先端技術×エンタメで実現するアソビの進化論。バンダイナムコ研究所が目指すもの

様々なゲーム開発を手掛けるバンダイナムコスタジオから生まれた、技術とアソビの知見で、新しいエンタメ創造を目指す新会社「バンダイナムコ研究所」。AIを筆頭にした最新技術を使って面白いアソビを生み出すこの会社が目指すものを、中谷社長に聞きました!

中谷社長が語る新会社の展望とエンタメの未来

バンダイナムコ研究所は、最新技術とアイデアで「アソビ」の可能性を広げる場所

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「バンダイナムコ研究所」の中谷始社長

――2019年4月1日付で設立された「バンダイナムコ研究所」は、どんな会社なのでしょう?

中谷:もともとゲーム開発を行なってきた「バンダイナムコスタジオ」の中に、「未来開発統括本部」という先端テクノロジーなどを使って新たなエンターテインメントなどを生み出す部署がありました。MR技術を使ったアトラクション『PAC IN TOWN™ 』の開発や、バンダイナムコアクセラレーターをはじめとするオープンイノベーションプロジェクトを担当していた部署ですね。その機能を分社化して、より本格的に新しいアソビの創出に力を入れようと設立したのが、「バンダイナムコ研究所」です。

色々な最新技術や新しいサービスを使って新しいアソビ、エンターテインメントを生み出す環境をより強化し、加速するために生まれた会社と言うと分かりやすいと思います。既存のサービスベースで考えるのではなく、「新しいエンタメをどう生み出すか」ということから考えていく。未来開発統括本部の頃から大学の研究所などとも提携していますので、そうしたネットワークも活かしながら、「こんなことができるよ」というある程度の可能性を生み出して、バンダイナムコグループの様々なIPや知見と掛け合わせることで、新しいアソビを生み出していきたいと思っています。

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先端技術を分かりやすく紹介するために生まれたオリジナルキャラクター「ミライ小町」。3Dモデルデータも配布されており、使用ガイドラインに沿う形であれば二次創作や動画制作も可能
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物理シミュレーションベースグラフィック表現の研究

――様々なアイデアや新たな仕組みは、実際どんな形で生み出していくのでしょうか?

中谷:バンダイナムコ研究所では、個人が常に新しいものを探って見つけた様々なアイデアをチーム内のメンバーで共有/情報交換しています。そうすることで、「ここはもっとこうすればいいんじゃないか」「こういう可能性も考えられる」と、様々な角度から、それぞれの得意分野の知見が集まってきます。そうして面白そうなネタは試してみる。「この技術は使えるようになってきたね」という形になってきたらしめたものです。
様々な視点がクロスオーバーすることで、より豊かな発想やアイデアに繋がり、新しいものが生まれていくのです。

私の過去の経験ですが、今では多くの方に楽しんでいただいている『太鼓の達人』も、当初は新入力装置として「動くものを画像認識するチップで新しいことをやりましょう」と進めていた技術研究が思ったようにいかず、それなら「バチで太鼓を叩くのも今までにない新入力だよね」と言い出した者がいて生まれたタイトルでした。バンダイナムコ研究所は個人個人が常に新しいことを模索する風土を大事にしたい、そして、AIやVR、AR、MR(=複合現実)といった先端技術を使い、様々な知見を組み合わせて、「こんなに面白いよ」という仕組みを形にすることで、面白いアソビを生み出していきたいと思っています。

可能性は無限大。最新技術と組み合わさったゲーム/アニメ/エンタメの未来図

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SIGGRAPH Asia 2018 のBEST VR/AR CONTENT VOTED BY COMMITTEEにて、2nd Placeを受賞したパックマン MRアトラクション 『PAC IN TOWN™ 』

――先端技術をエンタメに活用すると、将来的にはどんなことが実現できそうですか?

中谷:既に実用化されはじめているものとしては、AIによる言葉やシナリオの作成支援があります。これは既に、ゲームのシナリオ作成に活用されはじめていて、クリエイターの方々の負担を軽減することに繋がります。

ディープラーニングによってキャラクターの台詞を大量に蓄積/学習することで、将来的にはIP=キャラクターと自由にコミュニケーションできるようになるかもしれません。そうすると、キャラクターの提供の形自体が変わることもあるでしょう。

また、AIがリアルタイムで色々な画像を収集する作業をシームレスに行なう技術もありますので、位置情報を使ったARゲームでも、プレイヤーが向かう「場所」だけでなく、個々の「プレイ」やリアルタイムの「状況」によって異なる結果が生まれることもあるはずです。

加えて、ブロックチェーンの分散型の仕組みを取り入れ、仮想通貨を紐づけることで新しいアソビが生まれることも考えられます。

――なるほど。ブロックチェーンと仮想通貨が結びつくと、たとえば、プレイヤーが過ごすゲームの世界に現実の社会と同じような経済活動が生まれて、その状況によって街や舞台が変化し、プレイ自体に影響を与えるような作品が生まれることも考えられそうです。

