赤青メガネで驚きとワクワクを!『遠山式立体表示法』開発秘話と特許開放の狙いとは? アソビ×学ぶ

赤青メガネで驚きとワクワクを!『遠山式立体表示法』開発秘話と特許開放の狙いとは?

赤青メガネをつかったリアルな立体視『遠山式立体表示法』。今回、この技術の特許が開放されることになりました。今回は開発者である バンダイナムコ研究所の遠山茂樹さんとバンダイナムコエンターテインメント知的財産部の恩田明生さんに、特許開放に至った経緯や思い、遠山式の開発秘話をお聞きします!

人の目にもっとも近い立体表示法。『遠山式』の誕生秘話

左:恩田明生さん 右:遠山茂樹さん
左:恩田明生さん 右:遠山茂樹さん

――まずは遠山さんにうかがいたいのですが、2002年に生まれた『遠山式立体表示法』(以下、遠山式)は、それまでの立体表示法と比べてどんな違いがあるのですか?

遠山:遠山式ができる前にも赤青メガネで見る「アナグリフ」という立体表示法があったのですが、それは「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる目の寄り具合と、遠近を感じる「パース感」をつかって立体感を生み出すものが主流でした。一方で遠山式では輻輳とパース感に、「ピント深度」の要素を加えています。まずはこれが、遠山式の大きな特徴です。

――ピント深度とは、分かりやすく言うとどんなものなのでしょう?

遠山:そもそも人間の目は、見るものに応じて自然にピントを合わせています。たとえば、近くのものを見るときも、遠くのものを見るときも、目が自然に適したピント深度を選ぶことで、私たちはモノを鮮明に認識できます。

ところが、従来の立体視は、紙の真正面から見る方法だったため、輻輳やパース感が変わっても、ピント深度だけが紙に固定されて変わらない状態だったんです。そのため、脳が違和感を覚えていました。そこで、遠山式では紙を斜め上45度から見下ろすことで、人の目が自然にピントを調節する機能を取り入れました。

今までの立体視と遠山式立体表示法
紙の真正面から見ていた今までの立体視と、紙を水平に置いて斜め上45度から見下ろす遠山式

――なるほど。実際の目の役割に近いものにすることで、より立体感が生まれたのですね。

遠山:その通りです。だからこそ目も疲れませんし、目や脳の適応力を利用していますから、立体に見える工夫をきちんとすれば、彩度が低くても脳が補正をかけてくれます。また、手を伸ばして触ろうとしてみると、よりリアルに遠近が感じられるのも遠山式の特徴ですね。

――もともと『ゼビウス』を筆頭にした人気ゲームのメカデザインや、ロボットのデザインなどをされてきた遠山さんが「立体表示法を発明する」というのは、少し不思議なようにも感じます。遠山さんが立体表示法に興味を持ったきっかけと言いますと?

遠山:実は1990年の花博(大阪花と緑の博覧会)のときに、富士通さんが展示していた赤青メガネで見る立体映像がよくできていて、そこで「赤青メガネも捨てたもんじゃないな」と思ったんです。そこから随分経って、「他にもいい方法があるんじゃないか?」と思うようになり、人が実際にモノを見ているときと限りなく同じものにすれば、よりリアルな立体視ができると考えたのが、最初のアイデアです。ただ、そのときは、どう実現すればいいのか分かりませんでした(笑)。

遠山茂樹さん
遠山茂樹さん。1981年株式会社ナムコに入社。営業部事業課で催事用ロボットの企画デザインを担当した後、デザイン課に転属して『ゼビウス』をはじめ、数々のゲームデザインを手掛ける。2002年に自身が発明した『遠山式立体表示法』を発表。株式会社バンダイナムコゲームスを経て、2019年より株式会社 バンダイナムコ研究所所属

遠山:そこで、アイデアを紙に書いて長い間置いていたのですが、その後、3Dの飛行機ゲームをつくりはじめたときに、3D空間を飛行機が飛び回る様子を攻略本などで伝えるためにはどうすればいいか考えていたら、「赤青メガネが使えるぞ!」と思い出したんです。結局ゲームの開発自体は頓挫したのですが、そのときメモを引っ張り出してみると、そのアイデアは技術的にも実現可能になっていました。そこで2002年に最初の試作品をつくって、「すごいものができたから、見てもらっていいですか?」と、恩田くんに電話をしました。

恩田:当時のことは、僕もよく覚えています。僕は日常的に、遠山さんに「何かいいアイデアはないですか?」とお話を聞きにいっていたのですが、その日見せてもらったものは、これまで見た立体視とは全然違うクオリティで、「これは見たことがない」と驚いたんです。

