創造活動×デジタルで“アソビ”ながら“学べる”!BNEヨーロッパから生まれた子ども向け知育プラットフォーム『tori』の魅力

バンダイナムコエンターテインメントグループの事業は世界に広がっているのをご存知ですか? なかでもヨーロッパ圏の拠点となっているのが、フランス・リヨンにあるバンダイナムコエンターテインメントヨーロッパです。今回はそのリヨンオフィスに向かい、そこから生まれた注目作の担当者たちに話を聞き、3回にわたってお届けします! 初回は、数々の賞を受賞した子ども向け知育プラットフォーム『tori(トリ)』について、担当者のジェロームさんに語っていただきます。

ゲームの楽しさを「知育」に活かしたい!『tori』開発チームの挑戦

知育プラットフォーム『tori』
2019年11月5日よりヨーロッパ、アメリカにて発売された子ども向け知育プラットフォーム『tori』。世界最大級の電子機器の見本市「CES」をはじめ、業界の各賞で10個のアワードを受賞。(日本未発売)

――まずは『tori』がどのような製品なのか、教えていただけますか?

ジェローム:『tori』は、実際に子どもたちが手に取って遊べるフィジカルな要素と、デジタルな要素をミックスした製品です。

飛行機、カタパルト(投石器)や杖といったフィジカルなおもちゃをマグネットに装着することで、その動作を追跡してゲーム内で再現することができます。これは、センサーがついたtoriボードと自然磁場センサーによって磁石の位置をリアルタイムで追跡する特許取得済みのアルゴリズムのお陰です。フィジカルとデジタル上のおもちゃは高精度で同じ様に動き、遅延はありません。すべてのアクションがゲームに反映されるので、これは子ども達にとって魔法の様な没入型の体験です。

磁石をおもちゃに装着して、ボード上で遊ぶ
『tori』の遊び方を説明するジェロームさん
磁場センサーを使うことで、上下左右の手の操作をリアルタイムでキャプチャー。その動きがそのままゲーム画面に反映される

――そういえば、自分自身も小さい頃に飛行機のおもちゃで遊んでいました。おもちゃの飛行機を手で持って飛ばす真似をしながら、「これが本当に飛んだらいいのになぁ…」と思っていたんです。『tori』ではそれが実現できるということですね。

ジェローム:そうですね。『tori』では、アルゴリズムとテクノロジーの面でフランスのAMIというスタートアップとコラボレーションをしていて、彼らの追跡技術とバンダイナムコエンターテインメントの「アソビ」「楽しさ」の要素を組み合わせています。

また、子どもの知育の面では教育の専門家もかかわっています。というのも、『tori』は「子どもたちが楽しいと感じるもの」であると同時に、「彼らのスキルや能力を伸ばせるもの」でもあるんです。そもそも、『tori』の最初のアイデアは、「ゲームで遊ぶことを、より有益なものにしたい」ということでした。

ジェローム・デュロー。知育プラットフォーム『tori』プロジェクトリーダー
ジェローム・デュロー。知育プラットフォーム『tori』プロジェクトリーダー

――具体的にはどういったスキルや能力を鍛えるのでしょうか。

ジェローム:『tori』で遊べる『Jungle Rescue』『Crystal Chase』『Shades of Light』『Supreme Builder』といったゲームはそれぞれ、ある特定の能力を伸ばすために用意されています。物事を多面的に捉えるためのクリティカルシンキングや、問題解決スキル、運動協調性、計画立案力など、ゲームごとにさまざまな能力が鍛えられます。一見シンプルなゲームに見えますが、実はなかなか難しいですよ。

『tori』の説明をするジェロームさん

――(実際にプレイさせてもらいながら)おお……なかなかやりごたえがありますね!

ジェローム:『tori』のもうひとつの特徴は、「子どもたちがカスタマイズして遊べる」ということです。たとえば、『Supreme Builder』では、子どもたちが自分で書いた絵をゲームの中に取り込むと、その絵がゲーム内に立体になって現われます。このように、それぞれの創造性や個性を表現しながら、遊ぶ子どもによってさまざまな楽しみ方ができるんです。

――自分で作った感覚も得ながら、ゲームで遊べるので、子どもが夢中になるのがわかります。

ジェローム:実際、子どもたちが学習過程において積極的で、没頭し、自発的であれば、より良く学ぶと信じています。私たちはそれを目指すために、ボード上で遊ぶというフィジカルな体験、彼らの世界やおもちゃをカスタマイズできることによって没頭できるという体験、子どもたちの能力を刺激する楽しいゲームを繰り返しプレイするという自発的な体験を提供します。

子どもの視点で考える、「ワクワク」と「学び」を繋げるための工夫

インタビューに答えるジェロームさん

――アイデアを練る際には、みなさんの小さい頃の体験を思い返していったのですか? それとも、実際に今の子どもたちがやりたいことを調査していったのでしょうか?

