左から、バンダイナムコエンターテインメントの木村隆成氏と朝日新聞社の竹原大祐氏 アソビ×学ぶ

未来のクリエイター誕生!?楽しんで知的創造力を高める教育プログラム「アソビジット」

2019年、バンダイナムコエンターテインメントと朝日新聞社が教育プログラム「アソビジット」を開発、10月中旬より希望する小中学校へ無償提供しました。予想を超える反響を呼んだこのプログラムが誕生した背景やその思いとは? 担当者であるバンダイナムコエンターテインメントの木村隆成氏と朝日新聞社の竹原大祐氏に伺いました。

ワクワクする教育プログラムを。「アソビジット」誕生のきっかけとは?

――まずは、教育プログラム「アソビジット」の取り組みが始まった経緯を教えてください。

木村:バンダイナムコエンターテインメントでは事業外の取り組みとして、子どもたち向けに“アソビで教育を楽しくする”という試みを行っています。その一環として、朝日新聞社さんが発行されている副教材「おしごと年鑑」に昨年度から協賛させていただいているのですが、その中に「ゲームができるまで」というページを作っていただきました。そのページは全国の学校で教材として使われ、「子どもたちがとてもワクワクしていた」と、先生たちから大きな反響があったと聞いたんです。

そうした反響を受け、1年前に朝日新聞さんと「キャリア教育のプログラムを作ろう」と話し始めたのが、このアソビジットのきっかけでした。

株式会社バンダイナムコエンターテインメント、コーポレートコミュニケーション部広報課所属の木村隆成氏。
木村隆成氏。株式会社バンダイナムコエンターテインメント コーポレートコミュニケーション部広報課所属

竹原:先生は子どもたちがワクワクするような授業をすることにとても苦労されている現状があります。ところが、そこに遊びやゲームを扱った「これって本当に授業なの?」って思うような教材が配られると、やっぱり子どもたちはワクワクするんです。それは教材に活かせるなと思いました。

株式会社朝日新聞社、教育総合本部教育事業部所属の竹原大祐氏
竹原大祐氏。株式会社朝日新聞社 教育総合本部教育事業部所属

――「教育」というテーマは、朝日新聞社にとってもバンダイナムコエンターテインメントにとっても大きなキーワードだったのでしょうか?

竹原:どのように人のモチベーションを高め、探究と実践を繰り返し、成長を作っていくのか。こうした教育の基本とされているステップは、新規事業を作っていくためにも必須となる分野だと考えています。そしてクリエイティビティという点においては、バンダイナムコエンターテインメントさんがダントツで得意とするところですので、ぜひご一緒したいと考えました。

木村:バンダイナムコエンターテインメントとしても、我々コーポレートコミュニケーション部は「子どもたち」「アスリート」「地域」をアソビで応援するため、さまざまな事業外活動に取り組んでいます。この「子どもたちをアソビで応援する」という文脈で、教育にも取り組みたいと考えていました。しかし、子どもたちに対する教育については知見がなかったので、朝日新聞社さんと組んで自分たちがやりたいことを形にしていただきました。

インタビューに答える竹原大祐氏と木村隆成氏

――そこからどのようにアソビジットという教育プログラムの形が出来上がったのでしょうか?

竹原:バンダイナムコエンターテインメントさんは完成度の高いワークショップやイベントをいろいろと実施されているのですが、私たちはメディア企業として「それをどう伝えたらいいか」を考えました。そこで、これまで30人ほどで実施してきたワークショップの経験を、全国でやった方がいいんじゃないかと思ったんです。「全国の学校の先生が、バンダイナムコエンターテインメントの社員さんに代わって教えられるようになればいいのでは?」と。そこで教育プログラムを配布するという枠組みができ、アソビジットの開発が始まりました。

アソビジットのキット一式

――具体的には「アソビジット」のプログラムはどういった内容なのでしょうか。

木村:「ゲーム作り」のお仕事が題材なのですが、学校の先生には授業の進め方のご参考として取扱説明書があり、それに沿って進めていただき、動画と合わせて生徒に説明します。動画には「太鼓の達人」や「ファミスタ」のプロデューサーたちが登場して教えてくれる流れになっています。

具体的には、まずはニーズ(子どもたちが解決したいこと)とワクワク(子どもたちが好きなこと、得意なこと)をカードに各自、自由に記入してグループで共有します。次にブレストのように「アイデア千本ノック」と題してニーズ×ワクワクを組み合わせて声に出して発言していきます。面白そうな組み合わせがあったら「それは、どんなアソビ?」とメンバーが流れを止め、アイデアを出し合います。それらのアイデアをより詳細にプレゼンシートに書いていき、最後にまとまった企画をプレゼンシナリオシートにまとめ、発表します。

――商品企画する上での必要なターゲット設定とニーズ把握、アイデアの生み出し方など、アソビジットは大人も役立てられるようなプログラムだと感じました。これはバンダイナムコエンターテインメントのノウハウなのでしょうか?

