『釣りスピリッツ』家庭用・アーケード版の両プロデューサーに聞く、釣りのゲーム化と魚の表現のこだわり【前編】

2022年11月に稼働10周年を迎える魚釣り体験ゲーム『釣りスピリッツ』(以下、『釣りスピ』)。

家庭用とアーケード版のプロデューサーに、『釣りスピ』誕生の経緯から、両作を子どもたちに楽しんでもらうためのこだわりや苦労、それぞれからリリースされる新作やアップデートについてお話を伺います。

2022年10月27日発売のNintendo Switch向け家庭用最新作『釣りスピリッツ 釣って遊べる水族館』(以下、『釣って遊べる水族館』)と、12月15日にアップデートされる、ウキを沈める新ギミックが追加されたアーケード版新作『釣りスピリッツ シンカー』。

前編では、家庭用プロデューサー 冨所弥生さんとアーケード版プロデューサー 清水亮平さんに、ゲームセンターでひときわ目を引く平置きの筐体が生まれた経緯から、アーケード版と家庭用における制作のこだわりや苦労、魚をゲームに落とし込むうえで考えていることを伺いました。

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冨所 弥生

バンダイナムコエンターテインメント所属
家庭用『釣りスピリッツ 釣って遊べる水族館』プロデューサー

『クマ・トモ』ディレクター、『ネコ・トモ』プロデューサーを経て、2019年に『釣りスピリッツ Nintendo Switchバージョン』プロデューサー。以後、同シリーズを担当する。

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清水 亮平

バンダイナムコアミューズメント所属
アーケード版『釣りスピリッツ』プロデューサー

2014年、『釣りスピリッツ』開発当初メンバーとしてビジュアルチーフを務める。以後、VR体験施設『VR ZONE』の立上げやゲームアトラクション 『ナガシマ釣りスピリッツ』プロデューサーを経て、2020年より現職。

子どもの遊びに着想を得た釣りゲーム

――ゲームセンターにある『釣りスピ』の筐体はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

清水:プロジェクトがスタートしたのはもう10年以上前になります。企画自体は、子どもたちがふだん触れている遊びから、何かおもしろいゲームの着想が得られないか、というところから始まりました。その時に着目したのが、「金魚すくい」や「紐の先に磁石を付けて紙の魚を釣る」などの“釣り”をテーマにした遊びです。

そうした遊びのおもしろさを抽出しつつ、自分の力で魚を釣り上げる体験を再現するためにはどうしたらいいか考えていくなかで、よりリアルでインパクトのある平置きの筐体が生まれました。当時、そのような筐体のメダルゲームがゲームセンターになかったので、実際に置かれるまで紆余曲折ありましたね。

アーケード版『釣りスピリッツ』プロデューサー 清水さん
アーケード版『釣りスピリッツ』プロデューサー 清水さん
アーケード版『釣りスピリッツ』プレイ風景
アーケード版『釣りスピリッツ』プレイ風景

――一方、そのメダルゲームを移植したのが家庭用ですね。

冨所:実際のゲームセンターでプレイできるアーケード版と家庭用の大きな違いは、「本物のメダルを集める体験」の有無です。ただ、家庭用でも本物のメダルが得られる体験に近い楽しさを感じてほしいと思い、ゲーム内で集めたメダルを使って「マシン開発」を進めるというシステムにしています。

このマシン開発ですが、家庭用オリジナルの要素を入れつつ、基本的にアーケード版のアップデートの歴史に沿っていて、進化していく『釣りスピ』の流れを追体験できるようになっているんです。10月発売の新作でも、この仕様は踏襲しています。

冨所さんの写真
家庭用『釣りスピリッツ 釣って遊べる水族館』プロデューサー 冨所さん

デジタルの釣りなら2歳児でもサメが釣れる!?

――デジタルの釣り体験ならではの魅力とは何でしょうか。

清水:『釣りスピ』で言えば、2歳児でもサメが釣れてしまう、みたいなところですね。誰でも大きな魚を自分の力で釣り上げられて、釣りの楽しさを味わうことができます。そんな、小さなお子さんが釣り好きの親御さんに勝ててしまう、といったところが魅力だと思います。

清水さんの写真

――ゲームで「釣り」を表現するうえで、とくにこだわったのはどんな部分でしょうか。

清水:シリーズを通じてこだわっているのは、魚との綱引きバトルですね。アーケード版では魚とのバトルを距離で表現しているのですが、近づいたり離れたりの駆け引きを体験してもらうため、バトル時間について相当検証を重ねました。

アーケード版ではプレイ時間の制限があるので、あまり長くするわけにもいかないんです。そのため、モンスタークラスの大きな魚を強敵だと感じてもらうために、通常の魚よりも長くバトルしてもらうなど、綱引きバトルをどのくらいの時間で体験してもらうかは工夫したところです。

