こだわりが詰まった敵キャラの世界。『スカーレットネクサス』&『テイルズ オブ アライズ』制作陣が明かすRPGの舞台裏【前編】

『スカーレットネクサス』&『テイルズ オブ アライズ』の開発陣と、『スカーレットネクサス』の敵キャラである怪異を生み出したデザイナーの山代政一さんにお集まりいただき、敵キャラクターの魅力についてお話を伺いました。続く後編では、本インタビューのために描きおろされた新たな怪異について語っていただいています。

2022年9月9日に『テイルズ オブ アライズ』(以下、『アライズ』)が発売1周年を迎えたことを祝し、同時期に開発、発売された『スカーレットネクサス』(以下、『スカネク』)の開発陣と同作の敵である怪異をデザインした山代政一さんを迎え、ゲームにおける敵の存在意義や魅力的な敵の条件などについて、両作品のお話を交えながら語っていただきました。

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飯塚 啓太

バンダイナムコエンターテインメント所属

『SCARLET NEXUS』プロデューサー。スマートフォンアプリの開発、運営に携わったのち、家庭用ゲームの開発やプロデュースを手掛けた。2019年に発売された『CODE VEIN』でプロデューサーを務める。

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穴吹 健児

バンダイナムコスタジオ所属

『SCARLET NEXUS』ディレクター。『テイルズ オブ』シリーズに10年以上携わり、『テイルズ オブ エクシリア2』などでディレクターを務める。

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山代 政一

『SCARLET NEXUS』で怪異のデザインを担当したデザイナー。メルセデス・ベンツ三井アウトレットパーク木更津の店内壁画や“ミュージカル『刀剣乱舞』―東京心覚―“のアートディレクションなどを手掛ける。

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富澤 祐介

バンダイナムコエンターテインメント所属

『テイルズ オブ アライズ』プロデューサーであり、現在の『テイルズ オブ』シリーズのIP総合プロデューサー。バンダイ所属を経てバンダイナムコゲームス(当時)で『GOD EATER』シリーズの立ち上げなどに従事したあと、『テイルズ オブ ヴェスペリア REMASTER』より『テイルズ オブ』シリーズのプロデュースに携わる。

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岩本 稔

バンダイナムコスタジオ所属

『テイルズ オブ アライズ』アートディレクター&メインキャラクターデザイナー。『テイルズ オブ ヴェスペリア』でのアートディレクターをはじめ、多くの『テイルズ オブ』シリーズのアート、キャラクターデザインに携わる。

敵キャラクターは主人公たちと同じくらい重要

――今回は『アライズ』と『スカネク』それぞれの作品のお話も交えつつ、ゲームにおける敵キャラクターについて伺っていきたいと思います。さっそくですが、皆さんにとって敵キャラクターとはどのような存在でしょうか。

穴吹:『スカネク』や『テイルズ オブ』、それ以外のタイトルを振り返ってみても、僕はバトルに関連する部分の制作に携わることが多かったんですよね。その意味で敵キャラは、自分の開発者人生と切っても切れない大切な存在です。

ゲーム内での扱いに関して言うと、キャラクターとしての敵とモンスター系の敵とでその考え方は変わってくるかと思います。モンスター系なら、いかにプレイヤーを楽しませるバトルを作るか。キャラクターであれば、それに加えてストーリーにどう起伏を生むか。そういった観点からも、それぞれ重要な役割を担う存在だと考えています。

『SCARLET NEXUS』ディレクター 穴吹さん

富澤:そのゲームで体験してもらいたいことや主人公の存在は、敵がいて初めて引き立つ側面もあります。だから、敵キャラはプレイヤーキャラクターと同じくらい重要。『GOD EATER』のような作品ではむしろ、アバターである主人公より大きな存在になることもありますよね。