竹原:そうなんです。その元となるのはビジネスフレームワークといわれているものです。3年半前に私たちがバンダイナムコエンターテインメントさんと新規事業を考えている時に、あるプロデューサーさんが「プレゼンシート」のようなあるシートを出されたんです。それを見た当時、とても感動したんです。そのことをずっと覚えてまして、今回の企画を両社で検討している時に「あの素敵なシートを世に出した方がいい。これがあれば、みんながワクワクするものを作れるようになる!」と、ご提案させていただきました。

木村:それをアソビジットとして展開してみたら、学校教育の枠を超えて「社員の研修に使いたい」という要望もいただくようになり、実際にご提供もしております。

アソビジットのプレゼンシート

大好評の秘密は、声を出すこと、誰も置いていかないこと

――実際にアソビジットを配布した学校からの反響はいかがでしたか?

竹原:とにかく「盛り上がり方が全然違う」という声を多くいただいています。いろんな形でアイデアが出てくるので、先生方としても「子どもはこんなことを考えているのか」という気づきを得られたと、非常に満足していただいていることがアンケート結果から分かっています。アイデア出しなど、ひとりで考えてもなかなかでないところ、カードを組み合わせてアイデアを出し合うという方法によって、「生徒みんなができるようになった」という声もいただいたり、大変好評でした。

インタビューに答える竹原大祐氏

木村:リズムに乗ってアイデアを出すという部分も好評で、咄嗟になにか言わないといけないので、自分でも思いもよらない発想が出てくるんですよね。開発段階では、私たちバンダイナムコエンターテインメントと朝日新聞社の2社で集まってテストしたんですけど、その時も盛り上がりすぎて隣の会議室から「ちょっとうるさいですよ。」と軽く注意されるほどでした(笑)。

竹原:“声を出すこと”と“誰も置いていかないこと”はアソビジットのテーマの一つでした。声を出していくと、自然とみんな発言できるようになっていくんですよ。監修していただいた愛知教育大学さんの知見も含め、ゲームのレベルデザインのように徐々にみんなが発言できるように工夫して作りました。実際にテストしてみると、最初は「恥ずかしい」と言っていた人もだんだん盛り上がっていく。そんな光景を見たときに「いける」と思いました。

――愛知教育大学が監修に入っているとのことですが、どういった関わり方をされているいんでしょうか。

竹原:この教育プログラムを実際の現場で使えるものにするということがとても大事で。その点で監修いただき、教育のプロフェッショナルとしてさまざまなご意見をいただきました。また、実際に子どもたちを対象にしたテスト授業を実施していただいたり、教育実習生にファシリテーター役を任せることで技術的に未熟な教員はどのような部分で授業が難しいと感じるかを検証していただいたりと、本当にさまざまな部分で私たちが見落としがちな部分をフォローしていただきました。

木村:特に難易度をどうするか、ということはずっと話し合っていて、そこは愛知教育大学さんにすごく助けていただきました。

インタビューに答える木村隆成氏

クリエイターじゃなくても役立つ創造力を。「アソビジット」に込めた思い

――アソビジットは教育において、どのような能力を高めるプログラムだと考えられていますか?

木村:主に「総合的学習の時間」の授業での使用を勧めていますが、知的創造に限らずさまざまな場面に応用が効くと考えています。主体的にアイデアを出し、そのアイデアを「いいね」とまとめ上げていく力ですね。自分一人ではそうしたことは難しいかもしれませんが、みんなの力でやっていく。それはバンダイナムコエンターテインメントの仕事のやり方に近いと思います。

インタビューに答える木村隆成氏

――クリエイターじゃなくても役立つ能力である、と。

木村:はい。そうした部分も意識して「ゲームを作りましょう」という内容ではなく、広く“商品企画”に落とし込むように作ってあります。ゲーム以外の業界をテーマにしたとしても、根幹の部分で通用するプログラムになっているので、キャリア教育の一環として使えると思います。