冨所:家庭用では、ご家族みんなでワイワイ遊べるように、協力してプレイできる要素を増やすようにしています。

また、アーケード版にない要素として、ストーリーモードを実装しています。世界観や魚の紹介をストーリーで見せるというのは、じっくり進められる家庭用が得意とする部分です。ストーリーを通して『釣りスピ』の世界観を知ることができて、なおかつご家族で一緒に遊びやすいところは、家庭用でより伸ばしていきたい部分ですね。

清水さんと富所さんの写真

苦労とこだわりが詰まった「サオコン」

――『釣りスピ』を作るなかで、どんなところに苦労しましたか?

清水:バトルも苦労しましたけど、やっぱり「サオコン」ですかね。

サオコンの写真
アーケード版『釣りスピ』のサオコン


清水:このサオコン、最初は軽めの鉄アレイぐらいの重さだったんです。こんなのは子どもが操作できないだろう、というのでハード開発チームがグラム単位で削っていって、最終的には500グラム近くまで落とすことができました。

これならゲームセンターでも20分くらいは遊べるんじゃないか、と言っていたんですけど、実際世に出してみたらすごく熱狂的に遊んでくれて。1時間半くらいやってくれる子もいたんですよ(笑)。本当に、苦労した甲斐がありました。

笑顔の清水さんの写真

――家庭用最新作『釣って遊べる水族館』では、リールの付いた「サオコン」も登場していますよね。

冨所:今回バンダイで作ってもらった家庭用専用の「サオコン」は、ひとつのコントローラーで操作ができるようになっています。なので、ひとりが「サオコン」で遊んで、もうひとりが片手操作で遊ぶ、ということもできるかと思います。

清水:デザインはアーケード版のチームも一緒に考えました。ゲームセンターの「サオコン」に近く、かっこいいデザインに仕上がっています。リールを巻くとカリカリと音が鳴るので、より本物に近い釣り体験が楽しめるのがポイントです。

家庭用サオコン
家庭用専用の「サオコン」

冨所:Joy-Conの左右が切り替えられる構造にするなど、バンダイにいろいろとがんばってもらいました。グループ間で協力して『釣りスピ』を盛り上げていこう、という動きがかたちになったものと言えるかなと思います。

リアルな魚か、フィクションの魚か

――『釣りスピ』にはリアルな魚だけでなく、体に氷をまとったダイヒョウザンクジラなどのゲームらしい魚も登場します。このような魚はどういった経緯で登場したのでしょうか。

清水:リアルな魚のラインアップは稼働当初からひと通り揃えていたんですね。まずはシルエットや認知度の高さなどを基準に選定していました。シルエットがおもしろいシュモクザメ、知名度の高いカクレクマノミやピラニアなどですね。

当初からアップデート計画みたいなものは考えていて、絶滅した魚をテーマに、プレシオサウルスが釣れるレジェンドステージを出そうという話になったんですよ。ではほかのレジェンドステージはどうしようかとなった時に、メカ魚やドラゴンなどを出したんです。ただ、これはやりすぎだったなと(笑)。

メカ魚の画像
アーケード版に登場するメカ魚

清水:当時は男の子をターゲットにしていたのもあって、男の子向けのゲームやおもちゃの文脈からドラゴンやメカが喜ばれるだろう、という発想だったんです。とはいえ、稼働してみたら女の子も想像以上に遊んでくれたので、いまはターゲットを5歳から12歳の男女としています。

『釣りスピ』を楽しんでくれる子って、生き物自体が好きなんですよ。もちろんドラゴンが好きな子もいるけれど、実際にいる生き物がでっかく、格好よくいれば、それはそれで「すげー!」ってなるんです。なので、これからはリアル路線を伸ばしていかないとね、という話になっています。

――魚を作る時、どのようにリアル路線かどうか判断しているのでしょう。

清水:もしかしたらこの世のどこかにいるかもしれない、と思えるかをひとつの線引きとしています。メカ魚はいなそうだけど、ダイヒョウザンクジラは北極の海の底にいるかもしれない、みたいなところですね。

ダイヒョウザンクジラの画像
ダイヒョウザンクジラ

家庭用新作とアーケード版の大型アップデートについて語るインタビュー後編はこちら↓

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【編集後記】
ゲームセンターで見かければひと目でそれとわかる『釣りスピ』。『釣って遊べる水族館』の「サオコン」は質感が格好いいのもあって無性にリールを巻きたくなる魅力があります。アーケード版の「サオコン」がもともと鉄アレイくらいの重さだったというのも驚きでした。制作陣の試行錯誤が伺えますね。

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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