル名鑑」。
ランダム表示で、まだ知らなかったアイドルに出会うこともできる。

リモート勤務により、世界中のスペシャリストとものづくりができる時代が到来した

――コロナ禍で働き方を変える中で、みなさんがよかったと感じたことはありますか?

原田:実はまさに今朝の話なんですが、ぜひ一緒に仕事をしたいと思っていた沖縄の方とリモート勤務で仕事ができる環境になったため、一度お話をしました。これは実際にとてもいいことだと思いました。

宮河:沖縄だけでなく、それがマレーシアでも他の国でもどこでもいいですよね。

――地理的条件に関係なく、一緒に働きたい方と何かをつくれるのはとても魅力的ですね。

坂上:そういったことをみんなで共有できたということが、コロナ禍でも特によかったことのひとつなのかもしれません。これまで以上に、さまざまなスペシャリストの方と一緒にモノをつくれる時代になってきたと思うので。

左から坂上陽三プロデューサー、宮河恭夫社長、原田勝弘プロデューサー

後編記事はこちら

『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサーのサイン色紙をプレゼント! 
ファンファーレPresents  BNE公式Twitterフォロー&RTキャンペーン

今回の対談を記念して、BNE公式Twitter( @bnei876 )にて、『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサーの直筆サイン色紙のフォロー&RTキャンペーンを開催します!下記応募規約をご確認の上、ぜひご参加下さい。

サイン色紙を書くのは久しぶりという坂上さん。とてもレアな1枚です!

また、『鉄拳』シリーズ原田勝弘プロデューサーの直筆サイン色紙プレゼントキャンペーンは、後編公開日の10月6日(火)に開始予定です! お楽しみに!!

【キャンペーン概要】
<プレゼント内容>
A賞:『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサー 直筆サイン色紙 1名様
B賞:BNEオリジナルデザインAmazonギフト券(500円分)10名様

<応募方法>
① バンダイナムコエンターテインメント公式Twitterアカウント(@bnei876)をフォロー
② 該当ツイートをリツイート

<応募期間>
9月3日(木)10:00~9月10日(木)23:00まで

【キャンペーン応募規約】
▼キャンペーン概要
・株式会社バンダイナムコエンターテインメント(以下、当社といいます)は、バンダイナムコエンターテインメント公式Twitterアカウント(@bnei876)フォロー&リツイートキャンペーン(以下、本キャンペーンといいます)を実施いたします。

・本キャンペーン期間は9月3日(木)10:00~9月10日(木)23:00に該当ツイートをリツイートした方が対象となります。

▼プレゼントの内容
『アイドルマスター』シリーズ坂上陽三プロデューサーの直筆サイン色紙を1名様、BNEオリジナルデザインAmazonギフト券(500円分)を10名様にプレゼント。

▼応募方法
・バンダイナムコエンターテインメント公式Twitter(@bnei876)をフォロー、該当のツイートをリツイートで応募が完了となります。

▼注意事項
注意事項に関しては、以下のページをご確認ください。
https://funfare.bandainamcoent.co.jp/terms/

【取材後記】
前編では、コロナ禍でのバンダイナムコエンターテインメントの働き方や制作にまつわる取り組みと可能性についてお話いただきました。続く後編(10月6日(火)公開予定)では、より踏み込んだ『アイドルマスター』『鉄拳』のプロデュース論や、それぞれの自社コンテンツの先を見据えた取り組み、そしてコロナ禍以降のエンターテインメントの在り方について、引き続きお話しいただきます!

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。