『電音部』の沼にはまってほしい――2周年記念MV『You Are The Light』に込められた思い【後編】

2020年6月に発足した音楽原作のキャラクタープロジェクト『電音部』。2周年を迎えた本プロジェクトの制作陣と2周年記念MV『You Are The Light』を手掛けたMV作家の方々にお集まりいただきました。前編では、制作陣を中心に2年間の思い出やファンとのコミュニケーションに関するお話を中心に伺いましたが、後編では映像作家陣を交えて2周年記念MVに込めたこだわりやファンの方々へのメッセージを語っていただきました。

制作陣に『電音部』を2年間運営してきたなかで印象に残っていることやファンコミュニティーについて伺った前編に続き、後編では2周年記念で公開されたMV『You Are The Light』について、映像を制作されたつづつさんとはなけんさん、作曲を手掛けた渡辺さんを中心にMVへのこだわりを語っていただきました。

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子川 拓哉

バンダイナムコエンターテインメント所属

『電音部』統括プロデューサー、『ASOBINOTES』レーベルプロデューサー。『電音部』の立ち上げ、総合プロデュースを担当。ナムコ(現バンダイナムコアミューズメント)入社で、コンセプトカフェの運営や、新規事業企画などを経て、2019年よりバンダイナムコエンターテインメント所属。

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石田 裕亮

バンダイナムコエンターテインメント所属

『電音部』統括ディレクター。『電音部』の立ち上げ、総合ディレクションを担当。アニメーションの制作や新規事業企画などを経て現職。『電音部』の配信番組ではMCを務めることが多い。

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渡辺 量

バンダイナムコスタジオ所属

『電音部』サウンドアドバイザー。普段はゲームサウンドの開発ディレクションやマネジメントを行いつつ、『電音部』ではサウンド周りのアドバイスを中心に、歌唱収録ディレクションやLIVEの音響監督等も務める。2周年記念MV『You Are The Light』では楽曲の作詞作曲を担当。

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つづつ

アニメーション作家

『電音部』ではアキバエリアの『Blank Paper (Prod. TEMPLIME)』MVを総合的に手掛け、以降もジャケットイラストやMV制作に携わる。

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はなけん(花谷 健太)

映像作家

『電音部』ではアキバエリアの『Blank Paper (Prod. TEMPLIME)』MV作成に携わり、その後2周年記念MVで再びつづつさんとともに映像を制作。

『Blank Paper』のセルフオマージュから幕を開けるAメロ

――後編では『電音部』初の全員歌唱曲『You Are The Light』のMVを振り返りながら、注目ポイントやこだわりについてたっぷり語っていただければと思います。

はなけん:今回のMVはアルバムをめくっていくシーンから始まるのですが、この冒頭部分は以前僕とつづつが制作した『Blank Paper (Prod. TEMPLIME)』MVのセルフオマージュになっています。

『You Are The Light』のセルフオマージュ部分
オマージュ元になった『Blank Paper』の冒頭

つづつ:最初にアルバムの写真を見せているのですが、ここは1冊のアルバムにもたくさんの思い出が詰まっていることを見せて、このあとにあるアルバムが複数出てくるシーンで、思い出の多さを感じられるようにするための前段階になっています。個人的にはアザブの3人が家族写真風になっているのを笑ってくれたらうれしいなと(笑)。

子川:言われてみれば座り方とか構図が家族写真だ(笑)。黒鉄たま(くろがね たま)以外は普通の顔をしているのがまたいいですね。

つづつ:「ハッ!…いつの間に…」みたいな(笑)

つづつ:こういう、ちょっとしたユニークさを入れるのが僕は好きなので、それを受け入れてくれる土壌が『電音部』にあるのは、本当にやりやすいんです。締めるところは締めるけど、ギャグの部分はちゃんとふざけられるんですよね。

イントロでアルバム写真を見せたあとのAメロ、アキバパートでは、このMVが第1部の後日談であることを説明するために、舞熊莉衣玖(まいぐま りいく)がネットニュースを書いている場面を描いています。茅野ふたば(かやの ふたば)が歌っている場面が無断転載されていて、それを見た本人がビックリしちゃっている、という感じですね。

アキバエリアのふたばはアイドルやDJとして活動する際など、極度の緊張状態になるともうひとつの人格が現れ、普段の大人しさからはかけ離れたパフォーマンスを披露する。

子川:そしてハラジュクパートに入るとまた場面が変わって、ゲームセンターにいる水上雛(みなかみ ひな)が出てくる。この、後ろ姿がすごくいいんですよね。

つづつ:ここは僕としてもこだわった部分です。これまで雛が中心になって話が進むことがあまりなかったので、雛を真ん中に立たせてみたかったんですよね。それで、雛が自分でデザインしたキャラクターのプライズを取りにゲームセンターに来たんだけど、結局ハラジュクのふたりがやってきて一緒になる、という場面にしたらかわいいかなと。