『テイルズ オブ』シリーズや『スカネク』のようにドラマ性の強い作品であれば、敵との関係性がどう変化していくか、という部分まで企画の初期段階から考えています。

『テイルズ オブ アライズ』プロデューサー 富澤さん

それから、これは今回この場に来られなかった『アライズ』のアクションディレクター香川(※)の発言なんですが、“敵だからこそ描ける魅力がある”という視点もありますよね。主人公はどうしても正しさに寄りがちな一方で、敵だからこそ狂気に満ちていたり負けていく哀愁が描けたりする。それによって物語のおもしろさが増していくのではないかと。「ゲームを遊ぶ前におもしろそうと思わせてくれるのは敵キャラクターです」とも言っています。

※香川 寛和:バンダイナムコスタジオ所属。『テイルズ オブ アライズ』ディレクター。プレイステーション2版『テイルズ オブ デスティニー』ではエフェクトを、『テイルズ オブ グレイセス』や『テイルズ オブ ゼスティリア』などでは戦闘プログラムの制作を担当。

いずれも敵ならではのキャラクター性を持つ『アライズ』のボス・領将(スルド)たち

飯塚:富澤さんのお話にもありましたけど、プレイヤーキャラクターたちと同格の存在であってほしい。本当にそれぐらい重要なポジションだと思っています。RPGは特にそうだと思うんですけど、敵キャラクターは世界を表現する重要な彩りのひとつなんです。

『SCARLET NEXUS』プロデューサー 飯塚さん

岩本:『GOD EATER』の例が出ましたけど、映画でも『エイリアン』などがあるように、作品によってはむしろ敵キャラクターが主役になっていることもありますよね。一方でRPG作品においての「敵」は、主人公たちの成し遂げたいことと相反する存在、つまり主人公の行く道に立ち塞がる障害です。だから、主人公たちを輝かせるために敵も強く輝かせる、というのを意識してキャラクターを作っています。

『テイルズ オブ アライズ』アートディレクター 岩本さん

――山代さんはゲームのキャラクターデザインを行われたのは『スカネク』が初ということですが、敵キャラクターについて聞かれたらどのように答えますか?

山代:ゲームをそれなりに遊んできた素人の考えにはなるんですけど、敵キャラクターってめちゃくちゃインタラクティブな背景とも言えますよね。

ゲームって、遊んでいるときはプレイアブルキャラクターの背中を見ていることが多いじゃないですか。そう考えると正面から向かってくる敵は、ゲームの第2の顔とも言えるんじゃないかなと思います。

『SCARLET NEXUS』デザイナー 山代さん

魅力的な敵の条件とは

――敵キャラが魅力的な存在であるための条件についても伺っていきます。まずは山代さん、どう思われますか?

山代:開発者ではない僕が言うのも恐縮なんですが、プレイヤーを楽しませるホスピタリティが高いことだと思っています。『スカネク』の敵キャラをデザインする際には特徴的なビジュアルを意識しましたが、見た目が奇抜であるというのはゲームがもつビジュアル要素のひとつに過ぎなくて。奇抜だから必ずしもいい、というわけではないと思います。

戦った時に気持ちのいい倒され方をしてくれるとかで、プレイヤーのさまざまな感情を引き出してくれるかが魅力的な敵キャラであるために重要なのかな、と。

富澤:十分開発者的なコメントが出てきましたね(笑)。

岩本:すごいですね。ちゃんとゲームの設計の部分を見られているなと感じました。似たような意見になりますけど、やっぱり見た瞬間に戦いたくてワクワクする、この敵とはどんなふうに切磋琢磨できるんだろう、と思わせてくれるのが魅力的な敵かなと思いますね。

飯塚:やっぱり敵はプレイヤーを楽しませる存在なんですよね。アクション面でもストーリー面でも、敵がいることでプレイヤーとゲームとのインタラクション性が生まれてくるので、そういった魅力を出せているか、というのが敵キャラにおいて重要なポイントだと思います。

富澤:共感はできないのに、強引にでも「その考えもありかもしれない」と思わされてしまう。そんな敵だと、ゲームをプレイするなかでも僕たちを悩ませてくれるじゃないですか。自分は最終的にどっち側につくんだろうか? と考えさせてくれる敵は、ドラマの面でもワクワクさせてくれると思います。