恩田明生さん
株式会社バンダイナムコエンターテインメント 知的財産部の恩田明生さん

遠山:当時、恩田くんに見せたのが、これをプリントアウトしたものだったんですが――。

最初の試作品
最初の試作品

遠山:身近にあったものを集めて撮影したので、そのとき僕のデスクにあったものが色々と映っています。映りこんでいるみかんも、その日のお弁当についていたものですね(笑)。

遠山式の可能性をさらに広げるために。今回の特許開放に込めた思い

恩田:遠山さんのところにうかがった後、僕の方で特許の出願状況を調べてみたところ、まだ出願されていない技術だったので、その時点で特許を申請しました。そこからあれよあれよという間に、この立体表示法を使った色々なアイデアが世の中に広がりました。

恩田:当時の法務知財担当部門では、ただ特許出願するだけでなく、遠山式の可能性についても検討し、将来の当社の事業でどのような活用の可能性があるか?遠山さんを中心にいろいろな事業部の人を巻き込んで話を聞きながら、発明を創造していきました。

例えば、遠山式の映像をソフトでどうやって簡単に作成するかの手法や、紙と赤青眼鏡以外での実施の手法、裸眼立体視ディスプレイや、業務用ゲーム機での実施手法など、遠山式を使った便箋等ゲームだけでなく、文具や玩具の可能性も含めて、遠山式の将来の事業化の可能性について色々検討し、特許出願を行いました。

――遠山式は雑誌の付録や絵本、CADシステムを使った住宅の間取り図など、様々なものに活用されていますが、中でも、印象的だったものを教えていただけますか?

遠山:たとえば、2011年の関西版の朝日新聞のお正月の新聞で、すべてのページの広告を遠山式で飛び出す広告で刷っていただいたことがありました。ちょうど朝日新聞社さんが印刷機を新しく変え、いい紙を使うタイミングだったそうで、「面白いことをやりたい」と声をかけてくださったんです。思い切った企画になりました。僕らも大阪に泊まり込んで、頑張って撮影をしたのを覚えていますね。

恩田:そして数年後には、グラビアアイドルの方々の等身大立体ポスターにまで辿り着きました。

インタビューに答える恩田明生さん(左)と遠山茂樹さん(右)

遠山:ほしのあきさんをはじめとするグラビアアイドルの方々の等身大立体ポスターは印象的でした。撮影も大変でしたが、このときは等身大の姿が印刷できる大きさの紙を探すことにも苦労しましたね。紙に折り目がついてしまっては興ざめしてしまうと思ったので、ロール方式で発送する形にして、それに耐えうる紙を選びました。実際に見ると、まるでほしのさんがそこに寝ているように錯覚するほどで、あれは本当にすごかったです。

インタビューに答える遠山茂樹さん

遠山:また、立体視は飛び出しだけでなくへこみも表現できるので、何もない床に遠山式で印刷した穴が描かれたシートを置くと、お子さんが「何これ?!」と面白がってくれて、シートの下に手を入れて不思議そうにするんです。そこで「どうして立体に見えるんだろう?」と疑問を持ってもらえたら、それがきっかけで「どうして目は2つあるの?」という疑問にも繋がるかもしれません。人の目や脳の仕組みを応用しているからこそ、そこから広がる興味もあると思います。

――今回、『遠山式』の特許を開放することになったのは、なぜだったのでしょう?

恩田:事業として展開する計画が当面ないこともあり、それでしたら色々な方にこの技術を使っていただけないか、と考えたのが大きな理由です。この技術から新しいアソビを生み出せる可能性があるなら広く技術を開放して、色々な方に応用していただく方が遠山式にとってもいいのではないか、と。メガネがなくても楽しめる裸眼での立体視や、遠山式の立体視を動画で動かすことなど、我々では事業化までは辿り着くことができなかった様々なアイデアも、今なら探っていただけるかもしれません。そういった形で、新しいアソビを生み出せる可能性にチャレンジしていただけたら嬉しく思いますし、実際のところ、我々も「その可能性があるなら、見てみたい!」と思っているんです。

インタビューに答える恩田明生さん

――つまり、遠山式の可能性を広げるための特許開放なのですね。

恩田:そうですね。特許の概念で我々が権利を持っている部分もありますが、実用化の面で様々な方に挑戦していただいて、活用していただけたらいいな、と思っています。

今回、開放の対象となる遠山式の特許は、当社が保有する特許権のうち、立体視が前提で、基準面に対して画像のパースペクティブを無くす処理を施す構成が必須要素となっている当社が遠山式と認定する発明になります。

現在保有中の特許で当該特許については、今後当社からの維持年金の支払いはしません。
また、すでに特許権の期間満了まで維持年金が支払い済のものについても、公序良俗に反する等、今回の開放の趣旨に反していたり当社に不利益が生じたりする場合を除き、特許権の行使を行いません。
なお、当社や当社グループが保有する商標権その他特許権以外の知的財産権は開放の対象ではありません。
また、当社は、特許開放に基づく行為について、第三者の権利を侵害しないことを含めいかなる保証もせず、これにより生じた紛争・損害について補償いたしません

令和を迎え、遠山式は多くの人々の手へ。ここから新しいアソビが生まれる?!