竹原:「AI時代に人間は何ができるのか?」とよく言われていますが、AIといってもそんなに何でもできるわけではないんですよね。だからこうしたアイデアを掛け合わせて新しいワクワクを想像してくことは人間の専門分野になっていくはずです。そのときにこのアソビジットで学んだやり方が助けになると思いますね。そのほか、考えをまとめる力やみんなの前でプレゼンする力など、新学習指導要領でも重視されるようになった能力を伸ばすことも念頭に置いています。

インタビューに答える竹原大祐氏

「アソビジット・コンテスト」というゴールと、その先の展望

――「アソビジット・コンテスト」について教えてください。

アソビジット・コンテスト

木村:アソビジットを通して生まれた企画を応募いただき、特に優秀な企画を「アソビジット賞」を選出し、表彰します。受賞者のみなさんはバンダイナムコエンターテインメント本社にご招待する予定となっていて、ゲームやエンタメを生み出している企業に実際に訪問した経験により仕事に対してポジティブに向き合うきっかけになったら嬉しいです。

それと同時に、応募いただいた企画はその優れた点を私たちが検討し、それぞれに合った賞を、感謝を込めてお贈りする予定です。

−−アソビジット・コンテストの応募締め切りは2020年2月12日で、表彰式はその後となりますが、コンテスト以降のアソビジットの展開は?

木村:本当にびっくりするくらい反響をいただいていて、小中学校を中心に高校、大学、企業、県の教育機関など約150か所から寄贈のご応募がありました。そうした好評があることからも、将来的には小中学校以外もフォローできる方法も視野に入れております。

竹原:実はこの取材場所に来るまでにも問い合わせがありました。

インタビューに答える竹原大祐氏と木村隆成氏

――本当に大きな評判を呼んでいるようですね!

木村:そもそもアソビジットは100クラスに対して3500冊配布する想定だったのですが、告知後わずか1日で、すべての枠が埋まってしまったんです。

竹原:良い意味で期待が完全に裏切られましたね(笑)。

木村:そのときばかりは「ちょっと話が違うじゃないですか」って竹原さんに声を荒げちゃいました(笑)。あわてて発行部数を5倍に増やし、17500冊、500クラス分まで増刷したんですよ。

インタビューに答える竹原大祐氏と木村隆成氏

――なんと、5倍に!

木村:そうなんですよ。そんな感じで、おかげさまで好評をいただいているので、今後は私たちが実際に学校に伺ったりするなど、より広く声を聞きながら改善し、さらに広げていきたいいと思っています。

竹原:私たちには愛知教育大学さんをはじめとした先生方にご協力いただきながら、精度の高いブラッシュアップを重ねて、最終的にはアソビジットブランドでいろいろな教材やメソッドを作れるようにしたいですね。

左から木村隆成氏と竹原大祐氏

愛知教育大学附属高等学校 田中 博章教諭からのコメント
知的創造力を育てるアクティブラーニング教材「アソビジット」は、教師、児童生徒にとり双方型の教育教材であると同時に何より生徒の創造力を生み出す瞬間に教師も立ち合い、その「ワクワク」感が学ぶ楽しさを引き出しているところが素晴らしいです。

その学びの素晴らしさを中部学級力向上研究会、本校主催の高校シンポジウム第3分科会で発表させていただきました。高校シンポジウムでは、内閣府の方々や愛知県教育委員会の方々も参加され、いろいろ意見を交換することができました。特に、カードを交えて、手の動きや声を掛け合い、励まし合う、まさしくアクティブラーニングであるとお褒めの言葉をいただいたのが印象的でした。

いつでも、どこでも、教室内で、笑いが絶えなく、楽しみながら、学ぶ、そして生徒の創造力の発表が教師、生徒、参加者の感動を与える教材、それが「アソビジット」ではないでしょうか。

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc. (C)The Asahi Shimbun Company (C)Asovisit

【取材後記】
子どもたちが好きなゲーム作りを入り口とすることで、普段口数の少ない大人しい子でもアイデアを出すようになるというエピソードが印象的で、ゲームというエンターテインメントの有効な使い方かもしれないと感じました。

取材・文/坂上 春希
1984年生まれのコンテンツプロデューサー。ライター/カメラマンとしても、ガジェット、ビジネス、インテリア、カルチャー、テクノロジー等の分野に渡りメディアや広告の分野で活動中。