はなけん:MVの打ち合わせをした時に雛がデザインしたグッズはありますか、みたいな質問をしたんですけど、あの時に共有していただいたグッズがここに登場しているものですね。

子川:ここの犬吠埼紫杏(いぬぼうさき しあん)もかわいいですよね。この時彼女は何を考えているんでしょうか。

つづつ:ここに限らずMVの描写は幅広い解釈ができるようにしていて、特定の正解はないものとしています。ここの紫杏も、デザインは違うけど雛とお揃いのものを持っているので、そこからみんなが思い思いの感情を読み取ってくれれば、と思っています。いつもは目にハイライトが入っていないんですけど、ここは目が輝いている、というのが深読みポイントですね。

子川:ハラジュクパートの締めになっている「愛おしく輝く」っていう歌詞がもう、まさにですよね。「そうだよな!」っていう感じで(笑)。

アザブ、シブヤの日常を描くBメロ

子川:続いてアザブパートなんですけど、(映像を巻き戻しながら)ここ! この流れ星の場面は僕がお願いして入れていただいたんですよ。

つづつ:そうなんですよね。ここは『You Are The Light』のジャケットイラストの背景が想像できれば、と思って作りました。歌詞も丁度「Like a Shooting Star」となっていたので、満天の星空に流れ星が、というジャケットに合わせるのがいいんじゃないかと思ったんです。

つづつ:そこからの流れで、通常のたまでもよかったんですけど、普段メイドとして働いているたまはどんな生活を送っているのかな、と思ったんです。ノベルではアキバを中心に、日高零奈(ひだか れいな)がほかのエリアとどう出会っていくのかが描かれて、4コマではエリアごとの日常が描かれていましたけど、僕もエリアごとの日常を描いてみたかったんですよね。今回のポイントは第1部が完結したあと、みんなはこういう生活を送っているよ、というのを表現しています。

子川:今回渡辺さんに歌を作ってもらって、元々はアキバ単体の曲として設計していたんですけど、やっぱり全体曲として発展できるんじゃないか、みたいな話になったんですよね。それで僕が歌割り(※1)をさせてもらったんですけど、この「Like a Shooting Star 今煌めく 幾千の星の中から 出会えたね」の部分は絶対にアザブだなと思ったんです。

※1 歌割り:誰がどの部分を歌うか割り振ること

石田:子川さんが歌割りをするのは今回が初ぐらいの話で、すごく珍しいんですよ。

渡辺:この歌割りは本当に、超感動できますね。キャラ愛に溢れていて。あと、「出会えたね」のところは歌詞をエモーショナルなものとして作詞したんですけど、映像は敢えてそっちに寄せていないんですよね。

つづつ:エモい描き方もできるとは思ったんですけど、歌詞がエモいからといって必ず映像もそうする必要があるのか、といろんなシーンを考えました。最初は、白金煌(しろかね あき)にたまが紅茶を持ってきて、そこに灰島銀華(はいじま ぎんか)が「私のぶんもお願い」って言ってきて、たまが「お前にはやらねぇよ!」って怒る、みたいな流れだったんですよね(笑)。

はなけん:そうやったね(笑)。

つづつ:3人一緒に映ってる構図から、煌と銀華の2人と一緒にいるたまではなく、たまと煌、たまと銀華それぞれの組み合わせで見せる表情を描き分けようと思いました。銀華がここで朗らかに笑っているのを見せられるのは、ひとつ気持ちいいところじゃないかな、と思ったんです。含めた笑みではなくて、口を開けて「ははは」と笑えている銀華、というだけで十分かな、と。

はなけん:あと、Bメロのアザブパート冒頭にはたまがキラキラした様子を見せているんですけど、そのあとに他のキャラとのやり取りを見せることで、エリア内ではこういう表情も見せるんだ、という深掘りにもなると考えています。

子川:ヨシヨシされているのが、いいですよね。

子川:そして、前半の最後がシブヤパートですね。

つづつ:ここはストレートに、瀬戸海月(せと みつき)のまわりに形成された、日高零奈以外のコミュニティーをしっかり描きたいと思った部分です。

渡辺:わかります。ここ好きなんですよね。

つづつ:互いに認め合っているよね、というシブヤの関係値があって、カリスマ的な鳳凰火凛(ほうおう かりん)がいるけど、海月、ルキアの「私たちも同じ場所に立っているぞ」っていう想いが伝わればいいな、って。