――最近ではVR/ARの技術も発達していますが、遠山式の立体視はそれに比べても導入コストが低いために、間口の広い形で立体視の楽しさを伝えられる魅力を感じます。

遠山:遠山式の場合、紙一枚とメガネだけで見る方を「おお!」と驚かせられるのが特徴です。こうした特性はゲームを中心としたエンターテインメント以外の領域でも使い道があると思うので、今回の特許開放に際して、様々な可能性を探っていただけると嬉しいです。遠山式は紙とメガネで実現可能な立体視ですから、「もうちょっとこの位置の方がいいかな」と、自分で見え方を調節したりするのも楽しいんですよ。

展示されている立体表示法の作品を赤青メガネで見る遠山茂樹さんと恩田明生さん

――アナログな手法で実現できる立体視ならではの魅力ですね。

遠山:はい。複数人で体験していただければ、その体験自体をワイワイと楽しんで、盛り上がったりもできますよね。そこに驚きがあれば、誰かに薦める体験も楽しくなるはずです。

また、昆虫図鑑などを筆頭に様々な要素にも活用できるかもしれません。立体視なら、近づくと危ない動物もリアルな形で見ていただけますし、普段は間近で見ることができない歴史的な遺産や博物館の貴重な展示物なども、よりリアルに感じてもらえます。

以前、上野の国立科学博物館で撮影をさせてもらったんですが、恐竜の歯の形状なども伝わりますし、原寸大で撮影すれば大きさもよく分かったんです。なかなか触れられない貴重なものを遠山式で印刷することで、多くの方々にそれをより身近に感じていただけるかもしれません。

――個人的には、遠山式をつかった巨大な脱出ゲームも体験してみたいです……!

遠山:それも面白そうですね(笑)。仕組みがシンプルですから、撤収が非常に楽で持ち運びもしやすく、常設展示に限らずとも、様々なところで活用していただけるかもしれません。SNSなどで、「こんなものをつくってみたよ」と上げていただいたら、とても嬉しいです。

遠山式立体表示法の展示を赤青メガネで見る遠山茂樹さん

――遠山さんは、ご自身が生み出した『遠山式』についてどんなことを感じていますか?

遠山:まずは、名前ですね(笑)。僕自身はこの技術に自分の名前がつくとは思っていなかったんですが、名前がついてしまって、責任が生まれてしまうじゃないですか、と(笑)。

恩田:(笑)。それは僕のせいです。僕が「『遠山式』でいいんじゃないですか?」と言ったんですよ。遠山さんは、今まで開発したものや思いついたアイデアを、日付も入れて全部メモしているんです。僕もたまに見せてもらうんですが、そこには本当に面白いことが書かれていて。それはまるで、なんでも面白くする「秘伝のたれ」のような雰囲気なんですよ。

――遠山さんによる「エンタメの秘伝のたれ」のようなものですか。

恩田:はい。遠山式立体表示法も、そんな遠山さんの秘伝のたれから出てきたものなので、この名前でいいと思いましたし、この技術は色々なものに応用できると思っています。

左:遠山茂樹さん 右:恩田明生さん

――今回の特許開放によって、ますます様々な方々の手によって、面白いアイデアが生まれていくかもしれません。

遠山:そうですね。遠山式は物体を3Dで見せる際の根幹になる技術ですので、見せ方の基本技術として発展してくれたら嬉しいです。僕はもともとゲーム屋さんですが、先ほどお話したように、遠山式が生まれるきっかけになったゲームの企画は頓挫しました。そうしてプロジェクトがなくなったときに、竹本というプログラマーと一緒に形にしたのが遠山式です。色々と実験をする中で、僕ら自身も「脳ってこんな仕組みなんだな」と、改めて色々なことに気づきました。そんな部分も含めて、さまざまな形で活用していただきたいです。

バンダイナムコエンターテインメント本社2Fエントランス 「アソビノラボ」展示
バンダイナムコエンターテインメント本社2Fエントランス 「アソビノラボ」の展示を見る遠山茂樹さんと恩田明生さん

【取材後記】
今回の取材でまず印象的だったのは、アイデアをゼロから生み出す発想の面白さ。遠山さんによる『遠山式』開発秘話には、まだ世にないアソビを生み出す楽しさを感じました。

そしてもうひとつ印象的だったのは、多くの人々の手に委ねることで、一度生み出された技術のさらなる可能性を追求していくことの大切さ。今回の特許開放を経て、遠山式をつかったどんなアソビが生まれるのでしょうか?! とても楽しみになりました。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。