ゲーム化は困難だと思われていた?『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』二見プロデューサー & ReoNaさんインタビュー

ゲーム化は困難だと思われていた?『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』二見プロデューサー & ReoNaさんインタビュー

『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』シリーズ最新作として2020年7月9日に発売されたPlayStation®4、Xbox One、STEAM®(PC)用ソフト『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』。そのこだわりとシリーズの歩みについてゲーム版『SAO』シリーズ統括プロデューサーの二見鷹介さんに、そして主題歌「Scar/let」について絶望系アニソンシンガーのReoNaさんにお話をうかがいました。

ゲーム化が困難だと考えられていた『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』

『ソードアート・オンライン』ゲームシリーズ統括プロデューサー二見鷹介さん
『ソードアート・オンライン』ゲームシリーズ統括プロデューサー二見鷹介さん

――今作で最もこだわったポイントはどのような部分でしょうか?

二見:『アリシゼーション』の世界を再現すること、ですね。ユーザーがアニメや原作で見た世界を体験するためには、作中の世界《アンダーワールド》の説明をしっかり行った上で、フィールドの美しさにこだわるなど、地道な積み上げが必要となりました。

そのため『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』の第一章には、アニメ版『アリシゼーション』の前半戦が丸々入っていて、そこからやっとゲームオリジナル部分に移行する流れになっています。

――アニメ版『アリシゼーション』前半24話までが第一章に収まるというのは大ボリュームですよね。

二見:『アリシゼーション』編は『SAO』シリーズの中でも人気エピソードなんですけど、特別ボリュームが多い話で。原作でいえば、他のエピソードが4巻程度なのに対して『アリシゼーション』編は約10巻にも及んでいますからね。それをゲームにするのはとても大変で、そのための工夫として今お伝えしたようにアニメ版の前半をも網羅する作りになりました。そのため、これまでのゲーム版『SAO』シリーズの約2倍のボリュームになってしまいました(笑)。

フィールドにしても《アンダーワールド》は壮大な世界で、ルーリッド村からセントラルカセドラルまで700kmくらいある。さすがにゲーム性も考えてポイントを絞りましたが、それでも前作の4倍くらいの広さになっています。

――原作者の川原礫先生は『アリシゼーション』編についてゲーム化は困難だと考えていたと伺いました。その理由とは?

二見:設定の問題ですね。例えば、RPGにはモンスターが必要ですが、原作では《アドミニストレータ》という人界の守護者が、住民をレベルアップさせないように、《魔獣》と呼ばれるモンスターを駆逐してしまっているんです。さすがにそれを再現してしまうとゲームにならないので、『リコリス』ルートの設定として変更のOKをいただきました。

他にも《アンダーワールド》の世界に入るための機器である《STL》が世界に何台あるのかなど、ゲームオリジナルで設定を変えさせてもらった部分がたくさんあります。約1年半かけて原作側と話をして詰めて行きましたが、これがとても大変でしたね。

『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』限定版
『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』限定版

「自分がキリトになって世界を救う体験がしたい」。二見プロデューサーがいま振り返る『SAO』ゲームシリーズ

――今作はゲーム版『SAO』の通算12作目となりました。あらためてゲームシリーズに通底するコンセプトがあれば教えていただけますか?

二見:アプリゲームは河合泰一プロデューサーに任せているんですけど、そちらは基本的にファンサービスとして原作に忠実な作品となっています。それに対し家庭用シリーズは各タイトルにテーマが用意されています。今作なら“承認欲求”ですね。

その一方で、家庭用シリーズにも共通する特徴があり、それは“原作/アニメとは異なる世界線”という点です。ゲームでしかできない『SAO』体験を作るために、ゲーム版独自の世界線でキリトが各タイトルを通じてサーガを紡いでいく流れとなっています。

――世界線の変更が必要だと考えた理由について、あらためて詳しく教えていただけますか?

