「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」宇宙世紀の入り口となる作品に込めたこだわり【前編】

機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE制作陣

機動戦士ガンダムシリーズの宇宙世紀作品を集結させ、新規アニメーションも盛り込んだ「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」。本作を手掛けるバンダイナムコエンターテインメント、サンライズのキーパーソン4名に宇宙世紀にフォーカスした作品の開発に至った経緯や、そのコンセプトなどを伺いました。

1979年のアニメ『機動戦士ガンダム』放送以来多くのシリーズ作品を生み出してきた『ガンダム』。そのなかでも“宇宙世紀”は、『機動戦士ガンダム』で最初に描かれたことから、シリーズの原点ともいえる作品です。

そんな宇宙世紀を舞台とした作品群を集め、各タイトルの名シーンやダイジェスト、そして新規シナリオも楽しめるスマートフォンアプリ「機動戦士ガンダム U.C.ENGAGE」(以下、「ユーシーエンゲージ」)が2021年11月30日にリリースされました。

今回は、「ユーシーエンゲージ」の開発に関わるバンダイナムコエンターテインメントの藤原康則さんと國安秀隆さん、本作の新規アニメーション制作に関わるサンライズの仲寿和さんと福嶋大策さんに本作の開発経緯や宇宙世紀の魅力などを語ってもらいました。

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藤原 康則

バンダイナムコエンターテインメント所属

フィーチャーフォン時代からスマートフォンに至るまで『ガンダム』関連のアプリに携わり、「スーパーガンダムロワイヤル」や「ガンダムブレイカーモバイル」など12年以上に渡り多数のタイトルを手掛ける。「ユーシーエンゲージ」ではプロデューサーを担当。

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國安 秀隆

バンダイナムコエンターテインメント所属

「スーパーガンダムロワイヤル」、「ガンダムブレイカーモバイル」など『ガンダム』関連のゲームスマートフォンアプリのプロデュースを手がける。「ユーシーエンゲージ」では藤原と共に企画・開発・運営を担当。

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仲 寿和

サンライズ所属

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』といった近年の宇宙世紀に関わる作品を制作してきたサンライズ第1スタジオでプロデューサーを務める。「ユーシーエンゲージ」では初映像化となる『機動戦士ムーンガンダム』を含む新規アニメーション制作を担当。

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福嶋 大策

サンライズ所属

日本ロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターの安彦良和氏が手掛けた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』等のアニメーション作品を制作したサンライズ第5スタジオで多数の新作アニメーションの制作を担当。

サンライズとともに新たな『ガンダム』ゲームを作る

――まずは、「ユーシーエンゲージ」の開発がどのような経緯でスタートしたのかを教えてください。

藤原:現場から宇宙世紀のストーリーを体験できるゲームを作りたいという話が出てきたのがきっかけでした。その流れで、思い切ってサンライズさんと一緒に新作ストーリーを作っていくことを相談してみよう、という話になったんです。結果としてサンライズさんにも快諾していただいて、とんとん拍子に進んでいきました。

藤原 康則

――本作にはオリジナルの新作ストーリーがあるのと同時に、これまで映像化されて来なかった宇宙世紀シリーズ作品が、初めてアニメ化されるのも話題です。どのような流れで制作されたのでしょうか?

仲:まずはどんな話を作りたいかオーダーいただいて、そのなかでできることを模索してエピソードを作っていきました。ただ、アニメ側から見ておもしろくなりそうなエピソードが必ずしもゲームで魅力的に表現できるとは限らないとも感じていましたので、映像作品とゲームにおける物語性の違いについて苦労しました。

福嶋:例えば、基本的に戦闘シーンはゲームパートで表現することになるんですけど、アニメーションパートに戦闘シーンがないのも物足りないじゃないですか。そういった感じで、何をゲームで表現してどこをアニメで見せるのかのバランスは今でもよく議題に上るところですね。

國安:そうですね。最近になってようやくお互いの考えていることや求めていることが理解できるようになってきました。あとはどのように分担していけばスムーズに制作を進められるか、現在進行形で模索しています。

國安 秀隆

『ガンダム』のなかでも、宇宙世紀が持つ特別な魅力とは

――「ユーシーエンゲージ」は宇宙世紀を広く扱う作品ということで、皆さんのなかで宇宙世紀を舞台とする『ガンダム』作品で印象に残ったことを教えてください。

仲:やっぱり富野監督(※1)の書く、独特な会話劇ですね。僕自身は仕事で関わるまでは、最初モビルスーツ(※2)などに関してはなんとなく「かっこいいな」くらいの認識でした。

※1 富野由悠季監督:ガンダムシリーズの生みの親であるアニメ監督、演出家。数多くのオリジナルアニメーションを監督し国内外に多大な影響を与えたとして、令和3年度の文化功労者に選出された。

※2 モビルスーツ:ガンダムシリーズに登場する人型機動兵器のことを指す。

仲 寿和

――仕事として宇宙世紀に関わるなかで、どのような気づきがありましたか?