歌詞と映像が完璧にマッチするサビ、ノベルを引用した間奏

子川:サビでは歴代のジャケットイラストをオマージュしているんですよね。ここもかわいい。『Where Is The Love (feat. Shogo&早川博隆)』の実写MVをオマージュしているところもあって、昔からのファンは特に楽しめる部分だと思います。

子川:あとここがいいんですよ! 僕のイチ押しポイントです。この「いつの日かめぐり逢う なりたい自分を探して」の部分でふたばが出てくるシーン。

つづつ:ここは完璧に歌詞と映像を合わせられるなと思ったんですよ。これはもう完全にふたばピックアップでいいかなと思って。普段のふたばとDJプレイ中のふたば、このふたりが好きなんですよね。一人称が“あたし”のふたばと“わたし”のふたば、ふたりは別々の人物として捉えています。

子川:からの、東雲和音(しののめ かずね)ですよ。

つづつ:和音はいろいろとすごいことをしても許されているので、ここでめちゃくちゃ絶望させてあげようと思いました(笑)。

一同:(笑)

つづつ:このサビの最後、僕が一番好きなのはここですね。この海月が描けたことでかなり満足できました。

子川:ここもいいですよね。完成したMVには文字としては入っていないんですけど、最初のデモ版で補足として「俯く海月。しかし、吹っ切れていた」って書かれていたのがすごくいいなと思って。「しかし、吹っ切れていた」、これがいいなって(笑)。

デモ版

はなけん:確かに。自分が制作するときにそこの文章を強く意識してはいなかったんですが、そう言われるとなんかジワジワきますね(笑)。

子川:そしてサビ終わりからの間奏で、今度はノベルのセリフが引用されてくるんですよね。

つづつ:そうです。間奏はノベルから引用してこようと思って、引っ張ってきたセリフから「ここはあのシーンだ」というところを絵として描いていこうかなと。

石田:ここは個人的に全部好きなシーンを入れてもらったんですけど、この演出もすごくいいですよね。

はなけん:僕はここがすごく好きですね。ここのカリンのセリフを自分がどうしても入れたい……!という強い意志が制作の冒頭から合り、ラフを描いてつづつに描き起こしてもらいました。イチ推しポイントです。

Cメロはオリジナルストーリーが展開

つづつ:ドロップが終わってCメロに入ると、夕焼けの夕日がミラーボールに変わるかたちでパーティー会場に場面が移っていきます。ここからは制作陣に許可をいただいて、ノベルとも関係のない僕オリジナルのシチュエーションを描かせてもらいました。

子川:このシーンではパーティー会場にシブヤのメンバーが乗り込んできて、パーティーが開幕するんですよね。

つづつ:ありがとうございます(笑)。これは気づく人いるかなと思うんですけど、サビ2では第1部のキービジュアルのポーズを取らせたりもしているんですよ。シチュエーション的にちょっと不思議なポーズになっているので、気づく人は気づくかなと。こういうネタはさまざまな箇所で仕込んでいます。

子川:最初にMVの構成を見せてもらった時に、ライブイベントで紫杏がDJをやって桜乃美々兎(さくらの みみと)が歌う、みたいなのは本当に一番解釈が合うなと思って。

石田:そのあとのアザブもいいんですよね。銀華が煌にバトンタッチするのもいいですし、ダンサーが入っているというのも煌らしくて。

つづつ:煌は絶対に呼ぶと思ったんですよ。「ミラーボール回せ!」って言いそうじゃないですか。ダンサーについてもちゃんとライブの映像を見て取り入れました。めっちゃいい動きをつけるので、期待していてください。

子川:そして最後に、火凛と零奈が出てくるんですよね。

はなけん:ここはノベルの最後にあったアキバvs.シブヤにおけるバトルの順番を意識して組んでいるので、その疑似再現になっているんです。なので、最後に火凛と零奈が出てくる、というのは入れたかったシーンですね。

石田:そこからまたノベルのセリフパートになるんですけど、ここのたまのシーンがめちゃくちゃいいんですよね。原点の話をしていて。

つづつ:最高。ここだろう、たまは!(笑)本当に、よく描けました。

石田:実は『You Are The Light』の歌詞デモが上がってきたのがちょうどノベルのシブヤ編を作っている時で、歌詞を見てノベルを書いていただいている久慈(マサムネ)さんにラストの展開を変えていただいたんですよ。最後の、零奈が火凛に追いつこうとするなかで、それまでに出会ったみんなのくれた光が胸の中で輝いて、もう少しで光に手が届きそうな気がした、っていう部分ですね。