二見:僕自身がゲームユーザーとして『SAO』シリーズを読んだとき、「本編の物語をプレイする必要はない」と感じたからです。『SAO』の物語を楽しむためなら、原作を読むかアニメを観ればそれでいいと思うんです。でも、その一方で「自分がキリトになって世界を救う体験はしたい」と思いました。

原作を読んで感じた“キリトを応援する気持ち”が世界を救う。そんな話にするために、違う世界線が必要だと考えたわけです。

『ソードアート・オンライン』ゲームシリーズ統括プロデューサー二見鷹介さん

――『SAO』シリーズ劇中には数々のゲームが登場しますが、実際にゲームとして制作して気づかれたことはありますか?

二見:これは川原先生にも言わせてもらったんですけど、『SAO』の劇中ゲームってそのまま作ると「濃いオタクの人は満足するけど、ライトユーザーにはキツい」っていう、ひたすら渋い内容になるんですよ(笑)。『ガンゲイル・オンライン』も、あのまま作ったら、プレイヤー数が少ないニッチなゲームになると思います。そういう部分も含め、アニメはアニメで、ゲームはゲームで、それぞれの分野に最適化するための翻訳は必要ですし、実際に行っています。

――ゲームオリジナル要素といえば、今作でもデート会話や添い寝が搭載されていますね。

二見:はい。ユーザーの皆さんからの需要が大きいので入れさせていただいています。でも、実は僕はデート会話とか添い寝を入れたくない派なんですよ(笑)。

――えっ(笑)

二見:「添い寝、やめようかな」ってゲーム2作目くらいから思ってたんです。だって、キリトだったらアスナという恋人がいるから絶対やらないじゃないですか(笑)。実際、一部のユーザーの方からも「ストーリーを大切にしたいから、デートしたくない」っていう声をいただいていましたし。

――原作やアニメでキリトがアスナ以外のキャラクターにそんなことしてたら、さすがに驚きますよね(笑)。

二見:でも、ユーザーさんが好きなキャラクターがアスナやアリスとは限らない。だから、ゲームプレイヤーとして『SAO』の世界を楽しんでいただく観点からすると、デート会話や添い寝はあっていいシステムなんです。

そこでどっちの願いも叶えるために、デートしなくてもゲーム全体の進行としては影響がない形にしています。好きなキャラクターが他にいればデートすればいいし、「キリトはそんなことしない」と考える人だったら、自発的に行動しなければ絶対にデートや添い寝する展開にはならないようにもしています。

ゲーム版『SAO』独自の世界線、完結。今後の作品の行方は?

――ゲーム独自設定に象徴されるように、『SAO』シリーズは従来作品以上にメディアミックスされたIPだと感じます。原作チームやアニメチームとの交流は盛んに行われているのでしょうか?

二見:『SAO』は原作が神様として中心にいながらも、ゲームとアニメを加えた3プロデューサー体制みたいになっているんですよ。その中でIPとしてのバランスを取りながら、ゲームやアニメそれぞれの分野で“『SAO』の一番美味しいところ”が出せるように切磋琢磨しています。

そのため、アニメの設定に基づいてゲームが作られているのではなく、アニメとゲームが同時進行なんです。今作『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』も、アニメ版『アリシゼーション』前半ができる前から開発しているので、よく見るとレンリの衣装がそれぞれ違うんですよ。

――たしかに!

二見:『SAO』チーム全体として「行っちゃえ!」っていう前向きな空気があるんですよね。これまで良い意味での殴り合いを繰り返して信頼ができているので、自分の分野じゃなくても「これはやめたほうがいいんじゃない?」って意見を出すことも珍しくないですし。

――そこまでするとは、驚きです。

二見:『SAO』というIP全体としてすごいと思われるのが最優先ですから(笑)。

――しかし、二見プロデューサーは今作でゲーム版『SAO』から離れる予定だとか。

二見:そうなんです。これまでの家庭用ゲーム版『SAO』独自の世界線で紡がれてきたキリトのストーリーもここで完結です。

僕は第1作目のゲーム版『SAO』から7年続けてプロデューサーを務めたので、そろそろ若い世代が『SAO』に新しい風を吹かせて欲しいと考えています。原作も新シリーズの『ユナイタル・リング』編に突入していますが、僕じゃない誰かがゲーム化してくれるだろうということで、一切これから先の企画は考えていません。それと同時に、これからは若いプロデューサーの発想による『SAO』を作って欲しいので、これまでの世界線は今後使用禁止としました。

『ソードアート・オンライン』シリーズ統括プロデューサー二見鷹介さん

――今作が区切りのタイミングとなった理由とは?