仲:例えばファンネル(※3)は地上では使えない、みたいなことですね。宇宙空間では浮かんでいるファンネルを感応波でコントロールするのですが、ファンネル自体は地上で動けるほどの機動力を持っていないので地上では実用的ではないんですよ。

※3 ファンネル:ガンダムシリーズに登場する小型兵器。ミノフスキー粒子を用いて感応波(サイコウェーブ)によってコントロールされ、無線で遠隔操作されながら搭載されたビーム砲で攻撃を行う。

新しいガンダムシリーズを舞台設定ごと考える場合、そういったテクノロジー部分も新たに設定を作ればいいのですが、宇宙世紀作品ではそうした“背景”がすでに構築されているんですよね。なので、宇宙世紀のテクノロジーでは何ができて何ができないのかを理解して取り組まないといけない。それが宇宙世紀もののむずかしさであり、魅力でもあると思います。

福嶋:僕がファンとして印象的だったのは、『機動戦士ガンダムUC』(以下、『ガンダムUC』)ですね。子どものころから『機動戦士ガンダム』などは観ていたのですが、やはり小さかったので当時はモビルスーツがかっこいいなぐらいの印象でした。

でも、そのあと大学に入って『ガンダムUC』を観てから作品としてのおもしろさや奥深さに気づいて、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下、『逆襲のシャア』)も含め過去の作品を観直しました。改めてガンダムを好きになるきっかけになったという意味で、『ガンダムUC』は自分のなかでほかの作品とは少し異なるポジションにあります。

福嶋 大策

藤原:僕は初めて観たのが『逆襲のシャア』で、当時まだ6歳だったので、話の内容は正直ぜんぜん理解できていなかったんですよね。ν(ニュー)ガンダムがサザビー(※4)を殴っているシーンしか覚えていないです。「殴るんだ!」って(笑)。

※4 ν(ニュー)ガンダムとサザビー:ともにガンダムシリーズを代表するキャラクターであるアムロ・レイとシャア・アズナブルの搭乗した機体。

でも大人になってから改めて観て、こんなにも奥が深くてむずかしい話だったんだなと思いましたね。これは6歳にはむずかしいなと。当時は本当にアムロとシャアの関係性もわかっていなかったんですけど、それでもサザビーがとにかくかっこよくて、プラモデルを買ってもらったのをよく覚えています。

仲:やっぱり『逆襲のシャア』は人生において何回も観る作品ですよね。私も最近仕事の関係で観直したのですが、こんなにすごい作品をよくあの時代につくれたなと、改めて驚かされました。

國安:『機動戦士Zガンダム』(以下、『Zガンダム』)もそうですけど、あの時代によくあの作品を、というのがすごいですよね。

仲:そうなんですよね。最近思ったのは、ガンダムシリーズでは作品ごとに戦争の構図が毎回変わっているということです。

最初は地球連邦軍とジオン公国の戦いで、それが『Zガンダム』になると連邦がティターンズとエゥーゴの組織に分かれて内戦が起きる。その後は勝ち残った組織とジオン残党の戦いになるけれども、そこで勝利した組織がまた“連邦化”して……という流れの先に『機動戦士Vガンダム』でリガ・ミリティアとザンスカール帝国の戦いが描かれる。

大きな戦争の主体が切り替わりながら断続的に争いが起こるなかで、あいだに『閃光のハサウェイ』のようなテロリズムの話も入ってくるじゃないですか。これは現実における戦争の構図が見せる変化と近いものがあると思うのです。そういった戦争のリアルさを踏襲しながら、毎回違ったかたちの争いを描くのが宇宙世紀のすごいところですよね。

機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE制作陣

國安:戦争の歴史としてのつながりもそうですし、メカの歴史という意味でもつながりが見えるのが魅力ですよね。僕は物語も好きですけど特にモビルスーツが好きで、例えば『ガンダム』と『Zガンダム』のあいだに『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』で描かれるガンダム開発計画の機体がいて、さらにその先にはこんな機体が開発されて……というつながりがあるじゃないですか。そういう設定考証がサンライズさんはものすごく凝っていますよね。

藤原:今回の「ユーシーエンゲージ」でもそうですが、すでにある宇宙世紀という歴史の中で、既存作品の先やあいだの話が生まれ、設定や世界観がさらに膨らんだり深掘りされたりしていくのは、宇宙世紀ならではのおもしろさだと思います。