子川:そして最後にカブキの面々が出てくるんですよね。

つづつ:そうですね。ハッピーエンドで終わりにするのはつまらないと思って、最後のほうに不穏な空気は覗かせています。

第1部の集大成を締めくくるのは「思い出」と「未来」

つづつ:『電音部』第1部のストーリーに1本の主軸があるとすれば、それはやっぱり零奈と海月のふたりにまつわる話だと思ったので、MVの締めはこのふたりにしています。

石田:この最後、ふたりがピアノに座っているシーンなんですけど、零奈は弾けないけど横にいる、っていうのがいいですよね。海月がいろんな劣等感を抱えていて、零奈とのわだかまりがDJや音楽を通じて解けていく、そのわだかまりが解消された結果このシーンになるというのが、本当にすばらしいと思います。

つづつ:今回、いろんなメディアやこれまでの『電音部』にあった要素を取り入れて、さまざまな形でMVに散りばめています。いつかの生放送で零奈役の蔀(しどみ)さんがライブで『夜明けのアンセム(Prod. 雄之助)』を歌う前にふたば役の堀越せなさんが背中をバシっと叩いて送り出したっていう裏話と、それに対して和音役の天音さんが「私も零奈の背中を叩きたかったなぁ…」というコメントを受けて生まれたカットもあったりします。そのような隠れた要素をどれだけ見つけられるか、というのがひとつ注目のポイントになると思います。

はなけん:本映像の目的のひとつとして「どんなファンでも楽しめるかたちにする」というものを置いています。そのため、つづつの言ったようなエピソードなどを知らなくても楽しめるMVになっていると思っています。そのうえで、電音部の音楽やキャラクター、物語を知っていれば知っているほど深く楽しむことができる、そんな映像です。

最初、今回のMVはストーリーっぽくする案とアルバムっぽくする案があったんですよ。初めて見た人に『電音部』の楽曲や世界を伝えるものにするか、これまで追いかけてくれていた人が涙してしまうようなものにするのか、どっちがより適切かというので迷っていたんですね。

でも制作を進めたり、打ち合わせを行うなかで、「これから先、電音部を知った人が1年後、2年後に改めて何度も戻ってこれる場所にしたい」という目的を伺いました。完成した映像を改めて見ると、結果的にストーリー性もあってアルバムっぽくもあって、両方がミックスされた内容になっているので、多くのファンが戻ってこれる場所になり得たんじゃないかなと考えています。

はなけん:今回つづつと話していた映像全体のコンセプトは、エリア内はもちろんライバルエリアとの友情を「思い出」というかたちで振り返ることができて、かつその先の未来が見えることでした。そのため序盤のAメロ、Bメロではつづつが最も得意とするエリア内のキャラクターの関係性の深掘りをしてもらって、間奏部分などでエリア同士の関係性を補強、ラスサビでは同じくつづつの得意とするオリジナルパートを入れて先の未来を見せるという見せ方をすごく大事にしていました。

『電音部』の楽しみ方にルールはない

――2周年記念MVの各シーンへの熱い思いを制作陣のみなさまから余すことなく語り合っていただきました。今回のインタビューをきっかけに『電音部』にご興味をもってくださった方や、これまでも追いかけてきてくださったファンの方々に向けてメッセージをお願いします。

渡辺:まず、数多のコンテンツがあるなかで『電音部』を好きになってくださった方々は、本当に仲間だと思っていることを伝えたいです。『電音部』のファンは楽しむことが上手で、楽しむことに対して積極的だと思うんですよ。

 『You Are The Light』の歌詞でも「今宵も ぼくらも 永遠(とわ)を織り成す 一瞬の光」、「限りある鼓動が響く」という歌詞があるんですけど、「人生が一度きりで、一期一会だということを知っている。だからこそ、この瞬間、この時を一緒に最高に楽しもうよ」という思いを歌に込めています。クラブカルチャーや音楽、そして『電音部』を愛してくださる人たちの、人生を全力で楽しむ気持ちを全肯定していきたい、という思いを込めて歌詞を書きました。これからも皆さまと一緒に『電音部』を楽しんでいきたいですし、『電音部』の成長にも期待していただきたいです。

つづつ:『電音部』は公式から発信される情報が大事な部分だけに絞られていることもあって、解釈の幅が広く残されているんですよね。しかも、ファンメイドコンテンツポリシーで楽曲も含めてファンアートを作っていいよと言ってもらっているので、自分なりの解釈を二次創作として表現できるんでから、ファンの作品で溢れかえっているんです。