二見:川原先生との約束ですね。『アリシゼーション』編がまだWeb小説だった頃に「小説で書かれている劇中ゲームを全部ゲーム化したい」とお話したのですが、そのお約束を守るために7年かかりました。

――まだダウンロードコンテンツやアップデートが残されているとは思いますが、プロデューサーお疲れさまでした。

二見:『SAO』は日本に限らず世界中にユーザーがいるタイトルですので、みなさんと一緒に成長してきたゲーム作品だと感じています。ゲームオリジナルキャラクターを好きだと言ってくださるお客さんも増えてきていますし、これまでの積み重ねがあるなとスタッフみんな感じています。ここで僕は『SAO』から離れることになりますが、若いスタッフが新しい作品を作ってくれるはずです。アニメと一緒に始まった7年間、どうもありがとうございました。

ReoNaさんが「振り絞れ」という言葉に込めた、物語に寄り添う気持ち

『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』オープニングテーマ「Scar/let」を担当したReoNaさん

――今作の主題歌「Scar/let」は、どのような思いが込められた楽曲でしょうか?

ReoNa:タイトルの“スカーレット”とは、リコリスのお花のような赤い色の名前です。赤信号や燃える炎、血、ゲームでHPが少なくなった時の表示など、私にとって赤には危ういイメージがあります。そして「Scar/let」と間にスラッシュが入ることで、《Scar》=《傷》というイメージも入ってきます。

そんな2つの意味を通して、キリトやユージオ、メディナ、アリス、それぞれのキャラクターが持っている傷や消せない過去に寄り添えたら…という思いで歌わせていただきました。

――『アリシゼーション』編の特徴である《血》の描写にも通じる、作品とシンクロ率の高い楽曲だと感じます。

ReoNa:私を含めて楽曲チーム全員、もともと『SAO』のファンで、みんな『SAO』の物語を理解しているので、歌詞一つ一つに思いを込めることができました。

私個人としてはサビの頭の「振り絞れ」という言葉に、楽曲のエッセンスが詰まっていると感じていて、何度も繰り返しレコーディングしました。ぜひそこにも注目していただければうれしいです。

――今回はじめてゲーム版『SAO』の楽曲を担当されましたが、アニメの楽曲を歌うのとは違った感覚はありましたか?

ReoNa:物語があって、そこに生きる人たちに魂があり傷がある点で、根本は変わりませんでした。でも私は『フェイタル・バレット』や『メモリー・デフラグ』などをプレイしてきていましたし、『SAO』自体がゲームを題材にした作品なので、ゲームは作品にとって重要なパーツだと認識していました。そんなゲームに対して、《絶望系アニソンシンガー》としてどう寄り添えるかというプレッシャーやドキドキは強く感じました。

――デビューからずっとアニメ版『SAO』シリーズと関わってこられましたが、ReoNaさんにとって『SAO』とはどのような作品でしょうか?

ReoNa:デビュー前に『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』に、劇中に出て来るアーティスト・神崎エルザが歌う劇中歌に歌唱役として携わらせていただいたのですが、『SAO』はまさに私に“歌う理由”をくれた大切な作品です。そんな作品のアニメとゲーム両方の新作主題歌を歌わせていただけるのには身が引き締まる思いです。今回の「ANIMA」や「Scar/let」という楽曲が、誰かが『SAO』を深く愛するきっかけになれたらなと思っています。

ゲーム版『SAO』のキリトの物語が完結する、『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』

二見プロデューサー、そしてReoNaさんの言葉からも分かるとおり、『ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス』はこれまで『SAO』に携わってきたクリエイターたちがそれぞれの思いを込めた渾身の作品となっています。

原作ともアニメとも異なる展開を見せる、ゲーム版『SAO』の結末を、ぜひプレイして確かめてみてください。

【ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス】
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©2017 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

取材・文/坂上 春希
1984年生まれのコンテンツプロデューサー。ライター/カメラマンとしても、ガジェット、ビジネス、インテリア、カルチャー、テクノロジー等の分野に渡りメディアや広告の分野で活動中。