さらに、アクションディレクター香川の意見を紹介すると、魅力的な敵というのはシルエットを見たときにどんな攻撃をしてくるのだろう、とワクワクできる存在だといいます。

『アライズ』で言えばビエゾという最初のボスは、体格も明らかに大きくて、人間には扱えないぐらい巨大な斧を持っているんですね。ひと目で「一撃が重そう」、「攻撃を食らったら即死するんじゃないか」と想像できるデザインになっています。

ビエゾ

穴吹:バックボーンがしっかりしているのも重要だと思います。『テイルズ オブ』も『スカネク』も、敵は敵で主人公たちと衝突する理由があって。そこがしっかりしていないとストーリーも弱く映ってしまうじゃないですか。実弥島巧先生(※)はよく、先に敵側の戦う理由を作ってから主人公たちを作る、とおっしゃっているくらいです。

※実弥島巧:ゲームシナリオライター。『スカネク』のほか、『テイルズ オブ シンフォニア』など『テイルズ オブ』シリーズでもシナリオを手がける。

それから僕個人としては、敵キャラ同士の関係性が見えたりするとニヤリとするというか、魅力的に感じますね。バトルに関しては皆さんが語ってくれましたが、やっぱりその敵にしかできない一芸、みたいなものが見えるといいですよね。怪異を作る時も、その怪異にしかできないことを考えてオーダーしていました。

富澤:ゲームならではの魅力的な敵の条件という意味では、何度戦ってもおもしろい、というのもありますよね。RPGのボスなどは1回戦って乗り越えることが多いですけど、『GOD EATER』みたいに同じ敵と100回、200回と戦うようなタイトルは、攻略部位や順番など、登山のように様々なアプローチがある、その意味で敵自体がステージのような発想で設計されていました。

――“敵自体がステージ”というのは言い得て妙ですね。

富澤:1回戦っただけではすべてが見えなかったり、より上手く勝ちたい気持ちがユーザーにはあると思うので、そういった意味でも何度も戦えるような敵、というのは意識しています。特にアクション作品では、何回勝ってもらいたい相手なのか、というのはゲーム設計上も考えられている部分だと思います。

穴吹:がんばったら完封できるようにはしたいですよね。どれだけ上手く立ち回っても絶対にどこかでダメージを受けるのではなく、知識とテクニックを駆使すれば完封できるような敵であってほしい。

飯塚:設計する側もプレイヤーの完封したいという思いを逆手に取って、まだまだこういう動きをするぞ、みたいな意外性を組み立てていくんですよね。完封できるけど簡単にはさせないぞ、というのはまさにディレクションだと思います。

『スカネク』と『アライズ』。それぞれが考える特徴的な敵の作り方

――『スカネク』と『アライズ』がそれぞれ敵を作るうえで心掛けたことを教えていただけますか?

穴吹:『スカネク』は超脳力バトルの設定が最初にあったので、それが表現できるデザインというのが重要なポイントでした。超脳力で対抗しないと戦えない、と思えるような異質さは、山代さんが見事に表現してくれましたね。

飯塚:敵キャラクターのデザインって、いわゆるモンスターっぽいものからスタートすることが多いんですよ。でも「怪異」は本当に意思のない不気味さが表れていて、見た瞬間に異質さが伝わってきたんです。こんな存在に対抗するには超脳力しかないだろう、と直感的に感じられて、作品の世界にすごく合っていました。

山代:意思の疎通ができなさそう、というのは自分のなかの基準としてもあって。何を考えているか分からないことが大事だと思っているんですよね。デザインして、「分からないな、じゃあ行ける」みたいな(笑)。

富澤:モンスター系の敵の場合は、プレイヤーが倒すべき存在として割り切れるのもゲーム設計上大事なんですよね。1体1体に感情移入すると、それはそれで疲れてしまうじゃないですか。

――『アライズ』では、敵を作る際にどのようなことにこだわりましたか?