この2年間でファンの方は増えたんですけど、個人的には作家の方にもっとハマってほしいなと思います。『電音部』っておもしろいな、私も何か作りたいな、と思った時に、それができるコンテンツなんですよ。これだけしっかりとした土台があって、自分の妄想や考えを、公式が認める範囲の中で世に出せるのは『電音部』だけかなと思います。僕も楽しませてもらっているので、この『電音部』という沼に、おいで、浅く浸かるだけでもいいから、おいで、って言いたいですね(笑)。

はなけん:これまでも応援してくださっていたファンとこれからのファンに共通して伝えたいことは、ふたつあると思っていて。ひとつは、つづつの話にもあったとおり『電音部』というコンテンツには余白がめちゃくちゃあることですね。余白があると、自分の考えをコンテンツに入れ込むことができるので、コンテンツが自分のものであるという感覚が強くなり、その結果としてコンテンツと自分とがどんどん混ざり合っていけるんですよ。

ファンメイドコンテンツポリシーを定めているのも、そういう風に楽しんでほしいというメッセージだと考えています。なので、すでに『電音部』を知っている人は自分の考えをどんどん発信してほしいですし、これから『電音部』に入る人は、そういう風に、能動的に楽しめるコンテンツなんだと思ってほしいです。

もうひとつは、その余白があるゆえの文脈性の深さだと思っています。沼に浸かるという表現はまさにそのとおりで、知れば知る程、「ここはこういうメッセージなんだ」というポイントが増えていって、MVで描かれる表情はノベルのあの部分とつながっているんだ、みたいな発見や考察が楽しめるので、本当に、深く沈める沼が用意されているんです。

つづつ:そうなんだよね。沼に無理矢理突っ込むんじゃなくて、用意してある。そこにあるよ、っていう感じなのがいい。

はなけん:ちゃぷんと浸かるだけでもいいし、本当にドブンと入ってもいいよ、という感じです。余白の広さとコンテキストの深さが合わさって、ハマると抜けられないようなコンテンツになっているので、そういうものだと思って楽しんでもらえたらと思います。

石田:クラブには音楽が好きな人もいればお酒が好きな人もいて、アニメが好きな人も、みんな並列的に存在しているんですよね。そのクラブカルチャーのいいところを『電音部』はリスペクトしていきたいと考えています。

『You Are The Light』は“You Are Right”、「みんな正しいんだ」みたいなダブルミーニングにもなっていて、MVに関してもそれは同じなんですよ。どの解釈が優れていて何がよくない、みたいなことはなくて、新しく『電音部』に触れた人が「自分はこういう風に見ました」と言ってくれていいんです。これまでずっと応援してくれている人も含めて、それぞれの解釈がどんどん出てきてほしいんですよね。

我々もそういった発信を促進できるようなコンテンツを、皆さまと一緒に作っていきたいと思っています。我々運営陣だけでなく、キャストの皆さまもそういった思いで作品に向き合っているので、これからもぜひご協力いただけるとうれしいです。

子川:本当にこの2年間、どんなかたちであっても『電音部』に接してくれていたファンの方、そして関わってくださったクリエイターの皆さま、関係者の方々にも感謝を伝えたいという思いが強いです。これから第2部が始まって、キャラクターたちにとってつらいことも起きるのですが、そんな時には『You Are The Light』のMVを見て元気を出してほしいなと思います。

これから『電音部』に触れる方々に伝えたいのは、『電音部』の楽しみ方にルールはないということです。楽曲だけ好きでも、イラストだけ好きでも、キャストの方が好きだからでも、どんなかたちで楽しんでいただいても構いません。そこから深く知ってもらうのもいいですし、ファン同士で好きな部分を語り合っていただくのも楽しいと思います。ファンのみなさまそれぞれの視点で、自由に、いろんな方法で『電音部』を楽しんでもらえたらと思います。

2年間の『電音部』運営のなかで印象的だった出来事や、2周年記念のベストアルバム、今後のファンコミュニティーのビジョンなどについて伺ったインタビュー前編はこちら↓

【編集後記】
2周年を迎えた『電音部』。後編ではすさまじい熱量で2周年記念MV『You Are The Light』を語っていただきました。これまでの要素と新しい要素を織り交ぜながら、余すことなく構成されたMVは必見です! 誰もが自分だけの楽しみ方ができるコンテンツ。そんな『電音部』の沼を一度覗いてみてはいかがでしょうか。

村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのインタビューや攻略記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。

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