ジェローム:最初は、私たち自身の子どもの頃のことを思い出しながら、自分の中の子どもを満足させるような形でアイデアを考えていきました。とはいえ、実際には私たちはもう大人です(笑)。そこで、その後、実際に子どもたちに対してもリサーチを行いました。子どもたちは日々遊び方を変えたり、既存のおもちゃやゲームとは違った遊び方をしたり、新しい遊びのパターンを開発したりします。これは、私たちにとって無限のインスピレーションの源です!

――子どもたちの視点に立ったからこそ生まれた製品のポイントもいろいろとありそうです。

ジェローム:たとえば、『tori』では段ボールのキットなどを使って、子どもたちが自分でオリジナルの飛行機をつくることができます。これは、子どもたちに「自分でオリジナルのおもちゃを作ってほしい」という思いから生まれたアイデアです。普段ビデオゲームを遊ぶ際には、私たちは車や武器など、さまざまなインゲームのスキンを着せ替えますよね? そう考えたとき、『tori』の独創的でとても個人的な経験として、スキンを子どもたち自身が手作りできるようにしたいと思ったんです。

ゲーム上に現れる、オリジナルのダンボールのおもちゃを制作する子どもたち

――世界にひとつしかない自分だけのデジタル上で遊べるダンボールの飛行機が生まれますね。

ジェローム:彼/彼女らが友達と一緒に遊んだときに、みんながそれぞれカスタマイズされた異なるダンボールの飛行機を持つことができるんです。子どもたちはスコアを比べるだけではなく、「僕のこれいいでしょ?」「確かにね。でも私のものの方がいいよ!」と楽しくやり取りをしながら、愛着を持ってゲームを楽しめます。この画面の外での創造的体験によって強化されたソーシャルデジタル経験が、全体的なプレイ時間を伸ばします。その結果、多様な手段を通じて、異なった能力の発達や学習を促します。

――なるほど。楽しく遊んでいるうちに、自然に能力を伸ばせるのですね。

ジェローム:自然に、直感的に遊べることが大切です。ゲームが楽しければ、子どもたちは長くプレイし続けてくれますし、教育や学習面でも有益なら、両親も途中でやめさせることはありません(笑)。その結果、子どもたちの能力を、楽しく伸ばすことができると思うのです。

インタビューに答えるジェロームさん

――テレビゲームの要素と、実際に手を動かす要素の両方があることも、子どもの知育にとっては重要なことだと思いますか?

ジェローム:そう思います。『tori』では最初にオフスクリーンで自分だけのスキンやおもちゃを作る段階では、家族や周りの人たちと一緒に協力して作業をすることが可能です。そして、自分だけのおもちゃを作ったら、今度はそれを使ってゲームをプレイすることができます。自分だけのスキンを作ったら、全く新しい世界を発見することができます。その2つの体験ができることは大切です。

――それにしても、通常のゲームとは大きく異なる製品だけに、開発段階ではいろいろと苦労したのではないでしょうか?

ジェローム:最初にスタートアップから企画を持ち込んでもらった頃から、正しい選択をすることが大変でした。人の話や意見を聞いて、何度も議論や試行錯誤を重ね、完成までに3年かかっています。また、最初に私たちが調査をはじめたときに、保護者の方々から「ビデオゲームは子どもの教育によくないんじゃないか」という話もありました。

保護者たちはビデオゲームが有益または教育的ではなく、子どもの発達に有害であると考えていました。実際のところ、ビデオゲームは私たちの脳をとても刺激するのですが、多くの人はこれを知りません。子どもの発達に貢献するためのゲームを作成するために、子どもの発達の専門家と協力しながら、子どもの脳を刺激するメカニズムに焦点を当てました。

実は今、私たちが発売しているカタパルトなどのおもちゃの一つを使って、楽しく数学を教える新しいゲームの可能性についてチームで話し合っています。これは何よりもまず「楽しいゲーム」である必要があります。そうすれば、子どもたちは楽しんで何度もプレイしますし、そのゲームの性質のおかげで「教育的」でもあります。

これはまるで、ほうれん草を見た目も味もキャンディーの様に調理するようなものです。子どもたちが大好きなキャンディーが、体にも良いものになります。

インタビューに答えるジェロームさん

――『tori』はさまざまなアプリゲームをダウンロードすることで、まだまだ可能性が広がると思います。今後の展開については、どんなことを考えていますか?