富澤:『アライズ』は『テイルズ オブ』シリーズの25周年記念タイトル。要するに、ブランドとしての色をしっかり受け継ぎながら作ってきたタイトルなんです。ただ、同時に『アライズ』は進化を求める作品でもあったので、その意志を敵キャラクターにも込めたいと考えていました。

アクション、バトルを進化させようと考えると、プレイヤーが操作するキャラクターのモーションだけでなく、敵の動きといったインタラクション性も新しくしないといけません。モーションの活かし方、3Dアクションとしてのハッタリの利かせ方といった部分で、これまで以上の脅威を感じられるバトルを、というのは企画段階から話していました。

穴吹:『アライズ』はモンスターのダメージモーションがよくできていますよね。私が携わったヴェスペリアやエクシリアなどはダメージを受けた際、2パターンの動きを繰り返して表現していました。手応えを感じさせる表現として、それはそれでアリだと思うのですが、どうしても単調になりがちだったんです。でも、『アライズ』ではそこをあまり感じなくて。ダメージリアクションの部分をこだわって作ったんだろうな、と感じました。

富澤:そうですね。これまで主人公たちに重点的に割いていたアクションのリソースを敵側のリアクションにも割り当てて、より気持ちよく戦えるようにすることを意識しました。ダメージモーションだけでなく、エフェクトもこだわってます。

岩本:人型の敵に関して言えば、主人公たちは人間味があって暖かさを感じられるように作っているので、敵側はその真逆を意識しました。人型はどうしてもシルエットが大人しくなりがちなので、ひとつネジが外れたような設定を見た目上も盛り込んで、服装や顔つきのバリエーションを豊かにしています。

モンスターについてはうれしかったことがひとつあって。『アライズ』を進化させるとなった時に、モンスター班に何をしたいかと聞いたら、「キャラクターたちよりも人気が出る、主人公はモンスターだと言われるようなものにしたいです」と言ってくれたんです。

香川さんも自分がゲームを買う時のきっかけとなるのはボスラッシュ(※)の映像だ、とおっしゃっていたので、PVの1秒、2秒でもワクワクさせられるようなモンスターを作るぞ、という思いで取り組みました。

※ボスラッシュ:ボスキャラクターとの連続した戦闘のこと

――そんな『アライズ』のモンスターたちは、山代さんの目にどう映りましたか?

山代:『テイルズ オブ』シリーズって、四半世紀続いたシリーズじゃないですか。そのなかで、『アライズ』の描画に合わせた造形の細かさや配色が敵にも反映されていて、そのさじ加減がすごいなと思いましたね。例えば、シリーズ恒例のウルフ系とかって、根っこのコンセプトはそんなに変わらないと思うんです。それなのに、毛束感ひとつとっても、『テイルズ オブ ベルセリア』やもっと前の作品とキッチリ差別化されているんですよね。

そういう部分を見ると、世界にそのモンスターを配置した時の納得感と、それを受け止められる世界の作り方は、『スカネク』が目指していた「異質」というキーワードとは違った美しさのあり方だな、と感じました。

『テイルズ オブ アライズ』のウルフ
『テイルズ オブ ベルセリア』のウルフ

開発陣を驚愕させた『スカネク』の敵、「怪異」

――ここからは『スカネク』の敵キャラクターである「怪異」についてお話を伺っていきたいと思います。以前対談でアートディレクターの落合さんが山代さんに声をかけたとのお話がありましたが、おふたりが出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

山代:当時は長年勤めていた会社を辞めて自活しないといけないなと思っていたころで。そんななか、展示会に出展していたときに話しかけてきてくださったのが落合さんでした。最初は開発の話なんかはせずに、ものづくりや好きなゲームの話をしていたんです。そうしていろいろとお聞きするなかで、こんなにまっすぐな人がいる会社と仕事がしてみたいな、と思ったんですよね。

エネミーデザインって、人型のキャラクターデザインよりも造形の自由度が高いじゃないですか。多くの絵描きがそうだと思うんですけど、油断すると人間を描きがちなところがあるので。人型に囚われない仕事を経験するのは、仮に今後人間を描くとしても大きなプラスになるのかな、と思ったんです。そうしたら案の定、自分のなかでパラダイムシフトが起きて。本当にいい現場でした。

――依頼を受けた後、お互いに最初の印象はいかがでしたか?