中谷:そうですね。リアルタイムで映し出される現実の映像に、リアルタイムでバーチャルなIP=キャラクターや画像を合成する技術も開発しています。
また、MR技術を使ったものとして、昨年バンダイナムコスタジオが「SIGGRAPH Asia 2018」に出展したパックマンMRアトラクション『PAC IN TOWN™ 』では、HONDA社の「UNI-CAB」に乗りながら、Microsoft HoloLensを使って自分自身がパックマンになるゲームも好評でした。

このように、他社とも様々な形で連携していきたいと考えています。MRやVRを使った体験型のゲームにも、色々な可能性が考えられると思います。

――「パックマンMRアトラクション」を見させていただいて、「この仕組みを使った未来的なリアル脱出ゲームも作っていただきたい!」と思ってしまいました。

中谷:(笑)。「リアル脱出ゲーム」のような謎解きゲームは、ここ数年流行っていますね。そうした体験をMRやVRで提供すると、どこを巡って、どこを探して、という選択肢が現実世界よりも遥かに広がります。現実世界でギミックを色々用意するのは大変ですが、バーチャルの世界ならリアルに見えていて、とんでもない面白い仕掛けが可能ですし、様々な世界設定、空間をつくれます。

また「ある空間でひとつミッションをこなして、そのあと別な空間でミッションをこなす」というように、物理的な制約を越えて空間を移動することも可能です。色々な工夫ができ非常に面白そうですね。

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ディープラーニングでゲームの攻略法を学習し、どんどん腕前が上達していく「キューゴロー」。この機能を、ゲームのデバッグ作業に転用できる可能性も
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利用者の反応を学習して成長していく対話エンジン搭載「キューシロー」。蓄積データは中央の着脱可能な「キャラクリスタル」に記録され、別の躯体にも装着できる

「新たなアソビが生まれる集団」を目指す

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――バンダイナムコ研究所を通して、どんな役割を担いたいと考えていますか

中谷:世の中が変化していく中でも、バンダイナムコグループには新しい楽しさ、新しいアソビを提供する使命があると考えています。バンダイナムコ研究所の設立もそのためで、新しい価値を生み出せる場所にしていかなければなりません。AIなどの技術をベースにゲームで培った知見を最大限活かし、大いに発想、妄想する集団として、新しいエンターティンメントの可能性を広けたいと思っているんです。

「魅力的なキャラクターを作る」「いいお城を作る」というときに、現在あるものをAIでブラッシュアップすることは既に実現可能ですが、そこから一歩進んで「魅力的なキャラクターって何ですか?」「いいお城って何ですか?」ということを考えられるヒントにもAIを活用できれば、人々が「もっとこうなればいいな」ということがどんどん膨らんでいくと思います。
そんな妄想ができる集団になりたいと思っています。

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キャラクターの過去の台詞を機械学習し、キャラクターの個性を見える化する「AIセリフ監修」。新たなセリフ作成時に、そのキャラらしさを数値化して、キャラぶれを防止

――なるほど。先端技術を使って、人々が生み出すアソビの幅や可能性自体を、より豊かなものへと広げていくということですね。

中谷:人の歴史を振り返ってみても、第一次産業がはじまって畑で作物を作りはじめた時代を経て、農機具が生まれてもともとの仕事にかける時間が少なくなったからこそ、「新しい作物を植えよう」「新しい品種を開発しよう」という発想が生まれ、新しいものやサービスが生まれました。つまり、その時間を、また別のことを実現する時間に充てられるようになったのです。

おそらく、それはAIを筆頭にした現代の技術についても同じで、これらを上手く活用することで新しい可能性が生まれていくと思います。ですから、よく言われる「AIに仕事が奪われる」というお話についても、個人的にはそうは思っていません。むしろ、「その時間を使って新しい可能性を追求できる」と思うのです。
この会社を通して、形にとらわれず、様々なエンターテインメントを生み出していきたいと考えています。

――お話をうかがっていて、バンダイナムコ研究所の活動が未来のエンタメにどんな可能性を加えていくのか、非常に楽しみになりました。本日はありがとうございました!

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PAC-MANTM&©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
©BANDAI NAMCO Research Inc.

【取材後記】

先端技術を使って広がるエンタメの可能性に、ワクワクさせられるような時間でした。実際に、AIやVR、MRといった先端技術は、徐々に私たちの生活にも身近なものになりつつあります。

とはいえ、中谷さんのお話を聞いて最も印象に残ったのは、それはあくまで「人々の“楽しい”を加速させるツールのひとつ」であるということ。先端技術に人々のアイデアが組み合わさったときに初めて、まだ見ぬ未来のアソビが生まれていくのかもしれません。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。