福嶋:宇宙世紀という世界に対してマンガやゲームなどでさまざまな作品が展開され、そこからファンが行間やifのエピソードを想像して遊べるのも魅力ですよね。『ガンダム』以外にそういうIPは多くはないと思いますし、それが80年代、90年代のころからあったのはすごいなと。だからこそいまでも『ガンダム』は人気で、昔からずっと好きな人がいてくれるんだろうなと思います。

手軽さと迫力を両立した、こだわりのバトルパート

機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE地上戦

――「ユーシーエンゲージ」のゲームとしてのコンセプトを教えてください。

國安:コンセプトは3つあって、まずは宇宙世紀の『ガンダム』作品を網羅的に体験できることです。宇宙世紀の『ガンダム』作品って、アニメで全部観ようとすると1日、2日では終わらないじゃないですか。それを誰でも気軽に体験できるように、ゲーム内で過去の宇宙世紀作品をダイジェストで観られるようにしています。

ふたつ目は戦場の把握です。アクションゲームって自分の機体しか見えなくて、戦場全体の状況はわからないですよね。そうではなく、戦場をもっと俯瞰して自分が組み上げたチームの戦いを見よう、というのがポイントです。

そして最後は、自分の好きな作品だけを育てて楽しめるようにすること。スマートフォンアプリゲームだと、自分があまり知らないキャラや機体でも「強いから取っておこう」となりがちですけど、そうではなくて自分の好きな作品の機体をとことん強くする、という遊びを実現できるようにしています。

國安 秀隆

――それら3つの軸によって「ユーシーエンゲージ」が作り上げられたわけですね。バトル部分をオートにすることは最初から決めていたのですか?

國安:実は開発が始まった時点ではゲームシステムがまったく違っていて、プレイヤーの時間を占有するタイプのゲームを想定していたんですよ。しかし、スマートフォンアプリゲームのタイトルとしてもっと手軽に通勤中など隙間時間に遊んでもらいたいと考え、現在のかたちにたどり着きました。

というのも、『ガンダム』を好きな人は世代的にも幅が広くて、働き盛りの方もたくさんいるんですよね。通勤時間で遊びやすいようにというのに加えて、じっくり腰を据えて遊ぶ時間がなくなった人や素早い操作が苦手になった人でも楽しめるように、と考えた結果、現在のようなシステムができあがっていきました。ガッツリ遊びたい人にとっては「機動戦士ガンダム バトルオペレーション2」や「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス」シリーズなどがありますからね。

――バトルパートではモビルスーツのCG表現も注目されていますが、こちらはどんな部分にこだわられていますか?

藤原:開発はかなり前から行っていて、その期間中にじっくりと技術検証を重ねて最適化を行ったので、スマートフォンでサクサク動いて且つリッチに見えるというギリギリのラインに挑戦できていると思います。

カメラワークによってはそのままだと見映えが悪くなってしまうこともあるので、そういった時にはモデルに調整を入れてモビルスーツの動きが迫力あるものとして見えるようにしています。おかげさまで発表してからの反響もよくてうれしいですね。

藤原 康則

――本作は新規アニメーションを含む新作シナリオも注目の要素ですが、新作シナリオはどの程度のスパンで追加されていくのでしょうか?

國安:新作シナリオについては、月に1本のペースを予定しています過去作品についても、リリースした時点では入っていないものもあるのですが、運営していくなかで『機動戦士ガンダムNT』や『機動戦士ガンダム MS IGLOO』、『閃光のハサウェイ』などの作品も追加していきます。シナリオ面に関しては新作も含めすべて無料でお楽しみいただけます。

藤原:今回は扱う範囲を宇宙世紀に絞っているので、宇宙世紀の隅から隅まで出せるのは楽しみにしてもらえるポイントだと思います。すべての『ガンダム』作品を扱うタイトルだとあまり偏った機体の出し方はできないんですけど、本作なら他のガンダムゲームでも登場しないような機体を出すこともできるので(笑)。そういうディープな部分も楽しんでいただければと思います。

 

「ユーシーエンゲージ」で新たに描かれる既存キャラクターの新エピソードや、本作オリジナルの機体・エンゲージゼロとオリジナルキャラクターのペッシェ・モンターニュが登場する新規シナリオなどへのこだわりを伺った後編はこちら⇣

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©創通・サンライズ

取材・文/村田征二朗
1989年生まれのライター。しゃれこうべ村田、垂直落下式しゃれこうべライターMなどの名でも活動し、コンシューマータイトルやスマートフォンアプリのゲーム関連記事を執筆。原稿料の8割はプロレス観戦のチケット代に消える。