穴吹:最初に送られてきたのがワイナリー・チナリーのデザインだったんですけど、かなりの衝撃でしたね。もう、事件でしたよ(笑)。

飯塚:まさか1発目でああいうのが出てくるとは思わなかったですよね。

開発陣をざわつかせたワイナリー・チナリー(初期デザイン版)

穴吹:あれは山代さんも相当気合い入れて描きましたよね?

山代:打ち合わせさせていただいて、開発陣のジャッジがきびしいだろうな、というのは感じていたんですよ。最初はラフ案を、ということだったんですけど、ラフだけ出して「コイツで大丈夫か?」と思われても嫌だったので。ひとつちゃんとしたものを描こうと思いました。

穴吹:あれは本当に、開発陣みんなの目が覚めましたね。最初から完成度がすごかったので、「ヤバいのが来たね」と話題になっていました。

山代:僕は3Dで絵を描く人間なので、手描きのラフだと自分の持ち味みたいなものがどうしても出し切れないんですよね。だから、ちゃんと持ち味を伝えるのであれば、イチからモデリングしたものをお出しするのが一番いいだろう、と。中途半端なモデリングってあまりないと思うので、やるからには、とやり切ったら、あんなふうになってしまいました(笑)。

飯塚:ワイナリー・チナリーは特に、人間の腕があって、樹が生えていて。バルブも付いているしあばら骨のような金属のような骨組みがあって、しかもカモシカの脚まで付いていて……。もう、とにかくすごかったですね。

富澤:プレゼンテーション資料としての圧がすごかったですからね(笑)。

山代:ありがたい話です。

デザインと開発、互いの刺激で生まれた「怪異」の動き

――怪異はビジュアルだけでなく設定や動きを見ても特徴的ですが、最初はどの部分からできあがっていったのでしょうか?

山代:後半は仕様書をいただいてデザインすることもありましたけど、途中まではこちらで絵だけをポンと出すケースもありましたね。

穴吹:ワイナリー・チナリーは好きにデザインしていただいて、それをどうバトルに実装しようか、という流れで作りました。ほかにもそういう怪異はいたんですけど、途中からは遊びの部分を先に詰めていましたね。

例えばフュエル・プールなら「発火で燃やせるようにしたいから油を取り入れてください」、ベース・ポーズなら「瞬間移動や透明化を活用するために、ふつうに近づいたらシャッターを下ろして弱点を守るようなキャラクターにしてください」みたいなアイデアを出して、山代さんに料理していただいていました。途中からはその方式がメインになっていましたね。

フュエル・プール
ベース・ポーズ

山代:そういうゲームの仕様があったことで、より広がりをもったデザインができたと思います。僕ひとりだったら、シャッターをガーンと落とすような絵って描かないと思うんですよ。

穴吹:むしろゲーム側の要件が山代さんの発想を阻害しているのかな、と思っていたんですけど、そんなことはなかったんですね。

山代:全然。むしろそれを足掛かりにして作っていける、みたいな感覚でした。

富澤:こんな幸せな現場ありますか?(笑)

――山代さんがデザインした怪異のビジュアルは、その後開発側とのやり取りで修正が入ったりしたのでしょうか?

穴吹:デザイン自体はそのままですね。開発の過程で一部の色を調整する程度で、あとは山代さんが描いてくださった怪異そのままです。

富澤:唯一懸念としてあったのは、人体的なパーツを取り入れているなど、有機的なものと無機的なものを混ぜたデザインがどう受け止められるか、みたいな倫理的な部分でしたね。ただ、そこをそぎ落としてしまうとゲームのとがっている部分、魅力がなくなってしまいますから。

バディ・ラミィ

飯塚:最終的には怪異は人ではないので、ということでOKになりました。

富澤:たぶんみんなそれくらい、怪異のデザインを見たときに「これを通さなきゃ」という思いがあったんじゃないかと思います。審査する側もこの魅力には抗えなかったんじゃないかな、と。結果として初期の思いがそのまま形になったというのは、本当にすばらしいことだと思います。

飯塚:デザインもすごいんですけど、実装された怪異の動きを見るとさらに不気味さが増していて。実は、腕などの人体的特徴があるものについては、モーションキャプチャーを使って動きを作っているんです。

山代:モーションキャプチャーをどう使うんだろう、って思いますけどね(笑)。

穴吹:例えばボス怪異、ディスペン・フィッシャーだと、台車みたいなものを胸の下に敷いて、蜘蛛みたいに動いてもらって作りました。

ディスペン・フィッシャー

富澤:アクターさんがたいへんそうですね(笑)。

強烈な異質さを持ちながらもゲーム要件をクリアしたデザイン

――岩本さん、怪異を最初に見たときの印象はいかがでしたか?