ジェローム私たちは、このおもちゃに命を与えたいと思っていますそれによって、人々の想像力を広げられるようにしたいと考えているんです。子どもたちはもちろんのこと、今後はお年寄りや、病院のような場所、もしくは成人がふたたび勉強し直す際にも活用できると思っています。

人々はゲームをするのが大好きですし、そこから多くのことを学べます。子どもが何かを学ぶときには、称賛を受けることで満足感や自己肯定感を得ることができて、その結果、学ぶこと自体が楽しくなっていきますよね。ゲームの魅力も、課題を解決した際に、プレイヤーを褒めたたえる要素にあると思うので、そういう意味でもゲームは自己実現との相性がいいと思うんです。

また、実際の教育の現場では、先生が生徒のひとりひとりにつきっきりでこうしたことを教えることは、とても難しいことですが、ゲームは1対1のコネクションが得意で、どこにでも、望む場所に連れていってくれるものでもあると思っています。

ヨーロッパから世界の人々へ! ジェロームさんのエンターテインメントへの想い

インタビューに答えるジェロームさん

――ジェロームさんは日々新しいエンターテインメントを生み出すお仕事を続けている中で、どんなときに喜びを感じるのでしょうか?

ジェローム:ひとつは、私たちが世に送り出したエンターテインメントを、実際に人々が遊んでくれているところを見たときですね。そしてもうひとつは、同僚や周囲の人々が、エンターテインメントにかかわる仕事に楽しそうに取り組むところを見ているときです。

逆に誰かひとりでも自分たちが携わる製品に満足していなければ、それは私にとっても満足する結果になりません。人々がプレイすることに喜びを感じられることと同じように、私たち自身も、楽しんで仕事をすることが大切だと思っているんです。「楽しさ」というのは、人を発展させてくれる大切な要素です。そして、その「楽しさ」は、私たちの仕事においても大切なものだと感じています。
また、私たちは、子どもが『tori』をプレイして、このゲームについてコメントしてくれるのを見るのもすごく好きです。子どもたちは正直なので、喜んでくれる場合もあれば、時には辛辣な意見をもらうこともあります。ですが、そうやって正直な感想をもらえることは、私たちの仕事にとってもとても有意義なことだと思っています。

――ジェロームさんにとって、リヨンに拠点を置くバンダイナムコエンターテインメントヨーロッパで働くという経験は、どんなものになっているでしょうか?

ジェローム:バンダイナムコエンターテインメントヨーロッパは世界と繋がっているので、この地でつくったタイトルが、世界中に広がっていくのが魅力的です。これは本当に、マジカルなことだと思うんですよ。国を問わず、エンターテインメントを楽しむ心は、とてもユニバーサルなものです。

その一方で、地域ごとに遊び方や受け取り方が変わることもあります。また、私たちが生み出すエンターテインメントは、おもちゃやゲーム、音楽、アニメーションなど多岐にわたっていますから、それぞれに楽しみ方は変わってきます。そんなふうに、エンターテインメントの楽しさは世界共通であると同時に、さまざまな違いもある――。
その2つを追求していくことはとてもやりがいのあることですし、私の役職としても、『tori』とほかの領域を積極的に繋げて、さまざまな方にその楽しさを体験してもらいたいと思っています。

ジェロームさん

【取材後記】
終始にこやかに取材に応えてくれたジェロームさん。その中で繰り返し話していたのは、「子どもたちに自分で学びの楽しさを発見してもらうこと」の大切さでした。学ぶことが楽しいからこそ、もっといろんなことが知りたくなる。デジタルとフィジカルの要素を両方詰め込んだ知育プラットフォーム『tori』には、開発チームのそんな想いが込められていました。

【取材・文 杉山 仁 プロフィール】
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。