岩本:プロジェクト内でGOをもらうのってむずかしいと思うんですけど、それを楽々突破した怪異というフックは、プロジェクト間をも突破するんですよね。『テイルズ オブ』チームにもかなりの衝撃波が来ました。「すごいのが来てるぞ!」と。

富澤:余波がすごかったですね。

山代:ありがとうございます。じゃあもっとエラそうにしていいんですかね(笑)。

岩本:試作中のゲームって、何だかんだ言って「きっとこうなるんだろうな」っていうフィルターをかけてあげないと、粗探しが始まってしまいがちなんです。でも怪異に関しては、「なんだこれは!」って。いきなり完成形なんですよね。本当に、ユーザーの皆さんが初めて見た時と同じくらいの衝撃を受けました。

でも同時に、見れば見るほどゲームの要件を満たしているんです。電球は明らかに弱点だなとわかったり、こいつは天井に張り付くだろうなというが見て取れたり。鎖や毛といったパーツもモデルでしっかり表現されていて。どこにも穴がないんです。

岩本:しかもパッと見でゲームの仕様が透けて見えるようなものではなくて、何よりもまず怪異というものの異質さがガンッとくるんですよね。そんなものを作る人を僕は数人しか知らないんですけど、それをゲームのグラフィックで味わえることに驚きました。こんなことがあるのか、って。

山代:以前のインタビューで、岩本さんが怪異に対して「虫を見た時の嫌悪感」みたいにおっしゃっていたじゃないですか。僕、虫はすごくダメなんですけど、描くのはすごく好きなんですよ。そこも含めていろいろと見透かされていて、記事を読みながら「なんだこの男は!」と思ったのを覚えています(笑)。

岩本:アートに対する深い愛情みたいなものって、やっぱり見て伝わっちゃうんですよね。そう言う意味で、ある種尊敬というか、憧れみたいなものを感じました。

山代:とんでもないです。

――怪異が実際にゲームで動く姿を見て、どんな気持ちでしたか?

山代:僕は3Dで絵を描く人間なんですが、アニメーションには全然触れず、静止画だけで生きてきたんです。怪異が動く姿を見せていただいたときに、自分の絵なのに自分の手を離れてどこかに行くんだ、という寂しさと驚きと感動みたいなものが、変にないまぜになって。その場で感動でちょっと泣いてしまったんですよね。今後似たような経験があったとしたら、そのときにも泣ける人間でいたいと思います。

人と一緒にものを作ったときに得られる達成感や、自分ひとりではできないものが作り上げられる感動は本当に大きい。ゲームって、作っている瞬間もすごくゲームをしているんじゃないか、という気がしますね。

穴吹:哲学的でいいですね。ゲームを作るのがゲーム。

山代:そうですか? どこかで穴吹さんの言葉として使ってもいいですよ(笑)。

山代さんが本記事のため特別に描き下ろしてくださった新たな怪異やJRPGらしさとは何かを語るインタビュー後編はこちら↓

【編集後記】
ともに発売1周年を迎えた『スカネク』と『アライズ』。前編ではゲームにおける敵の存在や怪異などについて語っていただきましたが、個人的には富澤さんの「敵自体がステージ」という言葉が非常に興味深く感じられました。ボスに何度も敗北しながら挑み続ける感覚は、たしかにそれ自体がステージ攻略のようなもの。アクションゲームは下手の横好き的に楽しんでいますが、敵をステージと考えて分析すれば勝率も上がるかも……?

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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Tales of Arise™ & © Bandai Namco Entertainment Inc.